カルロの古代遺跡(1)
僕達はカルロの街の冒険者ギルドに行った。どうやら、本来中立のはずの冒険者ギルドもこの街では帝国の息がかかっているようだった。そこで、チャーリーという男に宿屋を紹介され連れてこられたのだが、チャーリーは宿屋の主人だった。
「シン君。さっきのチャーリーさんの言葉が引っ掛かるんだけど。」
「そうよね~。文明が進んでいても幸せそうじゃないよね。」
メアリーやマギーが言う通り、確かにさっきのチャーリー言葉が引っ掛かる。何かあるのかもしれない。
「夕食まで時間があるから、街でも歩こうか?」
「うん。」
僕達が街を歩いているとあることに気が付いた。どこの店もいろんなものが売っていて、品数も多い。お客もそれなりにいる。だが、不自然な点があるのだ。街には人がたくさんいるのに冒険者達の姿がほとんどないのだ。
「シン!ギルドでもそうだったけど、冒険者達の姿が見当たらないんだけど。」
「そうね~。マギーの言う通りだわ。」
僕達が宿に帰るとマーサさんが安心した顔をした。
「どうしたんですか?マーサさん。なんか顔色が悪いようですけど。」
すると、厨房からチャーリーが出てきた。そして、すべての窓を閉めて話し始めた。
「座ってくれ。」
僕達が椅子に座ると、チャーリーは真剣な表情だ。
「お前達。明日早朝にこの街から逃げろ!」
「えっ?!」
「お前達気付かなったのか?兵士達に尾行されていたのを!」
「そうだったんですか。」
「そうだったんですかじゃないぞ!ギルドにも冒険者がいなかっただろう。みんな古代遺跡に連れていかれたんだよ。古代遺跡で朝から晩まで発掘させられてるんだ。」
「なるほど、それで冒険者達の姿がないんですね。」
「そうさ。だから、俺はギルドにいて冒険者達が来ると他の街に逃がしているのさ。」
するとマギーが聞いた。
「でも、そんなことしてたらチャーリーさんが捕まっちゃうんじゃないの?」
「これでも俺は元Sランクの冒険者だ。あいつらだって俺には簡単に手は出せないさ。」
ギンが僕の顔を見た。
「やっぱりそうだったんですね?」
「何がだ?」
「この街に来た時から何か様子が変だとは思っていました。それに、チャーリーさんが凄腕の冒険者だってこともわかっていましたから。」
「お前達、何者なんだ?」
僕は偽装した冒険者カードを元に戻して見せた。
「そうか。お前達も全員Sランクだったのか!」
「ええ、そうですよ。尾行されてるのも知ってましたから。」
「なるほどな。じゃあ、どうしてこの街に来たんだ?観光じゃないんだろ?」
「そうですね~。古代遺跡のことを知りたくて来たんですよ。」
チャーリーさんは驚くと同時に警戒した。
「お前達、どこかの国に頼まれたのか?」
「違いますよ。この国の古代遺跡が有効活用されているのかどうか知りたかったんです。この国には戦車や銃がありますけど、あれって古代遺跡からの発掘品を模造したんですよね?でも、発掘品はそれだけじゃないんでしょ?あの窓だって、道路だって、他の国にはない技術ですから。」
「確か、シンとか言ったな。お前の言う通りだ。あれらはみんな古代遺跡から発掘されたものを改良したんだ。あんなものが発掘されたから、冒険者達が犠牲になってるんだ!」
「わかりました。チャーリーさん。冒険者達は僕達が解放しますよ。」
「お前達が?」
「ええ、そうですよ。ただ、古代遺跡も不要だと思ったらすべて破壊しますけど。いいですよね?」
「もちろんだ。だが、そんなことができるのか?」
「メアリー!前に出て!」
「いいわよ。」
チャーリーさんもマーサさんも不思議そうな顔をした。
「2人とも噂で聞いたことがありませんか?カナリア聖教国に聖女が現れたって。」
「確かにそんな噂を聞いたことはあるが、ま、まさか?!」
「そうよ。私が聖女メアリーよ。私達は、ディーテ様から直接この世界の平和を託されているのよ。」
「私達ってことは、シン達もみんな神の使徒なのか?」
するとマギーが言った。
「ちょっと違うけど、まあ、神の使徒と言われればそうなのかな~。」
チャーリーさんもマーサさんも驚いた。
「神様がこの国のことを考えてくれたんだね~。チャーリー!あなたも協力しなよ!」
「ああ、わかってるさ!」
それから僕達は作戦を考えた。古代遺跡に昼間乗り込んでもいいのだが、そうすると騒ぎが大きくなってしまう。そこで、夜になって警備が手薄になったところで忍びこむことにした。古代遺跡の入口まではチャーリーが案内してくれるようだ。その後は僕達だけで行動するつもりだ。
「チャーリーさん。さすがですね。こんな通路があるなんて誰も気づきませんよ。」
「当たり前だろ!俺はこの街で生まれ育ったんだぜ!古代遺跡だって俺の遊び場だったんだからな。」
するとマギーが聞いた。
「なら、古代遺跡の中も分かるの?」
「俺がガキの頃は地上部分しかなかったからな~。今の遺跡のことはよくわらんな。冒険者の一人がお宝を求めて発掘調査したら、地下への通路が見つかって、それからなんだ。」
魔力感知に複数の反応が感じられた。
「チャーリーさん。そろそろ遺跡じゃないですか?」
「おお、よくわかったな。もう、すぐそこだ!」
「なら、ここまででいいですよ。全部終わったら宿に戻りますから。」
「わかった。気を付けていけよ!マーサと待ってるからな!」
僕達は周りから見えない森の中にいる。木々の間から覗くと、兵士達が銃を持って2人一組で巡回していた。
「どうしますか?シン様。」
「騒ぎにしたくないから姿を消していこうか?」
「わかりました。」
僕達は姿を消した。そして、音を立てないようにして古代遺跡の中に入って行った。