司教のヨハネ
僕達はカナリア聖教国の街リオンのギルドマスターであるアレンに頼まれて司教の警護に当たっている。どうやら、教皇を選ぶ選挙に立候補をしているのかもしれない。そのため、命を狙われている可能性があるのだ。僕達が宿屋の部屋に集まって話をしていると、そこに冒険者姿の司教がやってきた。
「数日経っているのにご挨拶もしていませんで、申し訳ありませんでした。私は司教をしておりますヨハネといいます。この度は何度も助けていただいて感謝します。」
「やはりあなたが司教様でしたか?」
「ご存じだったのですか?」
「ええ、あなたから何やら神聖なオーラを感じていましたから。」
「さすがアレン殿が推薦されることはありますね。」
「アレンさんがですか?」
「そうですよ。アレン殿があなた方を推薦してくれたんです。」
アレンが推薦するということは、この人物は僕達が期待するような人物なのかもしれない。
「僕はシンです。彼女達は」
僕が言いかけると、ヨハネが一人一人を見ながら答えた。
「ギン殿にマギー殿、それにメアリー殿ですよね?」
「よくわかりましたね。」
「それはそうですよ。何度も助けられた上に、こんな美女達を間違えるわけがないじゃないですか。」
ギンもマギーもメアリーもニコニコしっぱなしだ。美女と言われたことがよほど嬉しかったのだろう。
「ところでヨハンさん。今、みんなで話をしていたんですけど、どうしてヨハンさんが狙われるんですか?」
するとヨハンさんは驚いていた。
「私が狙われたんですか?」
ヨハンさんは教皇の正体も何も知らないのだ。魔物の襲撃も荒くれ者達から喧嘩を売られたのも偶然と思っているのだろう。
「そうですね。僕達には魔物の襲撃が偶然とは思えません。知性を持たない魔物が、二手に分かれて攻撃をしてくるのは不自然です。」
するとギンが続けた。
「あの荒くれ者達は誰かに頼まれたように感じましたが。」
するとヨハンが考え込むような仕草をした。そして、僕達に言った。
「多分、私が教皇選挙に立候補したからかもしれませんね。」
「やはり、ヨハンさんは立候補したんですね?」
「はい。この国を変えたくて行動しました。だっておかしいでしょ?人族だけが神に愛された存在なんて!神々は全ての種族に平等であるべきです。私はそう思います。」
すると、メアリーが言った。
「ヨハンさん。その通りですよ。管理神ディーテ様もそのように言ってましたから。」
「メアリーさん!あなたはディーテ様にお会いになったんですか?」
「ええ、『夢の中で』ですけどね。」
「もしや、異国に現れた聖女というのはあなたのことですか?」
「多分そうだと思いますよ。」
すると、ヨハンがメアリーに跪いた。
「やめてください。ヨハンさん。神様達以外は平等です。私が言うのもなんですが、例え国王であっても神々の前では平等なんですよ。」
「まさしく聖女様ですね。メアリー殿は。すると、ギン殿やマギー殿、シン殿は?」
「いいじゃないですか。ヨハンさん。僕達のことは気にしないでください。」
「わかりました。それで、皆さんにお願いがあるんですが。」
「なんでしょうか?」
「選挙が終わるまで私の警護をお願いできないでしょうか?」
「そのつもりでしたよ。」
「本当ですか?!ありがとうございます!ありがとうございます!神々に感謝します!」
ヨハンは天に向かって祈りを捧げた。
そして翌日、僕達は聖都に向けて出発した。ヨハンは冒険者姿ではなくしっかり正装して2番目の馬車に乗った。
「もうすぐ聖都ビザンツだ。」
聖都の正門前は大渋滞だ。だが、司祭のヨハンが乗っているということで、僕達は違う門から中に入れてもらった。
「アラビックさん達はここまでだよね。ありがとうございました。」
「こっちこそありがとうな。大霊祭を楽しめよ!」
「はい。」
聖都に入ると騎士の姿がやたらと多い。どうやら彼らは聖騎士達のようだ。厳しい試験を受けて合格したのち、さらに厳しい訓練を積んでいるのだ。
「シン殿。この先に小さな教会があります。そこが目的地です。」
ヨハンに言われたとおり歩いて行くと貧民街にでた。目的の教会はその貧民街にあった。僕達が到着すると貧民街の人々が集まってきた。子ども達もだ。
「あっ!ヨハン先生だ!」
「ヨハン先生!お帰り~!」
子どもの大きな声が響き渡った。
「ありがとう。」
すると、貧民街の人達が教会に列を作り始める。気になったのかメアリーがヨハンに聞いた。
「ヨハンさん。あの人達はどうしたの?」
「ああ、彼らは怪我や病気で働けないんですよ。だから、私が治癒魔法で定期的に治してあげてるんですが、なかなか完治しないんです。」
僕達は到着したばかりのヨハンさんが、一人一人に治癒魔法をかけるのを見ていた。すると、遠くから女性が走ってきた。
「ヨハン!帰ってきたのね?」
「ああ、ベネット。只今。」
「只今じゃないわよ!私じゃ治癒魔法が使えないから、薬を購入するのが大変だったんだからね!」
「ごめんごめん。」
「その人達は?」
「ああ、僕の協力者だよ。」
「僕はシン。こっちはギン、マギー、メアリーです。」
「私はベネットよ。よろしくね。」
さっきから見ているが、どうやらヨハンさんの魔力が弱い様だ。そのために患者達が完治しないのだろう。すると、メアリーがヨハンのところに行った。
「ヨハンさん。私が治癒魔法をかけてもいいかな~?」
「いいんですか?」
「はい。」
「では、お願いします。彼らも喜ぶと思いますので。」
メアリーが教会に集まった人々に向かって手を広げ魔法を唱えた。
『パーフェクトヒール』
すると、空からキラキラと光の粒子が落ちてきた。それが人々の体に触れるとまるで吸収されるかのように消えてなくなっていく。
「お、おい!痛いのが治ってるぞ!」
「俺もだ!歩けるぞ!普通に歩けるぞ!」
「聖女様だ!聖女様が来てくれたんだ~!」
人々は大騒ぎしながら家に帰っていった。恐らく、これで僕達がこの街に来たことを間違いなく四天王シリウスに知られただろう。