馬車の護衛(2)
僕達はカナリア聖教国に入った。最初の街リオルのギルドマスターであるアレンに頼まれて、司教の乗る馬車の護衛を頼まれた。どうやら、大霊祭の前に教皇を選ぶ選挙があるようだ。そのため、司教が狙われる可能性があるとのことだった。途中の街で一泊して、翌朝に僕達が馬車まで行くとまだだれも来ていなかった。しばらく待っていると、冒険者達と一緒に司教達もやってきた。そして、リーダーのアラビックの掛け声で馬車が動き始めた。
「シン君。司教って真ん中の馬車に乗ってる白い服を着た人だよね?」
「メアリーも気づいたようだね。あの人は影武者だよ。本物は」
僕が途中まで言いかけるとメアリーが続きを言った。
「本物は一番後ろの馬車を護衛している冒険者よね?」
「さすがだね。そうだよ。」
「やっぱりね。おかしいと思ったのよ。だって、司教から神聖なオーラが出てないんだもん。」
どうやら襲われてもいいように、司教は影武者を用意しているようだった。すると、前方の森からオーガとゴブリンの集団が現れた。珍しく、2種類の魔物が共同で行動しているようだ。冒険者達は全員が前に出た。
「シン様。ゴブリン達はともかくとしてオーガ達は厄介ですよ。あの冒険者達は大丈夫でしょうか?」
「様子を見ようか。危なくなったら助けてあげて。」
「わかりました。」
リーダーのアラビックを先頭にして、冒険者達が魔物達に斬りこんだ。女性3人は後方から魔法で攻撃している。すると、後ろの森からオーガとゴブリンの別動隊が現れた。さすがにこれにはアラビックも焦ったようだ。何せ本物の司教が冒険者の恰好をして一番後ろにいるのだから。
「みんな。司教を守って!」
「はい。」
メアリーが司教の前に立ち、僕とギンとマギーがそれぞれ刀と剣を抜いて対処する。恐らく、司教の目には僕達の動きは見えないだろう。次々に魔物が地面に倒れていく。前を見ると、まだアラビック達が戦っているようだった。この場にとどまると、新たな魔物が来るかもしれない。
「ギン!マギー!やっちゃっていいよ。」
「うん!」
マギーとギンが前方の魔物達に突っ込んでいく。あっという間に魔物達を討伐した。冒険者達が馬車のところまで引き揚げてきた。
「お前達凄いな~!何者なんだ~?」
「アルベル王国から来た冒険者ですよ。」
「そうか。そうだったな。」
冒険者の常識として、他の冒険者のことは深く聞いてはいけないという考えがある。そのことを彼らも知っていたのだ。そして、馬車は再び王都に向けて出発した。
「シン様。あの魔物達、おかしくありませんか?」
「何が?」
「ゴブリンやオーガは本来知性を持ちません。ですが、統制が取れすぎていました。それに、同じ種族ならまだしも、別の種族が共同で人を襲うなど聞いたことがありません。」
「そうだね。スタンピートもそうだけど、誰かが魔物達を操っているとしか考えられないね。」
「でも、魔族の反応はありません。」
するとマギーが言ってきた。
「魔族の中には、ドラクおじさんのように眷属をたくさん抱えている人達もいるんだよね。四天王ともなればそれなりに眷属もいると思うよ。」
「もしかして、今回の魔物の襲撃は四天王の眷属が関係しているってこと?マギーちゃん。」
確かにマギーの言う通りかもしれない。
「その可能性が高いよね。四天王達は僕らの行動も把握してるみたいだからさ。」
「シン様の言う通りですね。どこで監視されているかわかりませんね。」
そして聖都の手前の街に到着した。さすがに、ここまで来ると人が多い。地方から大霊祭に参加しようとする人々で溢れかえっていた。
「みんな。もし司教が狙われるとしたらこの街だと思うよ。」
「そうよね。聖都で問題は起こせないもんね。」
「どうしますか?シン様。」
すると、僕達の前にドラクが現れた。
「シンさん。やっと来てくれましたね。お待ちしていましたよ。」
「ドラクさんに頼みがあるんだけど。」
「わかってますよ。一緒に来た司教を見張るんですよね?」
「お願いできるかな?」
「大丈夫ですよ。眷属に見張らせますから。何かあればすぐに連絡します。それと、この国の教皇ですが、どうやら四天王のシリウスが体を乗っ取っているようです。」
これにはメアリーが驚いた。
「ドラクさん。それは本当ですか?」
「間違いありません。」
「ドラクさん。大司教はどうなの?」
「大司教は人族ですが、シリウスの魔法で操られているようです。」
「なら、2人とも敵なんだね。」
「はい。どうしますか?」
「聖都に到着する迄に考えるよ。」
「わかりました。」
僕達は安心して街中を歩き始めた。他の街の司教達もやってきているようだ。僕達は食堂に入ろうとしたがどこも満席だった。仕方がないので屋台で肉串を買って食べているとドラクから連絡が来た。
“シン様。冒険者達と司教が怪しい人物達に囲まれています。”
“わかったよ。すぐに行くよ。”
「何かありましたか?シン様。」
「司教が襲われてるみたいだ。急ぐよ!」
「はい。」
僕達が現場に駆け付けると、冒険者達と荒くれ者達がケンカになっていた。
「アラビックさん。どうしたんですか?これは。」
「あいつらがいきなり喧嘩を吹っかけてきたんです。」
近くに兵士の姿も見えるが知らぬ顔で見ている。仕方がないので僕達がケンカを収めることにした。
「ギン。マギー。メアリー。喧嘩を止めるだけだからね。」
「はい。」
見物人達が周りでがやがやと騒いでいる。僕は荒くれ者達に大きな声で言った。
「これ以上騒ぎを大きくしたら大けがじゃすまないよ。すぐに立ち去りな!」
「ふざけるな~!」
グホッ ボコッ
僕に文句を言った男がその場に崩れ落ちた。ギンが対処したようだ。
「他に文句のある人はいる?いないなら立ち去った方が身のためだよ!」
荒くれ者達は男を抱えてその場から立ち去って行った。
「助かったよ。シン。」
「いいえ。警護をアルビックさん達に任せっきりだったので、こちらこそすみません。」
「いいってことよ。さて、そろそろ宿屋に戻るか。」
全員が宿屋に戻った。今日は全員が同じ宿屋だ。しかも、一人一部屋だった。僕が部屋でベッドに寝ころんでいるとギン達がやってきた。
「シン君。どうしてあの司教が狙われるのかな~?」
「もしかしたら、選挙に立候補でもしてるんじゃないの?」
「マギーの言う通りかもね。その可能性が高いかな。」
すると司教が僕の部屋にやってきた。