馬車の護衛(1)
僕達はカナリア聖教国の最初の街リオルに到着した。情報を得ようと冒険者ギルドに行ったのだが、そこでギルドマスターのアレンという女性にいろいろと質問された。どうやら僕達の情報が世界中のギルドに伝わっているようだ。
ギルドマスターのアレンと話をしていると、メアリーが何か言いたげな様子だった。
「いいよ。メアリー。」
「うん。」
メアリーは自分の思いを言いたかったようだ。
「確かに私は管理神ディーテ様から聖女だって言われたわ。ディーテ様も7大神様達もこの世界の平和を望んでいるのよ。なのに、この国では人族のみが神に愛されてるとか、おかしいでしょ!私はディーテ様の気持ちをみんなに伝えたいのよ!」
ギルドマスターは下を向いて考え込んでしまった。
「なるほど、聖女さんの気持ちはわかったわ。私も同じ意見だからね。」
ギルドマスターの身体が光始めてハイエルフの美女になった。その姿には見覚えがあった。
「もしかして、カレンさん?どうしてここに?アルベル王国のギルドマスターをやめたんですか?」
「違うわ!カレンは妹よ。私は姉のアレンだから。」
すると、メアリーが言った。
「この国は人族以外は認めないんじゃないんですか?」
「そうよ。だから姿を変えてるんじゃない!」
マギーが何やらモジモジしている。
「マギー!どうしたの?」
「あのさー。アイナノアさんやカレンさんもだけど、どうしたらそんなに大きくなるのかな~って思っただけだから。」
「プッ フッフッフッ マギーちゃんは正直で可愛いのね。」
「笑わないでよ!真剣に悩んでるんだから!」
「ごめんなさいね。でも、人ぞれぞれじゃないかしら。マギーちゃんは今のままが十分可愛いわよ。」
マギーが僕をチラッと見た。
「だから言ったじゃないか。僕は今のマギーが可愛くて好きだって!」
「だってー!」
それからアレンさんといろいろ話をしているうちに大分時間が経ってしまった。そこで、今日はこの街に泊まることにした。
「明日には馬車を護衛して聖都に向かうから、ゆっくり休もうか。」
「はい。でも、よかったですね。私達のことを秘密にしてくれて。」
「アレンさんも秘密がある人だから、私達の気持ちがわかるんじゃないかな~。」
「でも、どうして護衛が必要なんでしょうね?シン様。」
「盗賊でもいるんじゃないの?」
「マギーちゃん。ここは聖教国なのよ。盗賊がいるとは思えないわよ。」
「確かにギンの言うとおりだよ。明日、出発前にアレンさんに聞いてみようか?」
そして翌朝、僕達はギルドによってアレンさんに話を聞いた。アレンの話によると、どうやら大霊祭の前に教皇を選ぶ選挙があるようだ。選挙に参加できるのは聖教国内の司教だけだそうだ。そのため、多数派工作のために狙われる司教がいるかもしれないらしい。
「わかりました。アレンさん。つまり、馬車隊の中に司教がいるってことですね?」
「そうよ。お願いね。シン君。」
「はい。」
馬車は全部で3台だ。司教は真ん中の馬車に乗っている。僕達以外にも冒険者達が10人で周りを囲んでいた。すると、冒険者の一人が僕達に声をかけてきた。
「お前達見ない顔だな。どこから来たんだ?」
「アルベル王国ですけど。」
「アルベル王国?どうしてそんな遠いところから来たんだ?」
「ええ。大霊祭に参加しようと思ってきたんですけど、路銀が足りなそうだったのでギルドでお願いしたんですよ。」
「なるほどな。俺は『ブラックジャガー』のリーダーをしているアラビックだ。こいつらは全員、俺のパーティーメンバーだ。よろしくな。」
「僕はシンです。こっちはギン、マギー、メアリーです。」
「そうか。綺麗なお嬢さん方もよろしくな。」
『ブラックジャガー』のメンバーを見ると男性が7人に女性が3人だ。恐らく全員がBランク以上なのだろう。それなりに強そうだった。
「ところでシン達のランクはどうなんだ?」
「僕達はまだ全員がCランクです。」
「そうなのか。なら、もし馬車が襲われたら俺達の後ろに控えていろ!怪我をしてもしょうがないからな!アッハッハッハッ」
思わずうそを言ってしまった。でも、アラビックは意外にいい人かもしれない。1日目は何の問題もなく街に着いた。人数が多いため、宿屋には分散して泊まることになっている。僕達4人は同じ宿だ。だが、生憎部屋が2つしかない。
「前回はギンが一緒の部屋だったんだから、今度は私とマギーちゃんのどっちかよ!シン君もいいでしょ?」
「別にいいよ。」
マギーとメアリーがクジで決めたようだ。その結果、今回は僕とマギー、ギンとメアリーが同室となった。
「メアリー!残念だったわね!今回は私がシンを独占させてもらうから!ハッハッハッ」
「別に僕は誰のもでもないんだけどな~。」
「いいのよ。シン!あなたに拒否権はないの!私とギンとメアリーだけのものなんだからね!」
「わかったよ。」
その日は晩御飯を食べて久しぶりにマギーと一緒に寝ることになった。マギーが僕の手を掴んできた。ギンと一緒だ。そして、あっという間にマギーの寝息が聞こえてきた。やっぱりマギーは僕にとって可愛い妹のように思える。知らないうちに僕も眠りについたようだ。朝方起きるとマギーが昔のように大の字になって寝ていた。左足が僕のお腹の上にのっている。僕は左足をどけてじっくりとマギーの顔を覗き込んだ。思わず柔らかそうなほっぺをつんつんすると、マギーが目を覚ました。まずい!非常に気まずい雰囲気だ。
「何よ!シン!いきなり!」
「マギーのほっぺが柔らかそうだったから思わずツンツンしたくなったんだよ!」
「どうせ私はほっぺよね!」
「何が?」
「だって、ギンやメアリーのように大きくないもん!」
「誤解しないでよ!マギー!僕は別に彼女達にツンツンしたことなんかないからさ!」
「そうなの?」
「当たり前じゃないか!」
マギーがいきなり抱き着いてきた。丁度その時ドアがノックされた。
「シン様!マギー!朝よ!早くしないと護衛に遅れるわよ!」
マギーが慌てて僕から離れた。そして、二人とも身なりを整えて部屋を出た。
「どうしたんですか?シン様。」
「何が?」
「マギーと何かあったんですか?」
「どうして?」
「シン様もマギーもなんか余所余所しいので。」
「別に何にもないわよ!何を想像してるのよ!ギンは厭らしいんだから!」
「わ、わ、私は別に何にも想像なんかしてないわよ!変なこと言わないでよ!」
ギンもマギーも顔が赤くなった。
「まあまあ、遅れるわよ。急ぎましょ!」
メアリーがその場を丸く収めてくれた。