スパロウ王国の発展のために
そして翌朝、僕達はグリード侯爵の屋敷に行った。そこには待ち構えていたようにチャーチル国王もいた。
「おお、シン殿。お待ちしていましたぞ。」
「国王陛下もいらっしゃったんですね。」
「シン殿達がおいでになると聞いていましたからね。」
「それで、シン殿。お持ちいただいたんでしょうか?」
さすがに僕が手ぶらなのを見て心配になったようだ。でも、昨夜のうちに2つだけ作っておいたものがある。それを空間収納から取り出した。僕の目の前に黒い渦がいきなり現れて、その中から物を取り出したのでチャーチル国王もグリード侯爵も腰が抜けるほど驚いていた。
「これは空間収納っていう魔法ですよ。」
「そんな魔法が存在するとは。」
「皆さんは魔法について誤解しているようですけど。魔法は・・・」
僕が言いかけると、メアリーが説明し始めた。以前僕が魔法について説明したのを覚えていた様だ。
「そうなんですか~?魔法のあの長い言葉は必要ないんですか?」
「はい。魔法は魔力と想像力ですから。」
「皆さんといると驚かされることばかりですよ。」
ここで、僕は取り出した玩具の説明を始めた。最初はリバーシだ。遊び方が簡単なので、すぐに理解してもらえたようだ。グリード侯爵とチャーチル国王がムキになって遊び始めた。
「もう一つの玩具も説明したいんですけど。」
「すみません。つい夢中になってしまいました。」
もう一つはダーツだ。これもいたって簡単な遊びだ。やはり、グリード侯爵とチャーチル国王がすぐに夢中になった。
「2人ともいいですか?この2つの玩具に対してこのスパロウ王国が著作権を設定するのです。そうすれば、売れた分だけ国の税収になりますので国民に還元できるでしょう。」
「シン殿。その著作権とはいかなるものですかな?」
「商品を考え出した人以外が作って売る場合は、お金を払わなければいけないという仕組みです。だから、この2つの商品を売る場合には、1つ売れたら商品の1割をスパロウ国に納めるように決めておけばいいのです。」
「なるほど~。ですが、勝手に模造品を作る輩が出てきますよ。」
「そうですね。そしたら、商業神様にお願いしておけばいいですよ。著作権を払わずに同じような商品を売った場合は、商業神様から罰が与えられますから。」
「そんなことが可能なんですか?」
「ええ、可能ですよ。ちょっと待っていてください。」
僕は2つの玩具をテーブルの上に置いた。そして、片膝をついて両手を合わせるように2人に言った。グリード侯爵もチャーチル国王も僕の指示通りにした。そして、僕は商業神様に祈りを捧げた。
「商業神エルメス様!この玩具を献上いたします。代わりにこの玩具の著作権をお与えください。お願いいたします。」
すると、テーブルが光始め巨大な光の手が現れた。その光の手が玩具を掴んで消えてしまった。不思議なことに、玩具はそのままそこに残っている。
「これで、商業神様がこの商品の著作権を認めてくれましたから。」
「誠ですか?」
「はい。」
「ですが、今の手は何だったのでしょう?」
「ああ、商業神様ですよ。」
「ええ——————!!!ま、まさか、神が直接取りに来られたのですか?」
「そうですよ。まあ、普通は取りに来ないでそのまま承認されるだけですけどね。」
「シン殿!貴殿は一体何者なんですか?神獣であるフェンリル様や天使様、聖女様まで従えて、さらに商業神様まで呼び出されるとは、普通の人族とは思えません。」
「2人とも誤解しないでください。ギン達は僕の友人だし、旅の仲間ですよ。それに商業神様を呼び出したのでなく、勝手に来てくれただけですから。僕は普通の人族ですよ。」
「まあ、シン殿がそういうのであれば、そういうことですね。」
ギンもマギーもメアリーもニコニコしている。
「ありがとうございます。シン殿。この国を救っていただいたばかりか、このような案を考えていただいて。」
「僕が考えたのは少しだけです。まあ、ヒントを差し上げたぐらいですかね。後は自分達で知恵を絞って、この国の発展を目指してください。国民達の生活が安定してくれば自然に税収は増えます。そうなれば、その増えた税収でさらに国民達を豊かにできますから。」
「その通りですね。我々も頑張ろうぞ!グリードよ。」
「ハッ」
「ところで、シン殿。」
「何でしょうか?」
「実は先日の会議でも話が出ていましたが、もう一つ心配事があるのです。」
「西の帝国のことですよね?」
「よくご存じで。」
「私達が帝国も何とかしましょう。この国に手出ししないようにすればいいんですよね?」
「そんなことが可能なんですか?」
「わかりません。でも、やってみますよ。」
「シン!いっそ、帝国を滅ぼしちゃえばいいじゃない!」
マギーの過激な発言にチャーチル国王も焦っているようだ。
「マギー!いきなりそんなことしないよ。帝国の人達の考えもあるだろうからさ。」
「シン君。帝国の人達にどんな考えがあるの?」
「話を聞いてみないと分からないよ。でも、魔大陸に一番近い国ってことは確かだよね。」
「シン様がおっしゃる通りです。帝国の動きを見ると魔族への牽制にも感じられます。」
「だとしてもさ。シン。そのために他の国に戦争を仕掛けるのっておかしくない?」
「マギーの言う通りさ。どんな場合であっても戦争は人々を苦しめるだけだからね。」
僕達は、スパロウ王国の西側地帯に向かうことにした。
「シン君。もしかしてあの山を越えていくの?」
「それしかないようだよ。」
目の前には西大陸最大の山アルポス山が見えている。山の中腹辺りから白くなっている。恐らく雪なのだろう。
「シン。迂回路にしようよ。」
「マギー!迂回路を行くとなるとかなり時間がかかるわ!」
「でも、ギンさん。私もマギーちゃんの意見に賛成かな~。あの山はどう見ても標高10000mはあるわよ。」
「メアリーもマギーも心配しないでいいよ。別に山頂を目指すわけじゃないからさ。途中で山を迂回しながら進んでいく方法もあるしね。それに、あの辺りから大きな魔力を感じるんだよね。」
「魔族?」
「いいや。もっと神聖な魔力だよ。」