スパロウ王国の王族と貴族達
僕達はスパロウ王国へやってきた。王都を目指してく途中、ホタマシティーに立ち寄った僕達は、領主であるグリード侯爵の屋敷に行くことになった。僕は魔眼でグリード侯爵を見たがどうやら悪人ではないようだ。僕達が世界中を旅していると知ったグリード侯爵は世界中の国々について教えて欲しいと言ってきた。そこで僕は、北大陸の話は秘密にして中央大陸の話と東大陸の話だけした。
「この国に来て気付いたことがあれば率直に言って欲しい。世界中を回っている君達なら、何か不自然に思えることもあるだろうしな。」
「そうですね~。最初に思ったことは、この国には強力な魔物がいないってことですかね~。」
するとグリードは不思議そうな顔をした。
「えっ?!そうなのかい?」
するとマギーが自慢げに言った。
「そうよ。この国の魔物は弱すぎて面白くないわ!キングボアやキングベアのような美味しい魔物もいないんだもん。」
「気づかなかったが、その話は本当かい?」
今度はメアリーが答えた。
「グリード様。ギルドからの報告は上がっていないんですか?本来、強力な魔物が現れたら領主に報告があると思うのですが。」
「そういえば、ここ最近ギルドからの報告がなかったな~。」
そして、ギンが話し始めた。
「この前の街でもそうでしたが、冒険者の数が少ないように思います。なんか軍人になる冒険者が多いとか。」
「そうなんだよ。実は君達の耳にも入っているかもしれないが、この大陸にはホーク帝国という軍事大国があるんだ。小国を攻め滅ぼして属国化して領土を広げている国だ。その帝国がこのスパロウ王国に攻めてくるかもしれないという情報があってな。」
「確かに冒険者達にしても、お金になる強力な魔物がいなくなったのであれば、軍人になった方が収入がよくなるかもしれませんね。ですが、定期的に魔物を討伐する人達がいなくなればスタンピートの危険性が出てきますよ。」
「だが、シン君。強力な魔物がいないならスタンピートは起こらないんじゃないのかね?」
「もし、何者かが意図的に強力な魔物を1か所に集めているとしたらどうでしょうか?」
「そんなことが可能なのかね?」
「ええ、魔族なら可能でしょうね。」
「魔族がそんなことを?なぜだい?」
「この国を亡ぼすためじゃないですか?」
「それは一大事ではないか!」
「そうですね。僕の推理が当たっていたら大変なことですね。」
ここで、グリード侯爵は考え込んでしまった。そして、僕達に向き直って聞いてきた。
「シン君。君達は何者なんだね?」
「さっき話した通り、世界中を旅している冒険者です。」
「君達の推理が当たっているかどうかわからないが、可能性があるならすぐに国王陛下に進言しておかなければなるまい。どうだろう。一緒に王都まで来てくれないか?」
「いいですよ。どうせ王都に行く予定でしたから。」
「ありがたい。感謝するよ。」
その日のうちに僕達は馬車で王都ナポルに向かった。ナポルの街は他の国の王都に比べて小さかった。店もあるし屋台も出ているが、その数は少ない。また、店で売られている商品も品数や種類が少なく感じた。
「お恥ずかしい。我が国は小国ですので、他国に比べて王都といえども田舎なのです。」
「そんなことはないですよ。でも、何かしらこの国ならではの産業があれば、もっと豊かになるかもしれませんね。」
「その通りなのですが。国土が狭いために農業もそれほど盛んではありません。中央大陸に比べて産業も遅れていますので、魔道具も他国からの輸入に頼っているのです。」
「シン。何かいい考えはないの?」
「無理言っちゃだめよ。マギー!シン君だって何でもできるわけじゃないんだから!」
「そうですよ。マギー。シン様だってできないこともありますから。そうですよね?」
3人が僕の顔を見てきた。昔の僕なら、何の考えも浮かばなかっただろう。でも、記憶を取り戻した今の僕には様々な知識がある。地球はこの世界よりも文明がはるかに進歩していたのだから。
「ないこともないけどね。」
グリード侯爵が聞いてきた。
「シン君。何か考えがあるのかね?」
「まあ、そうですね。この世界にはほとんど娯楽らしいものがないですよね?娯楽用品なら簡単に作れるし、恐らく世界中で流行ると思いますよ。」
「確かにそうだな~。娯楽といっても、大人は酒を飲むだけだし、子どもは外で遊ぶぐらいだね。」
「後で、僕が作ってお見せしますよ。」
「そうかい。楽しみにしているよ。」
グリード侯爵は目を細めて僕を見た。何やら怪しんでいる様子だ。そして、僕達はグリード侯爵の屋敷に到着した後、冒険者ギルドに行くことにした。ギルドに行くとやはり冒険者の数は少ない。掲示板に張られている依頼にも討伐依頼はほとんどなかった。
「やはり、魔物が少ないようですね。」
「なんか気になるよね。」
僕達がギルドを出ると、軍人らしき人達が隊列を組んで行進していた。結構な人数がいる。そこに、グリード侯爵のところの執事らしき人物が慌ててやってきた。
「シン殿。すぐにお屋敷に来てください。」
「何かあったんですか?」
「はい。侯爵様とすぐに王城に行っていただきます。」
「わかりました。」
僕達はグリード侯爵の屋敷に行った。
「おお、シン君。すまないな。すぐに一緒に王城に来てくれないか。」
「わかりました。」
僕達が王城に行くと控室に案内された。そして僕達は謁見の間に行くことになった。大きな扉を開けると真っ赤な絨毯が玉座の前まで伸びていた。そこで、グリード侯爵に続いて僕達が入ってくと、左側に並んだ貴族達が蔑んだ目で見てきた。正装していないのだから当然かもしれない。右側には剣を持った兵士達が並んでいる。僕達はグリード侯爵の真似をして片膝をついた。
「グリード。陛下のご命令に従い、冒険者4人を連れて参りました。」
「グリード。大儀であった。わしはスパロウ王国の国王チャーチル2世である。面を上げるがよい。」
僕達が顔を上げるとそこには白髪で白いひげを生やした国王がいた。
「僕はアルベル王国の冒険者でシンです。こっちはギン、マギー、メアリーです。」
「そうか。それで、グリードの話によると、そなた達は世界中を旅しておるとか聞いたが。」
「はい。中央大陸と東大陸の国々を回ってきました。」
「なるほどな。近ごろ中央大陸や東大陸では魔族が悪だくみを働いたと聞いたが、それは誠か?」
「はい。事実です。」
貴族達は真剣な表情で聞いている。マギーはつまらなそうだ。ギンがマギーを注意した。
「我が国にも魔族が手を出そうとしているかもしれないと聞いたが、それも誠なのか?我が国は小国だ。魔族に何のメリットがあるというのだ?」
「魔族の中には世界の平和を乱す者達がいます。彼らの力の源は負のエネルギーです。この国の国民達が悲しみ苦しめば、それだけで彼らは莫大な力を得ることができますから。」
「それだけのために、我が国に被害をもたらそうとしているのか?」
すると、貴族達から声があがった。
「陛下。このようなものの言葉など信じられません。それよりも、我が国は帝国の脅威にさらされているのです。そちらの方が重要ではないでしょうか。」
「そうです!陛下!ミシシット伯爵の言う通りです。」
「わたしも伯爵の意見に賛成です。父上。」