反乱を企てる若者達
いくつか街を超えて、2日目の昼に王都フローランドに到着した。そして、僕達は一旦エディット伯爵達と別れて街を散策し始めた。街の様子は他の街と変わらない。だが、いたるところに警備兵がいる。
「シン君。何かあるのかな~。兵士が多いようなんだけど。」
すると目の前にドラクが現れた。
「シンさん。王都に着いたばかりで申し訳ありませんが、報告がりまして。」
「じゃあ、あそこの店で話そうか。」
「やったー!」
僕が指さした先にはフレッシュな果物を使ったデザート専門店のような店があった。僕達はそこに入った。お昼の時間を大分回っていたので、店の中には客はまばらだったがやはり女性客ばかりだった。
「話って何?」
「はい。どうやら貴族の次男や3男、それに街の若者達が集まって反乱を計画しているようなんです。」
「アレックス国王に対してなの?」
「いいえ。弟のガヤレル公爵に対してです。ですが、ガヤレル公爵側もすでに情報を掴んでいるようで、このままだと若者達が捕らえられて処刑されるかもしれません。」
「なるほどね。ここの空気がよどんで感じたのは負のエネルギーのせいだったんだね。」
「おっしゃるとおりです。本来このエネルギーは魔族の私にとっては甘美なものなのですが、今の私には重くのしかかった息苦しいものにしか感じません。」
「もしかしたら、ドラクさんもマギーと同じかもしれないね。」
「どういうことでしょう?」
「今は魔族だけど、前世では天界にいたのか知れないって思ったんだよ。」
「まさか、私ごときが。それは考えすぎでしょう。」
「そうかな~。あり得ると思うんだけどな~。」
そんな話をしていると、目の前においしそうなデザートが運ばれてきた。柔らかいパン生地の上に蜂蜜がかかっていてさらに甘いフルーツがのっている。女性陣は行きなり食べ始めた。
「美味しいわ~!最高よ!シンもドラクおじさんも早く食べなよ!」
「確かに美味しいですけど、これにシン様が作ってくれた冷たいクリームをのせたらもっと美味しいと思います。」
「ギン!何よ!その冷たいクリームって!私まだ食べたことないんですけど!」
「今度作ってあげるよ。」
「約束だからね!」
僕とドラクは頭に手を当てながら食べた。どうやら僕達には甘すぎるようだ。一緒に出てきたフレッシュジュースで流し込んだ。それから店を出て、僕達は若者が集まると聞いた場所に向かった。ところが一足遅かったようで、20人ほどの男女がロープで縛られて連行されていくところだった。
「どうしますか?シン様。」
「助けないの?」
「今はね。」
「どうして?シン君らしくないよ。」
「ガヤレル公爵は恐らく彼らを公開処刑にすると思うよ。」
するとギンは気が付いたようだ。
「そうですね。公開処刑を発表すれば、仲間が助けようと集まりますから、それを一網打尽にするつもりでしょう。」
「そうさ。それに、国民達の見せしめにもできるからね。」
「じゃあ、その時に助けるのね。」
「恐らく公開処刑には国王も同席すると思うし、いいタイミングじゃないかな~。」
「さすがシン君ね。」
僕達はエディット伯爵の屋敷に行った。そして、今見たことを話した。
「そうですか~。若者達が捕まったんですか。噂には聞いていましたが、本当に反乱を企てていたんですね。」
「そうみたいですね。でも、恐らく彼らの中に内通者がいたんじゃないかと思いますよ。」
「そうですね。王都に来てからの警備を考えると、そう考えるのは当然ですね。」
「エディット伯爵には内通者の心当たりはないですか?」
「わかりません。私はガヤレル公爵とは距離を置いていましたから。」
「そうですか。」
「それでどうなさるおつもりなのですか?」
「まあ、若者を見殺しにはしませんよ。」
「良かったです。若者はこの国をよくするために必要な者達ですから。」
「そうですね。」
エディット伯爵の屋敷を出て一旦物の森の家に帰った。そして翌朝、再び王都フローランドに来ると街のあちこちに立札が立っていた。その立札には『反乱者の処刑について』と書かれていた。どうやら、明日の午前中に王都の北にある処刑場で行われるようだ。注意してみていると、数人の男達が同じ方向に走っていった。
「みんな。後を追うよ。」
「はい。」
このままでは目立ってしまうので、魔法で姿を消して男達を追いかけていくと、王都の東の森の中に入って行った。
「どうやらここが彼らのアジトのようだね。」
僕達がアジトに行くと、木の陰からアジトの様子を伺っている男がいた。
「シン君。あの男はなにしてるのかな~。」
「もしかしたら、彼が裏切り者かもしれないよ。」
すると、全員が集まったのを確認したかのように男が建物の中に入って行った。
「遅かったじゃないか!ロバート!」
「悪い悪い!ちょっと野暮用があってさ。」
「ところでみんなは立札を見たと思うが、明日の計画を話そう。」
リーダーらしき男はロバートのことを疑うこともなく計画を話し始めた。4方向に隠れていて、仲間が処刑場に連れてこられたのを確認したら一斉に飛び出す計画だ。弓矢が10人、それ以外は剣か槍を持って戦うようだ。
「じゃあ、明日、時間には配置につくようにな。」
「オオ————!!!」
全員が建物から出て行った。そして、ロバートは速足でどこかに向かっている。僕達はロバートの後をつけた。すると、ロバートはガルロ子爵の屋敷に入って行った。僕達も入って行くと、庭でロバートが一人の男と話を始めた。恐らく子爵だ。次の瞬間、男が剣を抜いてロバートに斬りかかった。
「な、何をするんですか?子爵様!」
「お前はもう用済みだ!この場で死ね!」
「それはないじゃないですか!あなたに報告したら、僕を男爵にしてくれると言ったじゃないですか!」
「お前は4男だ。どうあがいたって家督は継げまい!」
「だましたんですね!」
「うるさい!死ね!」
カルロ子爵が剣を振り下ろす直前、僕はカルロ子爵の後ろに転移して剣を掴んだ。
「き、貴様いつの間に?!」
「ダメですよ。子爵さん。口封じのつもりでしょうけど。」
「な、何者だ?!」
「そんなことはどうでもいいでしょ。少しおとなしくしていてもらいますよ。」
ボコ
グハッ
僕がお腹に拳をお見舞いすると、ガルロ子爵は気を失った。それを見て、慌ててロバートは逃げ出そうとしている。ところが、そこにギン、マギー、メアリーが突然姿を現した。
ヒエー
「た、助けてくれ!僕は何も・・・」
「あなたよく言うわね。仲間を裏切っといて。あなた屑よ!生きてる資格はないわ!」
マギーの身体から怒りのオーラが出る。ロバートは地面を這いながら逃げようとしている。
「逃げられるわけないでしょ。」
ボコ
グワッ
僕達は2人をロープで縛って拘束した。そして翌朝、僕達は処刑場に向かった。