エディット伯爵
僕達はヤン王国の王都に向けて旅を続けたが、エディット伯爵の娘が毒に侵されていると聞いて、エディット伯爵の治める街ウエルスに立ち寄った。そこで、宿屋を取ったのだが、部屋が2部屋しか空いていなかったため、僕とギンが同じ部屋で泊まることになった。部屋で少し休んだ後、僕達は1階の食堂にご飯を食べに行くと、食堂にはお客が沢山いた。そこで、僕達は食堂の隅の空いている席に座って、女将さんのおすすめの定食を頼んだ。するとマギーが言ってきた。
「私達ってもう成人だよね?何時まで果実水なの?たまにはお酒を飲んでもいいんじゃないかな~。」
「マギーはお酒を飲んだことあるの?」
「シン!あなた、ずっと一緒にいるんだからわかるでしょ!まだないわよ!」
「私もお酒飲んでみたいな~。いいわよね?シン君。」
「ギンは?」
「興味はありますが、あの匂いがどうも無理ですね。」
「なら、ギン以外はお酒にしようか?」
「やったー!」
ギンだけは果実水にして、僕とマギーとメアリーはエールを頼んだ。周りの人達が飲んでるのを見ると、どうやら地球のビールと同じようなもののようだ。
「カンパ~イ!」
僕も初めてお酒を口にした。
「にがっ」
僕は一口飲んで一瞬でお酒が嫌いになった。
「お酒っておいしくないな~。僕は2度と頼まないよ!」
「なら、私の果実水を飲みますか?」
すると、メアリーが顔を赤くして言ってきた。
「ギ~ン!あなた、いつもシン君にくっついていてずるいわよ~!小さいころから一緒なんて~!羨ましすぎるんだから~!ヒックヒック」
メアリーはいきなり酔ってしまったようだ。マギーを見ると目が座っている。やはり、酔ってしまったようだ。
「ワ~ン!シンはいつまでも私のこと子ども扱いして~!ワ~ンワ~ン」
なんかいきなり泣き始めてしまった。2人ともまだほとんど料理を食べていない。
「どうしますか?シン様。」
「しょうがない。部屋まで運ぼうか。」
寝てしまった2人を部屋まで運んで行って、僕とギンは自分達の部屋に戻った。そして、ベッドに寝ころんで横になると、ギンが僕の手を握ってきた。
「本当に久しぶりです。こうしてシン様の温もりを感じるのも。」
「そうだね。でも、ギンはいつから気が付いていたの?」
「何をですか?」
「僕が天界から来た存在だってこと。」
「最初は疑心暗鬼でしたが、長いこと一緒にいて私自身が懐かしく感じるようになったんです。」
「そうだよね。ギンも元々フェンリルなんだから、何もなければ天界にいる存在だもんね。」
「はい。」
「でも、みんなには内緒だよ。」
「わかってます。ですが、この世界が平和になった後はどうするんですか?」
「僕にもわからないよ。また、どこかに修行に行かされるかもしれないし、それともこの世界にとどまるかもしれないしね。」
「そうですか~。シン様も自分で決められないんですね。」
「まあね。それこそ神のみぞ知るってことかな。」
そしていつの間にか僕達は寝てしまった。そして翌朝、食堂でギンと朝食を食べているとメアリーとマギーが起きてきた。
「頭痛い~!」
「シン!何とかして!頭が割れるように痛いんだけど!」
「しょうがないな~。2人とも。ちょっとじっとしてて。」
僕は2人に魔法をかけた。
『ヒール』
すると、2人の身体が光始めしばらくして光が消えた。
「ああ~、すっきりした~!さすがシンね。」
「ありがとう。シン君!」
その様子を調理場から女将さんとお主人が見ていた様だ。慌てて2人が僕達のところに来た。
「君は魔法で病気が治せるのか?」
「ええ、まあ。」
ご主人は女将さんの顔を見た。
「あなたにお願いがあるの!聞いてくれるかな?」
「なんでしょう?」
「ここの領主様は物凄くいい方なのよ。その領主様のお嬢様が病気なの。一緒に領主様のところに来て欲しいんだけど。」
「いいですけど。でも、見ず知らずの僕達が領主様に会えますか?」
「大丈夫よ。私も主人も元々エディット伯爵の屋敷で働いていたからね。」
「そうなんですか。」
僕達は2人に連れられてエディット伯爵の屋敷に向かった。2人が館の中に入って行ったあと、僕達は屋敷前で待っていた。すると、2人が執事のような男性と一緒に現れた。僕達はそのまま応接室に案内され、そこにエディット伯爵がやってきた。
「君かい?病気治癒の魔法を使えるのは?」
「ええ、そうですけど。」
「そうか。よく来てくれた。私はこの領地を任されているエディットだ。」
「僕はシンです。こっちはギンにマギーにメアリーです。」
「早速だが、娘を見てやってくれないか。」
「わかりました。」
僕達はエディット伯爵の娘の部屋に行った。そこには母親らしき人物と薬師がいた。
「伯爵。この方達は?」
「ああ、病気治癒の魔法が使える者達だ。」
「なぜそのような者達を。私は、ガヤレル公爵様から直々にお嬢様を治療するように言われてきているんですぞ!それを、このような訳の分からない輩を連れてきて、一体どういう了見ですかな!」
僕は魔眼で娘の様態と机の上に置かれた薬を見た。やはり、ドラクの言った通り毒薬だ。
「薬師様。その薬は何の薬ですか?」
「なぜ貴様にこたえる必要がある!」
「僕には毒にしか見えなかったので!」
僕の言葉を聞いてその場にいた伯爵も夫人も驚いた。
「な、な、何をふざけたことを!伯爵殿、この者どもを早く捕まえなさい!」
「ギン。マギー。やって!」
「OK!」
ギンが薬師の後ろに回り身動きできないように拘束した。そして、マギーが意地悪そうな顔をして薬師の口に薬を流し込んだ。
「な、ゴボッ、にをする!ゴボッ」
すると薬師は飲んだ薬を吐き出そうと必死になった。
グホッ グハッ
「無理よ!もう間に合わないわ。その毒があなたの身体に吸収されるのも時間の問題ね。」
その様子を見ていた伯爵は何が何なのか理解できない様子だ。
「メアリー!さあ。聖女の力を見せてあげて!」
「わかったわ!シン君!」
「聖女?!」
メアリーが手を広げて魔力を高める。すると、メアリーの身体から神々しい光が溢れ背中に純白の翼が見え隠れしている。
『パーフェクトヒール』
すると、メアリーの手から出た光が娘の身体を包み込んでいく。娘の身体から黒い靄が現れ、その靄は空中に霧散した。
「伯爵様。お嬢様はもう大丈夫ですよ。すぐに目を覚ましますから。」
この不思議な現象を黙ってみていた伯爵と夫人は、慌ててメアリーに跪いた。
「聖女様。ありがとうございます。ありがとうございます。」
「お礼は結構ですから、娘さんのところに行ってあげてください。」
伯爵と夫人が娘のところに駆け寄り上からのぞき込むと、娘はゆっくりと目を開けた。
「お父様。お母様。どうなさったの?」
「エリー!よかった!よかったー!」
その様子を見ていた薬師は足の震えが止まらない。いきなりメアリーに跪いて言った。
「聖女様。お許しください!私はただ、ガヤレル公爵に命じられてやっただけです。どうか、私の毒も浄化してください。お願いします!」
「薬師さん。それは虫が良すぎるよね。あなたもロンバルト子爵のように無限地獄に行った方がよさそうだね。」
僕は魔力を開放する。銀髪が逆立ち瞳が黄金色に変化した。全身から放たれる光は部屋全体を照らし出し、すべてのものを浄化する。
『ヘルダウン』
すると、薬師は頭上に現れた黒い渦の中に飲み込まれてしまった。そして、僕もメアリーも魔力を戻した。
「終わったね。」
「はい。」
「なんか、今回は私の出番がなかったかな。」
「いいじゃない。マギー。いつも目立ってるんだから!」
ハッハッハッ
僕達の会話を口を開けた状態で伯爵家の3人が聞いていた。
「皆さんはあのロンバルト子爵の館に現れたという神なのですか?」
「ロンバルトを退治したのは僕達ですけど、でも僕達は神じゃないですよ。」
「ですが、そちらの方は聖女だと。」
「そうですね。私は聖女メアリーです。」
「そうですか~。」