バンパイア族のドラク
僕達は中央大陸と西大陸を繋ぐ橋を渡って、ヤン王国の国境の街シャンに行った。王都を目指そうとしていた矢先、途中で盗賊らしき男達に襲われそうな馬車を助けたのだが、盗賊のような男達は近くの村の農民だった。僕達と商人はその男達の村に行ったのだが、畑は荒れ果てていて子ども達もやせ細っていた。そこで、空間収納から食べ物を取り出して村人達に振る舞ったのだが、リーダーのカムイが話しかけてきた。
「シンさん。この料理はアルベル王国料理ですか?」
「まあね。でも本当はジパン王国の味付けなんだけどね。」
「そうなんですか~。シンさんはジパン出身なんですか?」
「いいや。アルベル王国だよ。僕達は世界中を旅してるからね。」
すると、ここでギルバートが聞いてきた。
「羨ましい限りですね。このような美女達を連れて旅ができるなんて。」
「そうですね。みんな優しいですからね。」
「そうですか。ところで、この前アルベル王国で重大な会議があったと聞いていますが、何かご存じですか?」
アルベル王国で会議が行われたことについては、まだアルベル王国内でも一部の人間しか知らないことだ。
「ギルバートさん。あなた何者ですか?どうして会議のことを知ってるんですか?」
「ということは、やはり会議があったというのは本当のようですね。ハッハッハッ」
ここでギルバートが真剣な顔で言ってきた。
「アルベル王国内に出現した魔族が討伐され、ナルシア王国の貴族の反乱も鎮圧され、ジパン王国の内戦も収まり、さらにアラス王国まで復興したと聞いていますよ。何やらこの世界に聖女が現れたともね。」
ギン、マギー、メアリーが身構えた。
「そんなに殺気立たないでください。私は敵ではありませんよ。むしろあなた方の味方ですから。まあ、こんな話はやめましょう。今日は楽しい食事会ですから。」
「ギン。マギー。メアリー。大丈夫だ。ギルバートさんから悪意を感じられないから。」
「わかりました。シン様。」
宴会が終わり、みんなが家に帰って寝静まったころギルバートが僕達のところにやってきた。そして、いきなり僕に片膝をついて挨拶してきた。
「先ほどは大変なご無礼をしました。申し訳ございません。」
「ギルバートさんは魔族ですよね?」
すると、3人が驚いた。
「さすがですね。シン様。やはりご存じでしたか。私はバンパイア族のドラクと申します。是非とも、このドラクをシン様の配下に加えていただきたいのですが。」
「ドラクさんはどこまで知ってるのかな?」
「恐れ入ります。私には数万を超える眷属がおります。ですので、世界中の情報が入ってきます。」
「もしかして、世界樹のことも知ってるんですね。」
「はい。精霊女王のソフィア様がシン様の配下になったことも存じております。」
「別に配下になったわけじゃないよ。あくまでも友人だよ。僕は『人族』だからね。」
「承知しております。ならば、このドラクも友人にしてください。」
すると、マギーが僕に言ってきた。
「シン!ドラクおじさんはいい人よ。お父さんと一緒に魔王ディアブに抵抗してるのよ。」
「な~んだ!マギーは知っていたのか?」
「うんうん。気付かなかったよ。だって、いつもと全然姿も違うし、魔力を隠ぺいしてるんだもん。」
「そうか。マギーですら欺くほどの人なんだね。」
「恐れ入ります。マギーが近くにいたのでいつバレるかと冷や冷やしていましたよ。マギーが天使族に戻ったことを知ったら、この子の両親もどれだけ喜ぶことか。」
「わかったよ。でも、僕のことはシンさんでもシン殿でもいいから『様』は禁止ね。」
「畏まりました。」
「それでこれからなんだけど、ここの領主のことを調べたいんだけど、ドラクさんに頼めるかな?」
「お任せください。」
その後、ドラクはどこかに行った。残った僕達は魔物の森の家にいったん帰ることにした。そして翌朝、僕達が村に戻ると子ども達が元気に遊んでいた。どうやら、昨日の残った料理をみんなで食べたようだ。
「おはようございます。シンさん。」
「おはよう。カムイさん。」
「シンさん達は昨夜どこに泊まったんですか?」
「ああ、野宿したから大丈夫だよ。」
「え~。野宿ですか?そんな~。恩人を野宿させておいて、俺達だけ布団で寝るなんて!」
「気にしないでいいよ。みんな慣れてるから。」
「ところで、ギルバートさんはどちらに?」
「なんか用事があるからってどこかに行ったけど。」
すると、ギルバートが走ってやってきた。
「おはようございます。みなさん。」
「おはようございます。ギルバートさん。」
「シンさん。後で話があるんですけど。」
「わかったよ。カムイさん!また、後でね。」
僕達はギルバートと一緒に誰もいない場所まで来た。
「シンさん。やはり、想像していた通りですね。前の領主のロベルト子爵は弟のロンバルト子爵に毒殺されてますね。」
するとギンが聞いた。
「どうしてそんなことしたんですかね?」
「ロベルト子爵は正室の子でロンバルト子爵は側室の子どもだったようなんです。それで、自分が領主になれないと知って、ガヤルレ公爵に泣きついたようなんです。ガヤルレ公爵も現国王アレックスの弟なんです。側室の子ですね。同じ境遇の者同士で相談したようですね。」
「なるほどね。なら、アレックス国王も危ないんじゃないの?」
「そうさ。マギーの言うとおりだよ。」
「なんか、ドラクおじさん、シンに話をするときと違うんだけど!」
「当たり前じゃないか!おまえがまだ母親のお乳を飲んでいた時から知ってるんだぞ!」
マギーが真っ赤になった。
「それで、これからどうしますか?」
すると、珍しくメアリーがやる気を出した。
「私、そのロンバルト子爵は許せません。成敗しましょう。」
「そうだね。他にもいろいろ悪さしていそうだしね。」
「私は何をすればいいですか?」
「ドラクさんは王都に行ってくれるかな~。もう少しこの国のことを知りたいんだよね。」
「わかりました。では、後日。」
当然かもしれないが、ドラクも転移ができるようだ。その場から姿が消えた。そして、僕達は隣町の領主の館に向かった。領主の館のある街で僕達は不思議な光景を目にした。若い女性達が全員頭からフードを被っているのだ。
「あの~。ちょっと聞きたいんですが。」
僕が通りを歩いている女性に声をかけると、女性は逃げるように立ち去った。同じように他の女性達にも声をかけたが一緒だ。すると、前から兵士達が歩いてきた。
「おい!お前達どこから来た?」
「アルベル王国からですけど。」
すると、兵士達はにやにや笑いながら言ってきた。
「お前達、ちょっと調べたいことがある。俺達について来い!」
街の人達は気の毒そうな目で僕達を見ている。僕達の前を歩く兵士達の話が聞こえてきた。
「俺にも運が回ってきたぜ!こんな美人を3人も連れて行けば間違いなく出世できるぜ!」
「ああ、そうだな。だが、領主様にも困ったもんだな~。この街の女どもはみんな顔を隠すようになっちまったぜ!」
「まあ、いいじゃないか!女好きの領主様様だぜ!」
「男はどうするんだ?」
「お前知らないのか?領主様は男も好きなんだぜ!」
「本当か?」
「ああ、本当さ。ただ、かわいい顔してなきゃダメだけどな!」
「なら、俺達は安心だな!ハッハッハッ」
どうやら、この街の女性達がフードを被っているのは領主が原因のようだ。よほどひどいことをされるのだろう。そして、大きな屋敷の前まで来た。