いざ!西大陸へ
ギン、マギー、メアリーの修行の成果を確認した僕達は、アルベル王国の王都オリントにあるナダル伯爵の屋敷に行った。中央大陸と東大陸の使者が集まって、魔族に対抗するための会議が開かれることになっていると知って、僕達もその会議に参加した。そして、僕達の意見を取り入れてもらって、魔族へ対抗するための会議から世界の平和を協力し合う会議へと変わった。長い会議も終わり、僕達が再びナダル伯爵の屋敷に戻ると応接室に呼ばれた。
「メアリー。どういうことか説明してくれるね。」
「はい。実はエルフ王国で世界樹に行く前日に夢を見たんです。夢の中にお母様が現れて。」
すると、ナダル伯爵は驚いた。
「マリアが?」
「はい。お母様と光り輝く女性がいたんです。その女性がおっしゃるには、私は元々天使で、この世界を平和にするためにお父様とお母様の子どもとして転生したんだって、そうおっしゃったんです。」
「そうか~。その光る女性が管理神ディーテ様なんだね?」
「はい。」
「よく話してくれた。メアリー。」
「お父様。」
「たとえメアリーが元天使であろうと聖女であろうと、私とマリアの子だ。ずっとな。」
「ありがとう。お父様。」
すると、ナダル伯爵は僕の方を見て聞いてきた。
「シン殿。やはり君は神なのか?」
「どうしてですか?」
「フェンリルのギン殿。天使のマギー殿。そして、聖女のメアリーまで従えてるではないか。そろそろ本当のことを教えてくれないか?」
ギンもマギーもメアリーも僕を見つめている。ここではぐらかすわけにはいかない。でも、まだ僕にはやらなければならないことがたくさん残っている。
「ナダル伯爵様。その件はもうしばらく待ってもらえますか?時が来ればすべて話しますから。」
「そうかい。わかったよ。何か理由がありそうだからね。でも、シン殿に『様』をつけられるのは気が引けるな。」
「そんなことはないですよ。『この世界では』僕はナダル伯爵よりも年下ですから。」
「そうかい。わかったよ。『この世界では』ということなんだね。」
「ええ。」
それから僕達は今後の相談を始めた。僕達が行っていないのは西大陸と魔大陸だけだ。
「ナダル伯爵様。西大陸について教えてくれませんか?」
「ああ、いいとも。西大陸は最大の大陸さ。あの大陸にはいくつも国があってな。ホーク帝国、カナリア聖教国、スパロウ王国、ヤン王国の4つの国があるんだ。本当はもっとたくさんの国があったんだが、長い戦乱の中で滅んだり併合されたりしたから、今はその4つの国だけになってるよ。」
「そうなんですね。」
「この中央大陸と西大陸は昔は陸続きだったんだが、一部の土地が海に沈んでしまって、今は大きな橋がかけられているんだ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「特にホーク帝国は軍事国家だから注意した方がいいかもしれないな。」
「はい。」
その日はナダル伯爵の屋敷に泊まって、翌朝西大陸に向けて出発した。王都から西大陸に行くまでにはいくつか街があったが、なんの問題もなく通過した。そして、国境の街オタカまでやってきた。国境の街だけあって馬車の数が多い。街は商人達で賑わっていた。
「メアリー。橋の向こうは何ていう国?」
「確か~、ヤン王国ね。商業の国だった気がするわ。」
「でも、便利よね。橋があるんだもん。船に乗る必要がないじゃない。」
「マギーの言うとおりだよ。でも、この橋の管理はどっちがしてるんだろうね。」
「両方の国でお金を出し合っているってお父様が言っていたわよ。」
僕達がオタカの街を歩いていると様々な服の人達がいた。袖がない服。首のところに襟のない服。上下が一緒になっている服。
「ねえ、シン!服屋さんに行かない?」
「どうしたの?急に。」
「いいじゃない。ギンもメアリーも服を見たいでしょ?」
「そうね。でも、シン様が退屈になるんじゃないかな~?」
「いいよ。行っておいでよ。僕はここで待ってるからさ。」
「ありがとう。シン君。」
3人は服屋に入って行った。暇になった僕は小物を売っている店に入った。すると、いろんなものが売られていた。ポーション、魔石、懐中電灯のように光る魔道具、自動筆記の魔道具、本当にいろんな種類のものがある。時間が経つのも忘れて一つ一つ手に取って眺めていた。
「シン様。お待たせしました。」
振り向くと3人がいた。先ほどとは違う服を着ている。3人とも肌の露出が多い。ギンは色白で大きな胸が目立つ服装だ。メアリーは貴族らしからぬ冒険者風の服を着ている。マギーは背伸びしたのか、上下セパレートのミニスカート姿だ。
「3人ともすごく似合ってるよ。びっくりしたよ。」
「そうでしょう!私達のような美人はどんな服でも似合うのよ!」
「知らないうちにギンもメアリーも大人になったんだね。」
「シン君ったら、恥ずかしいわ!」
「考えてみればシン様と出会ってから、もう8年は経ってますからね。」
すると、マギーが怒った。
「ねえ、シン!私はどうなの?私は子どもってこと?」
「違うさ。マギーには今のままでいて欲しいんだよ。マギーにはマギーにしかない魅力があるからね。」
すると、怒っていたマギーは頬を赤く染めた。
「そうなのね。私にしかない魅力があるってことね。」
それから、お洒落なレストランに入った。僕が考案した料理は王都だけでなく、国中に広まっているようだった。
「シンが考えたこのオムライって何度食べても美味しいわね!」
「マギーちゃん。お口の周りが汚れてるわよ。」
「いいのよ。美味しく食べてるんだから。メアリーは細かいのよ。」
すると、横からギンがマギーの口を拭いた。
「マギー!あなたもレディーなんだから!メアリーさんの言う通りよ。」
なんか、3人のやり取りを見てると心が和んでくる。
「さて、食べ終わったら橋を渡るよ。」
「はい。」
僕達は橋を渡ってヤン王国に入った。