メアリーは聖女
ドワーフ王国でマギーの剣を受け取った僕達は魔物の森の家に帰ってきた。そしてその日は、魔物の森に狩りに出かけた。みんなの成長を確認すると同時に、マギーの剣の様子を見るためだ。みんなの動きも魔法も見違えるように成長していた。特にメアリーの成長には目を見張るものがあった。そして、さらにその翌日、アルベル王国の王都オリントに転移してナダル伯爵を訪ねた。メアリーが管理神ディーテ様から聖女認定を受けたことを話すためだ。当然、天界の修行については秘密にすることにしている。
「ただいま~!お父様~!」
「おお、メアリー。久しぶりに会ったが、お前どこか雰囲気が変わったんじゃないのか?」
「お久しぶりです、ナダル伯爵様。」
「久しぶりだな。シン殿。それにギン殿にマギー殿。あれっ?ミーア殿の姿が見えないようだが。」
「お父様。ミーアはアニム王国で両親と一緒に居るわよ。」
「そうかそうか。会えたのか。それは良かった。」
「お父様をびっくりさせるような話がたくさんあるのよ!」
「そうか。それは楽しみだな。では、後でじっくり聞かせてくれるかい?」
「どこか行くの?」
「ああ、今日は王城で大事な会議あるんだ。」
「ナダル伯爵様、聞いてもいいですか?」
「ああ、何でも聞いてくれ。」
「何を話し合うんですか?」
「実は、東の大陸のアラス王国が復興したんだよ。ジパン王国とともに、我が国とナルシア王国と4か国で魔族に対抗するための同盟を結ぼうという話があってな。他の国から使者がやってきているんだ。」
「そうですか。僕達も一緒に行っていいですか?」
「そうだな。シン殿達はすべての国と関係があるからな。是非ともそうしてくれるかい。」
「はい。」
僕達はナダル伯爵とともに王城に向かった。王城に到着するまでにいろんな話をしたが、天界のことと聖女のことは一切触れなかった。
「そろそろ王城だよ。」
「はい。」
「シン!誰が来てるのかな~?」
「知ってる人達ならいいわよね?」
「だって、メアリーはナルシア王国や東大陸には行ってないでしょ?」
「そうね。ギンとマギーが羨ましいわ。」
「今度一緒に行けばいいよ。」
「そうよね。」
王城に着いた僕達は控室に案内された。大会議室にはすでに各国からの使者が来ているようだった。
「シン様。みなさん。どうぞ大会議室にお越しください。皆さんがお待ちです。」
「わかりました。」
僕達が大会議に行くと、そこは円形状に座席が用意されていた。そして、座席を見渡すとみんな知っている人達だ。僕の姿を見て全員が席を立った。なんか僕が一番偉いような感じだ。正直あまり嬉しくない。僕は思い切ってみんなに挨拶をした。
「皆さんこんにちは。お久しぶりです。どうか席に座ってください。皆さんは誤解しているようですが、皆さんは各国の代表です。僕はこのアルベル王国の市民の一人にすぎません。過剰な反応は誤解を招きますので、今後は僕に気を使わないようにしてください。」
すると、ここで進行役のナダル伯爵が言った。
「皆さんもご存じの通り、シン殿は目立つのが好きではないようです。これからは私達の仲間としてはいかがでしょうか。」
するとナルシア王国のウイリアム第1王子が賛同した。
「私は賛成です。私がお会いした時もシン殿は謙虚で目立ちたがりませんでしたから。」
ジパン王国のシズヒサも同じ意見のようだ。
「シン殿がそれを望むのであれば私も賛成です。」
最後にアラス王国のガリレ老人が言った。
「そうじゃのう。シン殿は善行を施す時も目立たないようにしておったからのう。そうしたほうがいいんじゃろうな。」
「ありがとうございます。皆さん。」
そして、いよいよ会議が始まった。ここに参加している国の中には魔族の被害を受けた国もある。魔族を毛嫌いするのは当然なのかもしれない。話し合いは魔族を敵視した内容のものが中心だった。ここで、我慢できなくなったのか、マギーがみんなに言った。
「ちょっと私が発言していいかな~?」
司会をしているナダル伯爵がマギーを見た。
「意見があるようでしたらどうぞ。」
するとマギーは顔を真っ赤にして言った。
「みんなは魔族を誤解しているわ!」
全員がマギーに注目した。
「魔族全体が悪いんじゃないわよ!魔族の一部が世界の混乱の原因なのよ!魔族の中には平和を求めている人達だっているんだから!」
ウイリアム王子が質問した。
「どういうことだい?マギーちゃん。」
マギーが僕を見た。僕はゆっくり頷いた。すると、マギーは堕天使の姿になっていく。背中からは黒い翼が出た。
「ま、まさか、マギー殿は魔族なのか?」
「そうよ。私は堕天使族よ。父も母も魔大陸で仲間達と一緒に魔王と戦っているのよ。だって、平和な世界の方がいいと思ってるんだもん。」
全員が下を向いた。次の瞬間、マギーの身体が光始め、黒い翼は純白へと変化した。まさに天使の姿だ。
「これが今の私の姿よ。」
全員が目を丸くして驚いている。
「堕天使の姿の時は魔族だって嫌って、この天使の姿になった瞬間に敬うなんておかしいわよ!」
僕はみんなに言った。
「みなさん。先ほど魔族に対抗するための軍隊の創設とか言っていましたけど、その必要はありません。世界の平和を乱す魔族は、この僕達が討伐しますから。それよりも、この会議では、貿易や文化的交流について話し合った方がいいと思いますよ。」
いきなりメアリーが手をあげた。
「どうしたんだ?メアリー!」
「お父様。私は皆さんに伝えなければいけないことがあるんです。」
「言ってみるがいい。」
「実は、私は管理神ディーテ様からこの世界の聖女として転生させたと言われました。」
すると、参加者全員が驚きの声をあげた。
「おお!!!」
「聖女が現れたのか!」
ナダル伯爵がメアリーに言った。
「それで、管理神様は何とおっしゃったのだ?」
「はい。この世界に再び混沌が訪れようとしていると。シン君やギンさん、マギーちゃんとともにこの世界を平和にするように言われました。」
すると、シズヒサがみんなに向かって言った。
「これは管理神様からの神託だ!」
「そのようですな。諸君。魔族のことはシン殿達にお任せしようではないか。シン殿の言う通り、このエドモントも諸君も平和とは何かを真剣に考える必要がありそうだ。我々はいかにすれば人々が幸せで豊かな生活が送れるかを考えようではないか。」
「エドモント国王の言われた通りです。確か東大陸には調味料が豊富だと聞いています。我がナルシア王国でその調味料を輸入したいのですが。」
するとタカモリが言った。
「東大陸では正直学問が進んでいません。文化的に遅れているんです。できれば技術や文化を取り入れたいと考えています。」
「そうじゃのう。東大陸では中央大陸と違って文化が遅れておるからのう。」
その後、話し合いは魔族への対抗策から貿易や交流方法へと変わった。だが、ナダル伯爵はじっとメアリーを見ている。