2:今のこと・1
少なくても出来た友達と家族と、そして婚約者のピーテル様を待っていたのに。開始時刻になっても現れないピーテル様。我が家の使用人が外を見に行って来る、と言ってくれたのでお願いしようと思ったら兄も一緒に見に行くと出かけてくれた。そんな優しい兄を持って幸せだと思いつつ、忘れてしまったのかもしれないと諦めていた私。兄はパーティーを始めなさい、と言ってくれていたから家族と友達と十三歳の誕生日パーティーを始めた。
ぎこちなく祝ってくれる友達に申し訳なく思って、殊更に明るく笑って「ありがとう」 と言えばようやく友達も明るく笑ってくれて。家族からのプレゼントも友達からのプレゼントも開けて、喜ぶ。例えば友達の同じ男爵家の令嬢・カッツェ様からは髪を飾るのも躊躇してしまいそうな小さな宝石付きの髪留め。例えば子爵家の令嬢・リコリナ様からは鳥の羽をモチーフにしたペンダント。そしてもう一人のお友達である子爵家の令嬢・ロロナ様からは学校で使うのに必要な本を止めるバンド。これはカッツェ様とリコリナ様と四人でお揃いになるように同じストライプ柄で色違いなのだそうで、二人にもそれぞれあげていました。私が黄色。これはロロナ様の目の色。カッツェ様が赤。これは私の目の色。リコリナ様が水色でこれはカッツェ様の目の色。そしてロロナ様がリコリナ様の目の色をした緑色なのだそう。
「私達の友情は学校に行っても変わらないわ」
というロロナ様の力強い言葉に、私達は深く頷く。そんな誕生日パーティーを過ごしつつ、心の隅っこにピーテル様のことがあった私。兄と使用人が帰って来たのを見たのですが兄は憤慨し、使用人はそんな兄を宥めつつ、私を申し訳なさそうに見て、何となく理解しました。
「ピーテル様は、やっぱり私の誕生日パーティーのことを忘れていらっしゃったのですね」
私は困ったように笑っていたと思います。ピーテル様との交流など殆ど有りませんし、我が家にも向こうの家にも何か益が有るからといった理由もない婚約だと最近理解しましたし、ピーテル様を慕っているわけでもないですし、招待したのだから来ないなら来ないで連絡くらい欲しかったな、とは思う程度でしたから、兄と使用人の表情を見ても、悲しみとか怒りとかは湧き上がりません。
精々、またか、という諦めです。
「……パーティーが終わったら話そう」
兄の深刻な表情や使用人の気不味そうな表情を見るに、もしや違うのでしょうか……。でも確かに誕生日パーティー中です。嫌なことを話して折角来て下さった皆さんの気持ちを嫌な気持ちにさせるわけにもいきません。それ以上は尋ねずにパーティーを恙無く終えました。リコリナ様・ロロナ様・カッツェ様にもお礼と、学校でも仲良くさせて下さいね、とお願いして見送った後、使用人達に片付けをお願いして兄から話を聞きます。
「ピーテルは、学校に行ってから好きな人が出来たそうだ」
私は、想像していなかったことを聞いて、え……と声を溢してました。
「そして、その好きな人との距離を縮めるために今日は出かけた、と……。ピーテルの家の使用人から聞かされた。ピーテルの家族はシフレーの誕生日パーティーに出かけたとばかり思っていた、とその話を聞いて真っ青になっていた。ピーテルに好きな人が出来た事すら知らなかったらしい。その使用人は、ピーテルに金を渡されて、よくその好きな相手に手紙を持って行ったり会いに行くのを誤魔化したりしていたそうだ。ピーテルの父親は、その使用人に、誰に雇われているんだ! と怒鳴りながら解雇していた」
確かに雇い主はピーテル様のお父様ですからね……。というか……ピーテル様には好きな人が……。
「で、では、ピーテル様は近々私との婚約を解消するつもりだった、と……?」
「その使用人が言うには、おそらく、と。好きな人と仲が急接近していたらしい」
それはつまり、相手の女性もピーテル様のことをそれなりに思っていらっしゃる、ということでしょうか。
なんだか物語の話みたいで、自分に起きていることだと思えません……。
「シフレー、大丈夫、か?」
「……分かりません。色々、考えたいと思いますので……部屋に戻ります」
兄の痛ましげな表情を見ながらも、今の話を考えたくて部屋へ戻りました。
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