1:初顔合わせからこれまでのこと・2
その後のピーテル様ですが。
お父様に叱られたのが気に入らなかったのか、それとも私に謝ったのが気に入らなかったのか。他人の目がある時は会話はなかったものの静かな時間を過ごし、他人の目が届かなくなった途端に
「何故お前みたいな変な髪色の女に俺が謝る必要があるんだ!」
とか
「その血のような目を俺に向けるな! 気持ち悪い!」
とか。
そんな暴言ばかりでした。私は、どちらが本当のピーテル様のお姿なのだろう? と判断に迷いました。その、兄や姉の友人達と接している時も、兄や姉がいる時といない時では態度が変わる人が多かったので、どちらが彼らの本当の姿なのか判断に迷うばかりで。ピーテル様もそんな彼らと同じ人だと思うと、どんな対応をすればいいのか混乱したのです。
こう言ってはなんですが、子ども過ぎた私は、外面を良くする人達の変わり身の速さについて行けず、対応が分からずにオロオロするばかり。それは、ピーテル様に対しても変わらず、そのうちにそんなピーテル様の態度に慣れてしまって、私に言いたい放題仰るということは、私に気を許したからなのだろう、とそんな風に捉えることになりました。
いえ、今思えば、そう考えて自分の傷ついた心を守っていたのかもしれません。
兄や姉の友人達に対しても同じようなことを思いましたから。
ただ。
不思議なことに、兄も姉も学校に通い出したら、それまでのご友人方とは距離を置かれるようになったのか、時折家に呼ぶ学校の友人方は、今までの方達ではない、見知らぬ方達ばかりになっていました。
あまり、兄と姉の交友関係に口を出さない私でも、一度だけ「今までのお友達とは会わないのですか?」 と尋ねてみたら、二人は「学校で会っているからそれでいい」 と返してくれたので、それ以上は尋ねませんでした。
この時の私の心境は、心から安堵した、というものでした。
もう、兄と姉の友人達から陰でコソコソと意地悪を言われたりされたりしなくていい、と。
二人を悲しませたくないので言いませんでしたが、血のように赤い目が気持ち悪い、というのは何もピーテル様だけのことではなく、二人の友人から言われたことも有りますし、二人の友人達の何人かは、私が歩く所へ足を出して引っ掛けて転ばせて来たり、ちょっと強めに背中を押して転ばせて来たり、という方達もいらっしゃいました。
その他、兄と姉は母似で私は父似なのに、二人に似ていないことで私は本当にこの二人と血が繋がった妹なのか、実は貰われっ子ではないのか、と私の耳元で囁いてくる人だっていました。
そんな方達と会わなくていいのは、本当に嬉しかったのです。
さて、二人の友人達とは会わなくて済んで安堵しましたが。でも婚約者であるピーテル様は何も変わりませんでした。兄と姉は婚約者と頻繁に会うし、お出かけに行き、贈り物もしていたようですが。私は……三十日毎の交流が「忙しい」 と五十日毎に、それも直ぐに「忙しい」 を理由に全く会わなくなりました。辛うじて三年程会っていたでしょうか。四年目には全く会わなくなりましたし、此方が定期的に贈り物をしようと会いに行っても会ってもらえず、使用人の方に預ける日々。誕生日プレゼントも一生懸命考えて送ったのに、お礼状も届かず、私の誕生日には素っ気なく誕生日おめでとうの一言が書かれたカードだけ。
それでも思い込みの強い私は、いつかピーテル様と仲良くなれる、そう思って頑張っていました。
そして全く会わなくなってからおよそ二年。本日十三歳の誕生日。引っ込み思案の私は、それでも何人かのお友達も出来まして、そのお友達も招いて初めての誕生日パーティーをする事になりました。それまでは家族だけの祝いだったのですが、学校に入学する年の誕生日にパーティーを開くのは、貴族の慣習です。我が家も端くれとはいえ貴族ですから、今年は私の誕生日パーティーを開く、と張り切っていました。
婚約者が居る人はこの時にお披露目をすることもあります。もちろん、私もそのつもりでピーテル様に招待状を送りました。参加の返事はなかったですけど、さすがに今日が私の誕生日だということは、カードを下さっているからご存知だろうと思っていましたから、返事が無くても参加してもらえるだろう、と思っていたのです。
お読み頂きまして、ありがとうございました。