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リコリナ様の名前を勝手に教えてしまうという失態から九日後。今回は談話室の予約が取れた、と言っていたカッツェ様とロロナ様の四人で勉強会です。四人で互いの苦手な所を教え合っていたのですが。到頭四人で居ても分からない場所が出て来てしまい、急遽図書室で辞書を借りてきましょう、という事になりました。今回はロロナ様と私で図書室へ行き、借りて来ることになりました。
それにしても覚えることがいっぱいです。外国語が苦手なのもそうですけど、法だって点数は取れていても平均スレスレの点数ですから、気は抜けません。だからこそ辞書の存在は有り難いのですけど。
「あ、君っ」
図書室から無事に必要な辞書を借りて談話室へ戻る所で、背後から声がかかりました。何だろう? とロロナ様と二人で顔を見合わせて振り返ると、あの公爵子息様が立ってました。……ええと?
「公爵子息様、でしたよね? こんにちは」
呼びかけられた以上(周囲には私達以外居ないので)ご挨拶しました。パニックにならず落ち着いて、と自分に言い聞かせながらです。
「こ、こんにちは。ええと、私はロベルト。よろしく」
自己紹介されてしまいましたから、今度はきちんと私の名を名乗らねばなりません。それにしても、本当に、なんで、公爵子息様は私達に声をかけて来たのでしょう。緊張しますけど名乗らないと。学校では身分差は問わないですし、家名も正式(公の場)の挨拶ではないので名乗らなくても許されます。
「私はシフレーです」
「ロロナです」
「あの、シフレー嬢。少し時間をもらえるだろうか」
「ええと、今、勉強会を開いてますので急いでます……」
「そうか。では、明日の放課後は?」
「従兄二人と帰ります」
「では、そのお二人と帰る時に私も共に帰ってもいいだろうか?」
「それは、その、従兄達に尋ねないと」
「うん、明日の放課後に直接頼むよ。それで許可が得られればいいかな」
「はい」
「ありがとう。話をしてみたい、と思ったんだ。では明日の放課後」
なんだかよく分からないうちに、ロベルト様との約束が取り付けられていました。ロロナ様に夢かどうか確認しましたら、現実ですよ、と穏やかに微笑まれました。そうですか。現実ですか。
その後、なんとか談話室に戻って勉強会を再開したものの私は未だに実感出来ずに、何だかフワフワした心持ちになってしまいまして。カッツェ様もリコリナ様もロロナ様もそんな私の気持ちに気付かれたようで微笑ましそうな顔になられたり呆れ混じりの顔になられたり、で。
「今日はもうシフレー様がこのような状態ですから勉強会になりませんもの。終わりにしましょうか」
というカッツェ様の一声で終わらせてしまいました。
私が悄気ているとリコリナ様とロロナ様が気にしないように慰めつつも、ロベルト様がどのような話をするのか興味津々とばかりに、明日のお話の内容を教えて下さいませ、と約束を取り付けられてしまいました。
その後。
皆さまと、三人の護衛さん達と共にシリックとデリックが来るのを正門で待って皆で仲良く帰りながら、私は従兄二人に明日の放課後の事について伝えました。
「ロベルト公爵子息? 確かデリックと同い年だったな?」
シリックが顎に手を当てて首を捻る。シリックの視線を受けたデリックが頷く。
「目の色のことで少々不快なことがあったみたいで前髪を伸ばしていることくらいしか知らない。シフレー、何かあったのか?」
淡々としたデリックの物言い。でも何かと言われても思い当たることがなくて。私は首を傾げるしかないのです。
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