1:初顔合わせからこれまでのこと・1
過去編
初顔合わせは、七歳の時。ピーテル様は私の顔を見て顔を顰めました。
「汚い色の髪だなぁ。なんだっけ。あー、錆びてる? 錆びたシルバーだな! しかも目の色も血みたいで気持ち悪い! そんな真っ赤な目をして化け物かよ!」
はじめまして、の挨拶をした私に対して、はじめましてと返すこともなければ名乗ることもなく、この発言をされた当時の私は悲しくて悲しくて泣き出しました。この時、父は何も言わなかったですが(後から物凄く怒っていたし、大人気なくも怒鳴り散らしたかったと教えてもらいました。ただピーテル様のお父様に任せただけだそうです)ピーテル様のお父様はピーテル様を思い切り叱りつけました。
「お前はっ! 何を失礼なことを言っているんだ! 錆びているとはなんだ! しかも血みたいで気持ち悪いだの、化け物だの! ルビーのような目で可愛らしいではないか! 髪はその宝石を輝かせる落ち着いた色だろう!」
ピーテル様のお父様がそう仰ってくれたから、私は泣くのをやめました。まだスンスンと鼻を啜ってはいましたけれど。お父様に叱られたピーテル様は、嫌々だと分かる顔で「悪かったな」 と謝りました。これが謝罪ならば……ですが。初対面でこれですが、私は「分かりました」 と受け入れました。
兄と姉の後ろをいつもついて回っていた末っ子の私は、兄と姉の友達が遊びに来ても引っ込み思案で常に人の顔色を窺っていました。二人の友達の中には、私の引っ込み思案な性格を嫌う人も居たこともあって、流石に初対面から暴言を吐かれたことは無かったものの、私の存在を兄と姉の見えない所でわざと無視されることもしばしばあったから、嫌々でも謝ってもらえたから、それでいい、とその時の私は判断しました。
今から思えばこれが良くなかったのでしょう。
私は両親の言う通りに生きることが両親の願いだとこの頃には思い込んでいまして、父が決めた以上、この人と結婚することが私にとって良いことなのだ、と勝手に思っていました。今思えば、父がそんなことを言ったわけではないのに、少々思い込みの激しい私は、この婚約が父の最善だと思ってしまったのです。
だから私はこの人の言うことを反論する、という気持ちを持ってもいけない、と思っていました。また、謝ってくれたのだから悪いことだった、と反省してくれたのだろう、とも思ったのです。親に怒られたからただ謝っただけ、というピーテル様の気持ちにはこの時の私は気づいていませんでした。
ピーテル様とピーテル様のお父様が帰られた後、父から
「婚約はやめようか?」
と尋ねられた時、既に思い込んでいた私は、こちらが無理をしてまで婚約をやめることなんて出来ないだろう、と更に思い込みを強めましたし、謝ってくれたのだから次に会った時はきっと上手くいく、と勝手に思っていた事もあって
「いいえ、だいじょうぶです」
と答えました。父は既に私が少々思い込みが強いことにも気づいていましたし、おそらくは我が家に遊びに来た兄と姉の友達の態度とそれに対する私の反応も使用人から報告されていたことから、この頃の私に何を言っても思い込みが解けないと判断したらしく、何も言わないことにした、と後から教えてもらいました。……おそらく父の懸念通り、聞いても頑なになっていたのではないか、と自分でも思います。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
過去編はサクサクと進みます。