10:行き倒れ⁉︎・2
「ありがとう」
呟くようなものだけど男性の声でお礼を言われた私は、聞こえてしまったらしい……と知って途端に頬が熱くなってしまう。耳も熱いからきっと真っ赤なのでしょう。恥ずかしいことを言ってしまいました。
「あの、すみません、恥ずかしいことを言って……」
小声でかつ早口で謝ったので、多分お相手には聞こえていないと思うけれど。恥ずかしいことを言ってしまった羞恥心で謝ることにいっぱいいっぱいだったので、お相手の方も照れているなんて視線を逸らしたままの私には分かりませんでした。
それからリコリナ様が間に入って声をお掛けした理由を説明すれば、公爵子息様は頭を掻いて「心配をかけてしまい申し訳ない」 と頭を下げられました。
身分の高い方から頭を下げられて固まる私とリコリナ様。下げっぱなしの公爵子息様に気づいて慌てて頭を上げてもらうように伝えました。
「こ、ここここここ、此方がっ、勝手にっ、ししししししし心配したことですからっ! 起こしてすみませんっ」
慌てた私はそれだけ言ってリコリナ様の手を引きその場を後にしようと踵を返しました。
「あ、待って! 名前を訊いてもいいかな!」
「り、リコリナ様ですわっ」
サッとリコリナ様のお名前だけを答えた私。公爵子息様からだいぶ離れた所でリコリナ様が「シフレー様」 と声をかけていらして、足を止めました。ずっとリコリナ様の手を引いたままのようでして、慌てて離しました。
「リコリナ様、ごめんなさい。手を痛めておりませんか」
「大丈夫です。シフレー様は、思い込みが強いと仰ってましたし、人見知りの強い方なのも存じてましたが、慌ててしまうとパニックになるみたいですね」
クスクスと笑うリコリナ様は本当に優しい。改めて「ごめんなさい」 と言えば軽く頭を振ってから「気にしてませんよ」 と笑ってくれました。
「それにしてもシフレー様ってば公爵子息様に私の名前を伝えてしまうとは思いませんでした」
「……えっ?」
「えっ? って……公爵子息様にお名前を尋ねられたら、私の名前を伝えていましたでしょう?」
「……名前を訊かれました?」
慌て過ぎたから覚えてません。
リコリナ様が目をパチパチさせて先程のやり取りを教えてくれました。
「確かに……名前を尋ねられたみたいですね。私……勝手にリコリナ様の名前を教えてしまいましたか……。ごめんなさい。身分が上の方に頭を下げられてパニックになってしまったみたいで、よく覚えていなくて」
大失態です。勝手にリコリナ様の名前を教えるなんて失礼過ぎることをしました。謝っても謝りきれません。許可無く名前を教えるなど誰であっても危険です。とくに男爵位とはいえ、末端でも貴族の私達は、人攫い等の危険もあって軽々しい行動や言動を慎まなければならないのに。公の場で名前を名乗るのとは訳が違うのです。
「シフレー様がそのような状態だったから、仕方ないです。もちろん、お相手が公爵子息様だから良かったというのもあります。でも次は落ち着いて下さいね」
諭されて項垂れます。
そうです。相手が学校の生徒でしかも公爵子息様だから、不穏なことにはならないでしょう。でも、やたらとこのような行動を取っていては、自分も周りも危険に身を晒します。落ち着く。その通りです。
「それにしても、自分の名前を名乗らないなんてシフレー様ってば、面白いですね」
ふふっと笑ったリコリナ様に、咄嗟のこととは言え、自分の名前を名乗らないのは人見知りのせいかもしれない、と自分でも苦笑いをしてしまいました。
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