9:呪いの王子・1
図書室で辞書を探すよりも前にお話になってしまいましたが、それについてカッツェ様がリコリナ様とロロナ様に図書室前で会った人のことを説明しました。
「呪いの王子? 私も知りませんけれど、知らないと困ることですか?」
カッツェ様の説明にリコリナ様がヘニョンと眉を下げます。ロロナ様も「私も知りません」と困ったように笑いました。カッツェ様が驚いてお二人を見ます。どうやら知らなくてはならないお話ではなかったようでちょっと安心です。
「まぁお二人もご存知なかったのですね? 呪いの王子のお伽話は有名だと思っていました」
カッツェ様がそのようにお話しながらお伽話の呪いの王子についてお話して下さいました。
「絵本も昔はあったようですけど、今は無いみたいですから知らなくても当たり前なのかもしれませんね」
前置きするカッツェ様が話すには……
昔、魔女が居たころ。その魔女があまりにも美しい王子に恋をしたけれど、王子は婚約者が居るから、と魔女の求婚を断った。それに怒った魔女は王子に呪いをかけた。その呪いとは、王子の目を紫色に変えること。王家には紫色の目の持ち主は誰も居ないことから、一日で金色の髪に緑の目だった王子が紫色の目を持つことになってしまい、魔女の怒りを買った王子として嫌われるようになった。その上、その王子が婚約者を大事にしていたことから婚約者の令嬢が早く死ぬように、という呪いまでかけられた。婚約者の令嬢は本当に早く死んでしまったので、王子は呪われた王子として皆から嫌われるようになった。王子は皆に嫌われてしまったことで悲しみ病気になって若くして死んでしまった。
というお話なのだそう。
「それであの方を呪いの王子と仰ったのですね」
カッツェ様のお伽話を聞いた私は、しみじみと呟きました。確かに先程お会いした方は紫色の目をしていましたから。
「でもお伽話ですよね? その方には何の関わりも無いのでは?」
ロロナ様が首を傾げてカッツェ様に尋ねます。
「それが。本当かどうか知らないですけれど、噂ではあの方も婚約者様を亡くされているそうです」
カッツェ様が声を潜めてお話します。
まぁ! 婚約者さんを亡くされていらっしゃるなんて……きっと悲しい思いをしたのでしょうね。
「えっ、では、本当に呪いなんです⁉︎」
リコリナ様が声を上げてしまったので、自分でハッと口元に手を当てました。
「さぁ……ただ、そういう噂、ですね」
カッツェ様は曖昧に笑います。
それにしても。
「カッツェ様はよくご存知ですね?」
そこが疑問でしたので私が尋ねますとカッツェ様は、先程の方についてお話して下さいました。
「あの方は公爵家の五番目のご子息だそうです。ホラ、ご夫妻がとても仲良いと評判の」
「ああ、あの公爵家」
リコリナ様が素早く頷かれたので有名なのでしょう。私は相変わらず物知らずのようです。物知らずなのも直さないといけないところですね。
「あの公爵家は王家から嫁がれた王女がいらっしゃいますから呪いの王子と同じ人が現れてもおかしくないと思います」
カッツェ様がちょっと厳かに言います。でも。
「結局、その王子様はご結婚しないで亡くなられたのですよね? 王家の他の方に魔女の呪いがかかってないなら、あの方も偶然ではないのですか?」
私はそこが気になったのです。その王子様がご結婚して子孫が残っているなら、もしかしたら魔女の呪いを受け継ぐ人も居るかもしれませんけど。王子様はご結婚しないで若くして亡くなったのなら呪いが受け継がれるとは思えないのですけど。
「それもそうですね。魔女が居たというのも本当かどうか分からないというのが今の皆の認識ですし」
ロロナ様もうんうん、と私の意見に頷いてくれます。
「そういえば、そう、ですね。お母様が高位貴族の侍女を務めていたことから今でもそのお仕えしていた方からお話を聞くみたいで、そんな噂がある、とお母様が聞いてこられたのです。しかも婚約者様を亡くされているのは本当らしいので、私は信じてしまいましたけど。考えてみましたら魔女が居たのか分からないですし、その王子様が実際に居たとしてもお子様はいらっしゃらなかったわけですから、呪いが受け継がれるわけはありませんね。あの方に失礼なことをしてしまいました」
カッツェ様は私とロロナ様の意見を聞いて、ハッとされました。先走ったことを言っていると反省していらっしゃるようです。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




