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なんでか分からないけどパーティークビになりました

「な、なんでだっ!?なんでてめぇ立てるんだよっ!?折ってやった筈だっ!ボコボコにして、立てないようにしてやった筈だっ!なのにどうしてっ!なんでっ!?」


 筋骨隆々の男が得体のしれないものを見るような顔で叫び散らかす。その眼前には一人の青年。背丈も筋肉も男に遠く及ばない、細身の青年がいた。


「なんでって……だってそれは」


 この国では極めて珍しい黒髪をかき乱しながら、青年―――ユーリはなんでもないことのように返す。


「俺、【アイテム使()】だし」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 冒険者を志すならパラディーアに行け。とはよく言ったものである。


 パラディーア王国。大陸随一の巨大な冒険者ギルドを有するこの大国は、賢王アジュール・イル・パラディーアの統治の元長き平和を実現していた。


 冒険者―――それはギルドを経由して仕事を受ける、いわば何でも屋だ。


 東の山の魔物を討伐しろと言われれば東に向かい、西の海から魚を運ぶ荷車を護衛しろと言われれば西に向かう。


 勿論単身で行動する冒険者もいないではないが、主に4人からのパーティーを組んで動くスタイルが彼らの基本である。


 そしてパラディーア王国に数ある冒険者パーティーの中でも最強の呼び声高いのが、『大いなる翼』である。


 同世代に一人しか現れないと言われる特殊職業、【勇者】をリーダーに持つかのパーティーは、パラディーアに知らぬ者のない超有名なパーティーだった。


 【勇者】アリス・エデン。


 【武闘家】レイン・クロシェット。


 【魔法使(まほうし)】ローズ・ファティマ。


 【アイテム使】ユーリ・ユーベル。


 いずれも名の知れた手練れの冒険者たちの集まりである『大いなる翼』に、しかし今史上最大の試練が訪れようとしていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「解雇よ、ユーリ」


 その日リーダーのアリスに呼ばれるや否やそう切り出され、ユーリは頭に大きな?マークを浮かべた。


「次のお仕事かい?しかし解雇って、また何やら剣呑なお話だね。もうちょっと詳しく依頼内容聞かせて貰いたいんだけど?」


「…………違くて」


 頭を掻いてぽややんと返す呑気な青年に、怜悧な美貌の銀髪のリーダーは頭を振った。


「貴方を今日を以てこの『大いなる翼』から除籍する。って言ったの」


「………………………………………………………………………………はい?」


 あまりに素っ頓狂な発言に、まず第一にユーリは耳の異常を疑った。しかしその耳に異常がないことはアリスに食って掛かったパーティーメンバーの存在で立証された。


「ちょ、ちょっと!いきなり何言い出してるのよアリスッ!ユーリを解雇!?何!?気でも違った!?」


 泡を食ってアリスを問いただしたのは燃えるような赤髪が目を引く吊り目の美少女だった。名をローズ・ファティマ。『大いなる翼』が誇る頼れる【魔法使】である。


「ユーリは私たちになくちゃいけない大事なメンバーでしょう!?と言うか、誰が抜けてもうちは立ち行かなくなるわよ!それを一つの相談もなく解雇とか意味が分からないし、冗談なら冗談で悪趣味だわ!」


 竹を割ったような性格と言うのだろうか、賢さを持つ代償として偏屈さを煮詰めたような人種が多い【魔法使】の中にあって、ローズはきっぱり駄目なことは駄目、分からないことは分からないと言う少女だった。ユーリもまたその彼女の性格を好ましく思っていたし、そのスタンスに助けられたことは一度や二度ではきかなかった。


「…………うん、意味不明。ちゃんと説明して欲しい。アリス」


 ローズの言葉に乗ったのは青い髪の小柄な少女だった。【武闘家】レイン・クロシェット。アリスと並んでパーティーの前衛を張る彼女もまた、珍しくその顔に不機嫌さを浮かべて【勇者】を見つめている。


 一方で唐突に解雇を言い渡された当の本人は何がなんだか分からず、おろおろと動揺する様子を見せていた。


「ど、どうしたんだろう?何か俺気に障ることしたかい?も、もしかして昨日のオオウサギ肉の包み焼きにアサミ茸を入れてたことバレた……とか!?」


「っ!?あれだけアサミ茸は入れないでって言っておいたのに……。いや待って、入ってたの!?全然気づかなかったんだけど?」


「刻んで入れたからね。アサミ茸は健康にいいんだから好き嫌いは駄目だよアリス。はっ!それともこの間あげたポーション用ポーチがお気に召さなかった……とか!?」


「いや違くて……アレは好きな色だったし、デザインもいいし……その、ありがと。大事にしてる」


「ちょっと待ってポーション用ポーチ?それ私聞いてないんだけど。何?なんかアリスだけ特別にユーリから貰ってたの?」


「……レインも気になる。私使ってるの市販品。ユーリから貰ってない」


「いや、この間アリスが使ってるのに穴が開いて丁度暇だったから自作の新しいのをあげたんだよ。そんな大したものじゃないって。しかしそうじゃないとなると……まさかこの間キミが酔っ払って俺の家で盛大に暴れ散らかしたことが関係して……?」


「~~~っ!い……っ」


 いつの間にかアリスの顔は真っ赤に染まっていた。怒りかそれとも別の感情によるものか定かではないが、少なくとも彼女が何らかの激情に耐えかねているのは紛れもない事実だった。


 傍らにある聖剣にアリスが手を伸ばしたのを見て、流石にパーティーメンバーたちも総毛だった。この世に5本しか存在しない、【勇者】たる者のみ持ち得る最強の剣をアリスはあっさりと抜き、振り下ろした。


「いいからさっさと出てけぇーーーっ!」


 強烈な光と共に、ユーリの身体が宙を舞う。結局、ユーリは理由も何も分からないままパーティーの共有ハウスから強引に放り出されたのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 フーッフーッと獣のように肩で息をしながらユーリの荷物を道路に放り投げるリーダーの姿を見て、ローズとレインは呆気に取られていた。まさかアリスが理由の一切を説明することなく物理的にユーリを放逐する強硬手段に出るとは思ってもいなかったのである。


「い、一体何があったのよ……?ユーリが本当に何かしたって言うの?」


 おずおずと尋ねる【魔法使】に、アリスはおおよそパーティーメンバーに向けるものとは思えない剣呑な眼差しを向けた。なまじ顔が整っているだけに迫力あるその視線に、ローズのみならず横のレインすらも思わず佇まいを直した。


「ローズ、『大いなる翼』の鉄の掟、言える……?」


「鉄の掟……?そんなのあった?」


 真面目にローズは覚えていなかった。そもそも今でこそ冒険者パーティーとして名を馳せているこの『大いなる翼』だが、元はと言えば幼馴染同士の仲良し集団である。全員が全員幼い頃からの友達で、いつの間にか全員が冒険者への道を歩みいつの間にか冒険者パーティーとして認知されるようになっていたのが『大いなる翼』という集まりだった。


「………………………………パーティー内恋愛禁止」


 ぼそりとアリスがこぼしたそのワードに、一瞬でローズとレインの二人が硬直した。如何にも都合が悪いですとでも言いたげに目を逸らした両者を、アリスは恨めしそうな目で睥睨する。


「ローズ、昨日また間違えたふりしてユーリがお風呂入っているところに突撃したでしょ?私が数えてるだけでもう6回。流石に偶然の事故で片づけられる回数じゃないと思う」


「い、いやー……あはは、ちょっと注意力散漫だったかなぁ……って、ねえ?」


「レインは注意するのも億劫だけど、どうして毎朝毎朝貴女はユーリに首根っこ掴まれて彼の寝室から出て来るの?夜這いなり朝駆けなりしてるとしか思えないんだけど」


「…………知らない。済んだこと。まだヤりたいことはヤってない。未遂」


 冷汗を垂らしながら弁明にもならない弁明を繰り出す二人に、アリスは大きくため息をついた。


「パーティー内の恋愛は余計な不和に繋がる。特に複数人が同じ相手に懸想している時は余計にね。まかり間違って戦場でその不和が表出する前に一番の原因を締め出した。そういことよ」


 言うと、アリスは二人を置いて共有ハウスの広間を出た。そのままとある一室に入ると、何の躊躇いもなくベッドにぼふっと倒れ込む。


「………………………………………………ユーリの匂い」


 大半の荷物を強引に放り出し閑散とした部屋の中にあって、家具一式だけは残っていた。アリスは甘えるようにベッドに顔面を押し付け、ぐりぐりと擦り付けてみせる。


 『大いなる翼』リーダーとして尤もらしいことを言ってはみたものの、そもそもアリス自身も言い訳の余地なくユーリに惹かれていた。それ故パーティーから追い出すことに苦痛を感じないでもなかったが、それ以上のメリットが彼女にはあった。


「これで、大手を振ってユーリにアプローチ出来る……」


 冒険者パーティーとしててギルドに『大いなる翼』の登録申請をした時はこんなことになるとは考えてもいなかったが、結局彼女は自分で定めたパーティー内のルールに自縛されていた。


 結果的にはローズもレインも覚えていなかったのだから取り越し苦労ではあったが、仮に覚えていた場合やっぱり恋愛禁止のルールは無しと彼女が宣言したが最後、二人は今以上に苛烈にユーリにアプローチしていただろう。


 それを嫌ったアリスは、こともあろうに想い人をパーティーから追放することで自分の恋愛を成就させる筋道を作るという強引極まる手段に打って出たのである。


 傍から見れば馬鹿と言わざるを得ない暴挙だが、アリスは決して馬鹿ではないどころかむしろ頭が回る方だ。ただ恋愛絡みになるとIQが3くらいにまで落ちるというだけである。


 そんな性質のため、アリスは気付いていなかった。自分が大手を振ってアプローチ出来るようになったということは、恋敵たちもまた同条件になったということである事実に。


 普段のクールな表情は何処へやら。先のことを妄想してにへらとにやけるアリスは、この後起きる数々の苦難などまるで想像出来ていないのであった。

初めまして。道渡イマと申します。


駄文ではありますが、楽しんで頂けると幸いです。


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