プロローグ
スクロール、スクロール。
こんなこと無駄だってわかっている。
でもやっぱりスクロールする手を止めれない。
スクロールがやめれない私の目線の先にはスマホ。
その画面に映るのは大量の悪口。
しかも、これ全部が私に向けてのものなんだよね…。
もはや苦笑するしかない。
「いじめっ子は消えろ」
「観光大使じゃなくていじめ大使」
「人間界のクズ、w」
まるで、伝言ゲームの最初と最後で言葉が全く変わっているように、根も葉もないことに対する悪口が連なっている。
私向けにメンションされた言葉はすべて”嘘”でできた私についての悪口だった。
はぁ、
重いため息をつき、スマホを机に置く。
こんなことなら、いっそのこと悪口を言われ続けるTwitterのアカウントを消してしまいたいくらいだ。
今まで散々作り上げてきた地位も、もはや崩れ去っている。
だから、このアカウントには一切の未練はない。
だけど、消せない。
消してはいけないのだ。
消すと、その”嘘”を肯定することになる。
だから、消せない。
ジレンマね……。
そう小さくつぶやき、台所へ向かう。
お湯を沸かし、ダージリンのティーパックの入ったティーポットにゆっくり注ぐ。
そして、そこに角砂糖を一つ入れ、ミルクを注ぎ込む。
そして、一口すする。
すると、ほんのり甘くて暖かいミルクティーが体内を巡る。
そんな至福の瞬間ですら、数々の悪口が頭の中でちらりと浮かぶ。
ミルクティーを飲み干し、マグカップを洗う。
そして、もはや忌々しくさえ感じるスマホを手に取り、カバンに入れる。
スーツに着替え、いつも通りに髪を結う。
軽く化粧をし、鏡で確認してから、カバンを手に取る。
心なしか、カバンがずっしりと重く感じる。
はぁ、外に出たくない……。
でも、仕事だ。そうはいっていられない。
重い腰を上げ、冷たいドアノブを回し、今日も今日とて”嘘だらけの世界”へと出ていった。