悪役令嬢に転生した幼馴染み
幼馴染みが亡くなった。
ながら運転をしていた車に運悪くはねられ、16歳という若さで人生の幕を閉じた。
「嘘でしょ。こんな事」
彼女の死を受け入れられない私は、到底正気では考えつかないある結論に至ってしまう。
「あの娘は死んでなんかいない。異世界に転生したんだ」
彼女が生前によく読んでいた小説やマンガ、プレイしていたゲームなどの事を彼女から聞かされていた私は無理矢理そう思い込み更に不気味な考えを閃く。
「だったら私が書こうあの娘の転生後の物語を、あの娘がその世界で幸福になる為に!」
自分はどこかおかしくなって暴走している。という自覚はあったがそれを自分で止める術を知らなかった為に私は突き進んだ...
亡くなった彼女はいわゆる悪役令嬢に転生し、謂れ無き冤罪で王子様から断罪され更に婚約破棄され絶体絶命のピンチに陥るも、持ち前のポジティブさと機転を利かした対応で何とか窮地を脱する。
その後も王子自身や王子派の人間、それに策略を用いて彼女から王子と立場を奪った令嬢からの様々な嫌がらせや妨害に遭うも、バイタリティーの強さに現代日本社会で身に付けた教養と知識でそれらを払いのけ強かに華麗に生きる。
やがてそんな彼女の活躍を知った隣国の王子と知り合い、当初は生き様やポリシーの違いから反発しあうも、やがて互いに惹かれ合い恋仲になるという王道展開まで一気に書ききった際に...
「えっ...私...泣いてる?」
とうとう私は完全に壊れてしまったのか、彼女が亡くなってから初めて涙を止めどなくボロボロと流した。
そしてやっと自分のした事が彼女を失った事によってポッカリと 空いた心の穴を埋める為の代償行動にしか過ぎなかった事に気が付き呆然となりそして...
「こんな事はただの自己満足であの娘を貶める行為だ。もう終わりにしよう」
そう決めた私はスマホを操作し自身が書いた文章を全て消そうとした。けれど--
「あれ?指が...ぶるぶる震えて...画面をタッチ出来ないや」
文章を消してしまう事で本当に彼女の死を認める事を恐れた臆病者の私は結局文章を消去する事が出来なかった...
あれから数年経った今も、心がどこか欠落した私は彼女の物語を描き続けている。
物語の中の彼女が日々充実している様に、幸福であり続けられる様に私は今日も終わらない物語を書く。
自分の時間が、彼女が亡くなった時に壊れて止まった事実に目を逸らし続けながら...




