第63話 戦いの狼煙
「敵襲! 敵襲だァ――ッ!」
物見やぐらに上った一人の鍛冶師が、顔を真っ青にして警鐘を鳴らす。
甲高い音が鍛冶場や駐屯地に響き渡り、静かだった『メルスバーグ山』の雰囲気が一変。
放たれた火矢は建物に突き刺さって、瞬く間に火の手を広げていく。
「火を消せ! 皆武器を取れ! 女子供を安全な場所へ――ぎゃあッ!」
命懸けで危機を伝えていた鍛冶師に火矢が命中し、彼の身体がやぐらから落ちる。
その光景は、宿舎にいた俺とラウハさんの目にもハッキリと見えた。
「敵襲だって……!? ンなバカな! 国境線が突破されたなんて話は――!」
「と、とにかく応戦の準備を! ラウハさんは皆を起こしてください!」
「なっ、おいあんちゃん!」
傍に立て掛けておいた剣を手に取り、俺はバルコニーから外へと飛び出す。
この剣はどこにでもある量産品だけど、ないよりはずっとマシだろう。
火矢が飛んできた方向へ全速力で駆け抜けると――
「た、助けてくれぇ!」
「きゃああああ!」
逃げ惑う人々と、容赦なく彼らを斬り殺していく敵兵の姿。
あの装備は――アシャール帝国のモノだ。
「っ、お前らぁッ!」
剣を抜き、アシャール帝国兵たちに斬りかかる。
敵の数は歩兵が十、騎兵が一。
「なんだぁ? 一人で突っ込んでくるとは、よっぽど死にたい――あれ?」
一瞬で目の前の十一人全員を斬り捨てる俺。
たかだか十一人くらいじゃ、相手にもならない。
とは言え、こんなのは敵軍のごく一握りに過ぎないだろう。
「早く、皆逃げてください! ここは俺が食い止めますから!」
「あ、ありがとうございます……!」
襲われていた人たちを逃がし、俺は斬り捨てた敵兵たちへ視線を移す。
……尖兵としては、歩兵に対して騎兵の数が少なすぎる。
おかしい、普通ならもっとまとまった数の騎兵を初手に乗り込ませるはずだ。
もしや投入されている軍馬の数が圧倒的に少ない……?
――前線が突破されたという情報がなかったのは、コレが理由か?
広大な『メルスバーグ山』は、山間部のほとんどが樹海地域と傾斜の激しい斜面で構成されている。
そのせいで道に迷いやすく、長期滞在にも極めて不向き。
さらに昼夜の寒暖差も激しく、人間の体力など容易に奪われてしまう。
これは騎兵の移動や補給線の構築を大変に難しくする、言わば天然の要塞。
それを回避してルーベンス王国に侵攻しようと思えば、国境線沿いの前線を突破するしかないのだが――今回は裏をかかれたかもしれない。
『メルスバーグ山』の樹海地域の突破が難しいのは、通常の行軍を想定した場合の話だ。
もし騎兵を用いず、兵站を考慮せず、兵士の消耗を前提として、道なき道を電撃的に突破したなら――。
『メルスバーグ山』を攻略できなければ、部下が全滅して犬死することを理解していたなら――。
そんな血も涙もない戦法を執ったのだとしたら――可能、なのかもな。
加えて、騎士団第五位であるデニスさんが俺たちの下を離れた同日の襲撃。
偶然にしては出来過ぎている。
こちらを逐一偵察して、機を窺っていたと考えるのが妥当だ。
……敵の司令官は、冷酷ではあるけれど優れた戦術家の可能性が高い。
厄介だな――。
「クソッ、フリッツさんたちも無事だといいけど……!」
「おい、ルーベンス王国の兵士がいたぞ! やっちまえ!」
今度は百人規模のアシャール帝国兵が押し寄せてくる。
彼らを突破して鍛冶場へ向かうべく、俺は兵士たちに向かって突っ込んでいった。
✞ ✟ ✞
「――――許せませんわ……許せませんわ許せませんわ……許せねぇですわよねぇ!」
燃え盛る建物の間を走り抜ける、一人の少女。
その純粋な瞳は怒りに震え、銀髪ツインテールが風になびき、腰に下げた片手剣がカチャカチャと揺れる。
「私の故郷に火を放つなんて、不届き千万! まさしく悪の所業! 私のハートが、悪を倒せと轟き唸る! 命を燃やせとトキメキ叫ぶ!」
少女は腰の剣を抜き、夜空に向かって咆哮する。
情動の赴くまま、ほんの僅かな手の震えを伴って。
「オーッホッホッホ! このヤーナ・テスタロッサ――遂に初陣の時が来てしまったようですわねぇ!」
そういえばご報告を忘れておりましたが、コミカライズに際しまして
『公爵家から追放された俺、辺境の最強騎士団で英雄となる ~剣術の鍛錬ばかりしていたら粗暴だと追い出されたけど、気付けばどうやら【剣聖】にまでなっていたようです~』
↓
『公爵家から追放された俺、辺境の最強騎士団で英雄となる』
とタイトルが変更されております。
検索される場合はお気をつけください!
また公式略称が『となる公爵』に決定致しました!
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