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第60話 知らなくていいこと


「ウヒャヒャ! やったなぁ、今回は大量だぜ!」


 ――夜。

 深い森の中、『カバジェロ盗賊団』のアジト。

 

 そこでは、強奪された補給物資が乱雑に荷解きされていた。

 ある者たちは食料や酒を口の中へ放り込み、ある者たちは宝石類など金目の物を奪い合っている。


 中には――小荷駄隊から奪った鎧兜を、ふざけて身につける者も。

 まだ血潮が付着し、殺害の痕跡が生々しく残っているのなど気にもせず。


「おい、酒持ってこい酒! 全然足んねぇぞ!」


 そんな盗賊たちの中で、一際邪悪な風貌をした男が叫ぶ。

 この男の名はリッチー・カバジェロ。

 『カバジェロ盗賊団』を率いる親分であり、顔面に残る横一閃の傷跡が特徴だ。


 リッチーの年齢は、およそ二十歳前後。

 盗賊団の(かしら)としては非常に若いが――周囲の盗賊たちも、皆大体彼と同じくらいの年齢の者ばかり。


 それもそのはずで、『カバジェロ盗賊団』は素行の悪さなどを理由に故郷を追われた若者が集まった暴力集団。

 構成員数は百名近くだが、その大半が十代後半~二十代前半。

 盗賊団とは名ばかりの若年暴徒(アマチュア・ギャング)なのだ。


 ――唯一、リッチーという(かしら)を覗いては。

 

 そんな『カバジェロ盗賊団』を率いるリッチーの下に、酒瓶を持った禿頭の手下がやって来る。


「お待たせしやした、どんどんお飲みくだせぇ親分!」


「おう、早く注げや」


「しっかし夢のようですわ。少し前まで商人襲うのも一苦労だったってのに、親分がウチの頭になってくれてからは絶好調。遂には軍の荷物まで奪えちまった」


「護衛の数が少なかったのはラッキーだったな。まったく戦争様様だぜ」


「そんなことありません! これは親分の実力です!」


「快挙ですよ快挙! 親分がいれば軍隊だって怖くねぇ!」


「親分万歳! 『カバジェロ盗賊団』万歳!」


 大勢の手下たちが喜びの声を上げ、リッチーを称賛する。

 彼も満更でない様子で鼻を擦り、


「ま、この〝韋駄天(いだてん)〟リッチー様に山で狩れないモノはねぇ。テメェらもいい加減、俺抜きで狩りできるようになれよな」


「いやぁ、申し訳ありません。ささ、どうぞグイっと」


「おう。……ところで、今夜はちっとばかし冷えると思わねぇか?」


「へへへ……んじゃそろそろ、暖を取りますか」


 禿頭の手下は下卑た笑みを浮かべ、ある方向へ目を向ける。

 そこには――鎧を脱がされ、木柱に括り付けられた二人(・・)のルーベンス王国兵士がいた。

 物資を運んでいた小荷駄隊の生き残りである。


「ん~! んん~~ッ!」


 二人は口に布の猿轡(さるぐつわ)が巻かれ、大きな声を出すこともできない。

 その姿は、まな板の上の鯉も同然。

 無情にも殺されるのを待つだけの、哀れな存在だ。


「おい、やれ」


 リッチーがニィッと笑う。

 すると小荷駄隊の二人の傍にいた盗賊が、液体の入った桶を手に取る。

 さらにその液体を、彼らに浴びせかけた。


「んむっ!?」


 水にしてはヌルリと粘度があり、強い異臭がする。


 ――〝油〟だ。

 二人は大量の油を身体にかけられたのだ。


着火(ファイヤー)♪」


 リッチーの一声と同時に、火のついた焚き木が放り投げられる。


 瞬間――――小荷駄隊の二人は、炎に包まれた。

 全身にかけられた油が着火し、勢いよく燃え上がったのだ。


「「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」」


 猿轡(さるぐつわ)越しでも響き渡る絶叫。

 それを見ていた盗賊たちは、さながら大きな焚火を見ているかのようにゲラゲラと笑い転げた。

 リッチーも楽し気にグッと酒を煽り、


「ギャハハハ! あぁ~、酒が進むなぁ! どうして人が苦しむ姿ってのは、こんなに愉快なんだろうな?」


「まったくですねぇ。これだから止められねぇんですよ、盗賊は」


 リッチーと禿頭の手下は口の端を邪に釣り上げ、それが燃える炎で照らされる。

 だがそのすぐ後、禿頭の手下は思い出したように腰のポーチへ手を突っ込んだ。


「ああそうだ親分、そういや奪った荷物の中に妙なモノがありまして……」


「妙なモノ?」


「へい、この石なんですが」


 そう言って禿頭の手下がリッチーに渡したのは、長方形に整えられた滑らか石。

 まるで雲のように軽く、虹色の光沢を放つ奇妙極まりない物体だった。


「……なんだこりゃあ? 虹色の……砥石?」


「やけに厳重にしまわれてあったんで、貴重品なのかと。親分ご存知ですか?」


「知らねぇな、だが金になるならなんでもいい。――つーか、こんな石ころよりも大事なモンがあるだろ?」


「わかってますよ。王都からの便箋一式、この通り燃やさず取ってありますってぇ」


 禿頭の手下は次に分厚い封筒取り出し、リッチーへ渡す。

 リッチーはおもむろに封筒を開け、中に入っていた書簡などを流し見る。


 そこに書かれてあったのは、リッチーの言った通り輸送経路図含めルーベンス王国軍の重要情報ばかりだった。


「へへへ、これこれ。所詮王国軍もバカ商人と変わんねぇな。こんな大事なモンは、もっと大人数で守らねぇと」


「コイツがありゃ、次の襲撃地点も割り出せる。そうですよね親分」


「そういうこった。さぁて、お次はどこで――」


 何枚か紙をめくったリッチーは、とある一枚の紙にふと目が留まる。

 その内容を読んだ彼は――


「…………」


「? 親分、どうされたんで?」


「お、おい……なんだよこれ……! どうしてこんなのが軍の書簡に……!」


「へへへ、もしかして女からの恋文でもありました? どれ、俺にも見せてくださいよ親ぶ――――んぅえ?」


 ザシュッ!という薙ぎ音が、禿頭の手下の首元から奏でられる。


 ――地面に落ちる頭部。

 操り糸が切れたかのようにぐらりと倒れる身体。


 そして、リッチーの目には真っ赤な血に染まった斧槍(ハルバード)が映った。



「あら~、見ちゃったねぇ。おっさんってば激怒~。……つーわけで、お前もう死ぬしかねーから。覚悟しろやクソガキ」




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