第51話 第一位
――この人、滅茶苦茶強い。
彼女を一目見た時、すぐにそう感じた。
重心の動かし方、
隻眼の視界を補おうとする挙動、
油断しているように見せて一切の隙がない立ち振る舞い――。
これまでリーゼロッテやギルベルト、ブリアックや悪魔などと刃を交えてきたが、彼らと比べても明らかに格が違う。
この前俺を殴り飛ばしたルティスさんも相当な強者だったけど、それ以上だ。
とても一介の鍛冶師とは思えない。
もしこの人と戦ったら――――俺は、勝てるかな?
漠然とした不安に駆られるが、対するラウハさんは「はん」と鼻で笑う。
「おいおい、女に対して失礼な奴だね。あたしが熊かライオンにでも見えるってか?」
「い、いえ! そういう意味で言ったんじゃなくて……!」
「アハハ、冗談冗談。っていうか、その質問そっくりそのまま返してやるよ」
「え?」
「あんちゃんこそ何者だい? 育ちのよさそうな綺麗な顔してる癖に、まとっている風格は兵のそれだ。しかも手練れの武芸者って匂いがするね」
「俺は……ただの新米騎士ですよ。一応、貴族出身ですけど」
「……ふぅん」
品定めするように、隻眼で見つめるラウハさん。
しかしそんな彼女の腕の中で、
「……あの、そろそろ離してくれますか副団長」
ぶすっとした顔でリーゼロッテが呟く。
「おっと、すまないね」
リーゼロッテとヤーナをぱっと離すラウハさん。
そして俺の方へと歩み寄り、
「まあいいさね。あんちゃんが誰であろうと、ローガン騎士団長が認めたんならそれでいい。あたしゃ『ヴァイラント征服騎士団』の第一位、ラウハ・テスタロッサだ。これからよろしくね」
「俺はオスカー・ベルグマイスターっていいます。こちらこそよろしくお願いします」
「ん……? ベルグマイスター?」
俺が名前を名乗ると、彼女はやや驚いた様子を見せる。
「もしかして女王陛下からの便りに書いてあった、あの……?」
「はい、ここで剣を作ってもらえと言われて来ました」
「へぇ……なるほど、お前さんが」
腕を組み、ニヤニヤと笑うラウハさん。
どうやら俺のことは手紙で既に知らされていたようだ。
「うん、なんか納得した。あのおっかないエレオノーラ女王が気に入るなんて、どんな奴かと思ってたけどさ」
「そ、そうですか……?」
「ああ、万が一つまんない野郎が来てたら、尻を蹴って追い返してたところだよ」
ハッハッハと豪快に笑うラウハさん。
……一応、これって女王直々の命令だよな?
それを追い返すって叛逆罪に問われそうな気がするんだけど……。
「そうとわかれば善は急げだ。来なよ、鍛冶場に案内してやる。ヤーナは騎士団の皆を宿舎まで案内しとくれ」
「えぇ~? 私がですの?」
「文句言わない。それと後でリーゼロッテに稽古つけてもらいな」
その一言を聞いて「え……」と露骨に嫌そうな顔をするリーゼロッテ。
でも拒否しない辺り、流石の彼女も『ヴァイラント征服騎士団』第一位には逆らえないようだ。
――俺は騎士団の皆とはぐれ、ラウハさんについていく。
兵舎などが置かれた駐屯地、職人たちの集う鍛冶場、そして屈強な炭鉱夫が向かう鉱山はそれぞれ隣接しており、簡単に行き来できるようになっている。
ルーベンス王国の武具兵站の半数を担う場所だけあって、駐在している者もかなり多い様子。
そんな人々の生活を支えるために酒場や商店も立てられ、行商人の姿まで見受けられる。
兵士・鍛冶師・炭鉱夫・商人……そんな異なる職業の人々が一様に集う光景は、まるでここが一つの街だと錯覚を覚えるほどだ。
そんな風景の間を抜けていくと――ラウハさんは、一つの鍛冶場へと入った。
「フリッツ叔父さん、邪魔するよ~」
「邪魔すんならけぇんな」
煤の匂いが充満し、真夏かと思うほどの熱気が漂う狭い鍛冶場。
そこには如何にも頑固親父といった風貌をした、褐色肌の初老の男性がいた。
彼はラウハさんの方へ振り向くこともなく、真っ赤に熱された鋼を打ち続ける。
「……で、なんの用だ。おめぇさん、騎士団の出迎えに行ったんじゃなかったのか?」
「ああ、ついさっき皆到着したよ。んで、例の手紙に書いてあった奴を連れてきた」
「ほう……?」
その時、初めて鋼を打つ手が止まる。
彼は立ち上がって、こちらへ歩いて来るが――
「その野郎ってのはどこだ? おい、いるんだろ?」
「……? えっと、ここにいますけど……」
「ああ、そこか。思ったより若ぇ声してんだな」
ようやく気付いた様子で、手を差し出してくる。
だが、やはり目線が合う気配はない。
これは、もしや……。
「俺ぁフリッツ・テスタロッサってんだ。ま、よろしくやろうや」
「オスカー・ベルグマイスターです。よろしくお願いします。……あの、ところでもしかして――」
「ああ、気付いたか?」
フリッツさんの手を取り、握手する。
それだけ近い距離であっても、俺たちの視線が交わることはなかった。
「俺ぁお前さんの顔が見えねぇんだよ。この目ん玉は、鍛冶の神様へ捧げっちまったからな」
気が付けば50話を超えておりました。
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