第48話 お見舞い
――エレオノーラ女王によって『ヴァイラント征服騎士団』が悪魔討伐部隊に指名されてから、一週間以上が経過した。
その間に、まあ色々あったことは先に言っておこう。
『ヴァイラント征服騎士団』の皆は、自分たちが悪魔と戦うという事実をすぐには呑み込めない様子だった。
そもそも悪魔の存在自体が一般に認知されてなかったのだから、無理もない。
突然の辞令に騎士団の皆はだいぶ浮足立ったし、リーゼロッテやデニスさんはあまりピンとこないという感じ。
怪物と戦うの? マジで? みたいな。
俺だってアンドロマリウスと対峙していなければ、同じ反応をしたと思うけど。
例外として、ローガン騎士団長だけは冷静にその辞令を受け取ったそうだ。
まるで取り乱さなかった辺り、あの人は流石と言えるのかもな。
『ジークリンデ要塞』の明け渡しも滞りなく終わり、『ヴァイラント征服騎士団』は晴れて女王直轄の遊軍として動けるように。
根無し草になったと言えるかもしれないが、エレオノーラ女王から直々に〝特別〟とされた騎士団の士気は、少しも下がることはなかった。
――ここまでが近況の、比較的良い話。
当然、悪い報せもあった。
アシャール帝国の本格的な開戦に合わせ、彼らと同盟を結んでいる周辺国も次々とルーベンス王国に宣戦布告。
国内へ攻め込まれることとなり、国境線の各地で戦闘が勃発。
戦域が広範囲に広がっているために、現在はルーベンス王国が防戦に回ってしまっているようだ。
……ルーベンス王国は、どんどん戦火に飲み込まれていくだろう。
多くの血が流れることとなる。
そんな中で俺にできるのは――勝利を信じて、剣を振るうことだけだ。
そんな情勢下で、俺は今――
「――ギルベルト、いるか?」
とある病室を訪ねていた。
コンコンとドアをノックするが、返事はない。
でも人の気配はあるし――
「入るぞ」
そう言って、ドアを開く。
するとその向こうには、
「……なんの用だよ。入っていいなんて言ってないぞ」
まだ額に包帯を巻いたままでベッドに座る、ギルベルトの姿があった。
「入っちゃダメとも言ってないだろ。いや~、ようやくお見舞いに来れたよ」
俺は病室の中へと入り、室内を換気するために窓を開ける。
うん、今日は天気もよくて風が心地いいな。
「怪我の具合はどうだ? 最初は酷い状態だったって聞いたけど」
「お前に答えてやる義務はない」
「まあ、見ればわかるけど。かなり回復してるみたいでよかった」
「っ、お前なぁ……!」
椅子を引っ張ってきて、そのまま腰掛ける俺。
そんな様子を見て、ようやくギルベルトも諦めたようだった。
ハア、とため息を漏らす彼に対し、
「……聞いたよ、ギルベルト。悪魔と戦ったって」
尋ねる。
ギルベルトはしばし沈黙し、
「…………ああ。そういうお前はあの怪物を倒したらしいな」
悔しそうに、ぎゅっとベッドシーツを掴む。
そして開けられた窓から外を眺め、
「僕は……まるで歯が立たなかった……。殺されないようにするのが精一杯で、最後には情けまでかけられて……。屈辱だよ」
「……」
「……オスカー、お前はよくやった。悪魔なんて化物を倒して、『ジークリンデ要塞』の奪還まで成し遂げたんだ。悔しいが、認めるしかない」
そこまで言うと、ギルベルトは俺へと振り向く。
そして――
「オスカー・ベルグマイスター、『ヴァイラント征服騎士団』の第二位はお前に譲るよ。お前は――強い」
「は……? ま、待てよギルベルト! 俺はそんなことを言われるために、今日ここへ来たんじゃ――!」
「うるさい、黙って受け入れろ。それに、もう二度と言わないからな」
チッと舌打ちし、彼は俺を指差す。
「いいか? 僕は執着心が強いんだ。一度第二位を譲ったからって、諦めたなんて思うなよ。お前もアイツも倒せるくらいに強くなったら、その時はこう言ってやる。〝お前は弱い〟ってな」
如何にも不機嫌といった感じで、再びそっぽを向いてしまうギルベルト。
うーん、認めてくれたのかそうでもないのか……。
俺としては仲良くやっていきたいんだけどなぁ……。
「……ところで、『ヴァイラント征服騎士団』は『ベッケラート要塞』から離れることになるんだろ。これからどこに向かうか決まったのか?」
「ああ、それなら『メルスバーグ山』の駐屯地に決まったよ。そこにいる鍛冶師に俺の――というか騎士団の新しい剣を拵えてもらうんだ」
「! 『メルスバーグ山』だって……?」
「確か有名な鉱山がある場所だよな。ギルベルトも傷が癒えたら向こうで――……って、どうかしたのか?」
「なんだって奴の故郷なんぞに……今から気が思いやられるよ……」
頭を抱え、ハア~とため息を漏らすギルベルト。
なにやら思うところがあるようだ。
「? なんだよ、会いたくない人でもいるのか?」
「お前はまだ会ったことがないだろうけどな、あそこには丁度いるんだよ。『ヴァイラント征服騎士団』の――第一位が」
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