第43話 俺は〇派です
「「――――ッ!?」」
突然の襲撃。
それを見たリーゼロッテとデニスさんが反射的に武器を取る。
片や腰の剣を、片や斧槍をルティスさんに突き付けようとするが、
「ごめん遊ばせ、今はオスカー様とお話をしているのです」
二人が武器を構えようとした時には――剣も斧槍も、既にルティスさんの手の中にあった。
彼女たちの動きよりもずっと速く、ルティスさんは武器を奪い取ったのだ。
そう。一瞬の内に、二つとも。
「う……嘘……」
「あ、あれぇ……? デニスさんビックリ……」
ブワッと冷や汗を流すリーゼロッテとデニスさん。
もうこの時点で、ルティスさんが二人より強いのは明白だ。
「痛て……。もう、腕が折れるかと思ったじゃないですか……」
ぶっ飛ばされた俺は、殴りつけられた腕を擦りながら起き上がる。
いやはや、とても人間の腕力だとは思えなかったぞ。
あんな細い腕のどこにこんな馬鹿力が潜んでいるのやら……。
やっぱり人は見かけによらないモノだなぁ。
ルティスさんは相変わらず微笑を浮かべ、
「ご安心くださいませ、骨なんて折れてもひと月ほどでくっ付きます。治癒師に任せればもっと早く治るでしょう」
「そういう問題じゃないんですが……。ま、いいや」
俺はよっこいしょと立ち上がると、彼女の近くへ歩み寄る。
「けれど安心致しましたわ。どうやらレーネの話は本当のようですから」
「レーネさんの……?」
「ぴーすぴーす」
無表情のまま両手の指でピースサインを作るレーネさん。
……ああ、なるほど。
おそらくルティスさんは、彼女からこの要塞で起きた出来事を全て聞いたのだろう。
当然、俺があの怪物を倒したことも。
で、試したってワケだ。
「それじゃ、俺は合格ってことでいいんですか?」
「いいえ、まだでごさいます。今のはほんのご挨拶。肝心な質問にお答え頂いておりません」
「質問って――」
「はい、オスカー様は〝犬〟と〝猫〟、どちらがお好きですか? ちなみに私は犬派で、特にドーベルマンとロットワイラーが大好きです。プリティですよね♪」
「そ、そうですか……」
ご丁寧な自己紹介どうも。
しかし、これって本当に大事な質問なのか……?
まるで要領を得ないのだが……。
う~ん、犬と猫かぁ……。
これまでペットを飼ったことなんてないし、あまりピンとこないんだよなぁ。
別にどっちも嫌いじゃないけど、凄い好きってワケでも……。
そもそも動物自体にあまり興味が――いや、待てよ?
「さあさあ、オスカー様はどちら派ですか? ご返答によっては……」
「えっと、俺は――」
……いるな、一応。
好きな動物。
「――〝羊〟が好きです」
「…………はい?」
「犬と猫よりも羊が好きですね。俺は羊派です」
正直に答えた。
すると――
「「ちょ、ちょっと待てぇっ!」」
リーゼロッテとデニスさんが、凄い形相で俺に詰め寄ってくる。
「そこは犬派って答えるトコでしょうが!? アンタ命が惜しくないの!?」
「そ、そそそうだぜお坊ちゃん! 俺は猫派だし気持ちはわかるが、こういう時は相手に合わせるのが礼儀ってモンだ! 早く訂正しろ!」
二人に両肩を掴まれ、思いっきり揺さぶられながら怒られる。
そんなこと言われてもなぁ……いいじゃん羊って。
羊毛は衣服になるし、草と水があれば育つし、性格も基本穏やかだし。
なにより見てて癒されるし、ふわふわだし、もふもふだし……。
「……ふむ……羊、羊ですか……」
俺の答えを聞いたルティスさんは、クスッと笑う。
「なるほど……オスカー様、あなた様はとっても面白いお方ですわ」
彼女はそう言って、再びしゃなりと頭を下げる。
同時に、放たれていた殺気が消失した。
「大変ご無礼を致しました。オスカー様が女王陛下へ害のある人物かどうか、確認させて頂きたかったのです」
「女王陛下へ……?」
「はい。結果、危険はないと判断致しました。少々天然ちゃんではありましたが」
にこやかに笑って、ひと呼吸置いた彼女は――
「オスカー・ベルグマイスター様。エレオノーラ女王陛下が面会をご希望されておいでです。どうぞ――私と共においで下さいませ」
✞ ✟ ✞
「……オスカーの奴、連れていかれちゃった……」
「女王陛下に謁見たぁ、お坊ちゃんも出世したもんだねこりゃ」
オスカーがルティスに連れていかれ、場にはリーゼロッテ、デニス、レーネたちが残される。
そんな中、
「……オスカー様は〝羊〟がお好き、と」
レーネが呟く。
そして不意にリーゼロッテの方を見て、
「よかったですね、リーゼロッテ様」
「? それどういう意味よ」
「いえ、あのお方は将来よき夫になるだろうな~と、そう思っただけです」
そう言い残すと、レーネはスタスタとどこかへ歩いていく。
リーゼロッテはしばしポカンとするが――言葉の意味に気付くと、頬を真っ赤に染めた。
「――はっ!? ちょ、ちょっとレーネ! それをアタシに言ってどうしようっての!? こら、待て!」
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