第36話 悪魔は殺せない?
――蛇頭の怪物、アンドロマリウスと対峙する俺。
斬り落とした腕からは紫色の血が噴き出ているが、奴は痛がる素振りも見せない。
『なんだああぁ、お前ぇ? 俺様の腕を落とすなんて、強いなあぁ』
アンドロマリウスは落ちた右腕を左手で拾い上げると、それを切断面に押し付ける。
すると、瞬く間に腕が結着。
何事もなかったかのように腕や指を動かし、処刑刀を肩に担いだ。
「おお、便利な身体してるな」
思わず感嘆の言葉が口から出る。
――こいつ、魔術で呼び出された召喚獣の類じゃない。
世の中には使い魔を使役する召喚術って魔術があるけど、こんなバケモノを呼び出すことはできないはず。
そもそも、魔術師の身体を乗っ取って顕現する召喚獣なんて聞いたことがない。
アベルも召喚術は専門じゃなかったはずだし。
明らかにもっと別な、異質な何か。
さっき護衛の二人が〝悪魔〟って言ってたけど――。
「なあ、一応聞いておくけど、お前はアベルじゃないよな?」
『アベルるるるぅぅぅ? 誰だぁ、それええぇぇ?』
うん、違うっぽい。
少なくともアベルの意識はないな。
おそらく、アベルが首から下げてたタリスマン――アレにアベルが深手を負ったら自動的に発動するタイプの仕掛けが施されていたんだと思う。
どんな魔術かは知らないけど、趣味が悪すぎるな。
『お前強いなああぁぁ。強い奴は罪人じゃないからぁ、お前だけ殺さないでやってもいいぞおぉ?』
「その言い方じゃ、俺以外は全員殺すって言ってるみたいだが」
『弱いことは罪! 弱者は罪人! 弱者は、生きるっ、価値っ、なしいいぃッ!』
……やっぱ、意思疎通は図れそうにないな。
自分が弱いと見做した者を容赦なく殺害する、処刑人の怪物。
この様子じゃアシャール帝国兵どころか、こちら側の兵士たちまで襲われかねない。
ここで――仕留めるしかない、か。
「ああ……もういい、わかった」
俺は剣を持ち上げ、顔の横で構える。
「お前はここで仕留める。皆に手出しはさせない」
『なんだぁ? 弱者の味方をするのかああぁ?』
「力なき人々を守るのが騎士だと――ギルベルトにそう教えられたからな」
『なら――――お前も罪人だあああぁぁッ!』
処刑刀を握り締め、思い切り振り下ろしてくるアンドロマリウス。
そんな見え見えの大振りを回避すると、処刑刀は激しく地面を粉砕。
パワーは凄まじいが、当たらなければなんてことはない。
「遅すぎる」
アンドロマリウスの頭上に飛び上がった俺は、剣を振り被り――蛇頭の脳天目掛け、兜割りを繰り出した。
ズバッ!という快音と共に血が飛び、蛇頭が縦に裂ける。
仕留めた――そう思った俺は一旦アンドロマリウスと間合いをとる。
しかし、
『痛いなああぁぁ……。でも無駄ぁ』
斬り裂かれた奴の蛇頭はすぐに再生し、元通りになってしまう。
まるでダメージを負っている気配がない。
それに斬っても手応えを感じないというか……。
コイツ……一体どうやったら殺せるんだ……?
俺がそう思っていると、アンドロマリウスはなんとも不思議そうに首を傾げ、
『うぅ~ん……お前ぇ、どうして俺様を斬れるんだあぁ? 悪魔の身体は魔力でできてるのにぃ』
「! ああ、そういうコトか。俺の剣は魔術や魔力を斬るんだよ」
『ほおおぉう、そいつは凄いなああぁぁ。でもそれじゃ悪魔は殺せないぃ』
アンドロマリウスは蛇の舌をチロチロと動かし、余裕たっぷりに笑う。
『悪魔を殺せるのは〝魔術〟だけだぁ。魔力のこもってない剣なんざ、痛くも痒くもないぞおおぉ?』
「へえ、ご説明どうも。でもいいのか? 自分の殺し方なんて教えて」
『当ぉ然ん。だってその腐りかけの剣じゃ、もうなにもできないだろおぉ?』
「なに……?」
そう言われて、俺は自分の剣に視線を落とす。
すると――いつの間にか剣の刃が激しく腐蝕し、ボロボロになってしまっていた。
「これは……!」
『俺様の血は猛毒だからなあぁ。人間でも物でも簡単に腐らせちまうのよぉ』
――油断した。
剣に付着した紫色の血液。それが鋼鉄の刃を溶かし、錆へと変えてしまったらしい。
まさか奴の血にこんな効果があったとは。
けど――
「……まいったな。これじゃもう使い物にならない」
『どうしたぁ? 降参するかあぁ?』
「降参――? バカ言うなよ。コレならお前を倒せるなって、今思い付いたところだ」
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