第31話 やられたらやり返す
「クロード様! 再び敵騎兵隊を確認! 二度目の攻撃を仕掛けてくる模様です!」
「よし、私も前線に出るぞ」
クロードは要塞正門広場で馬に跨り、出陣の準備を整える。
兵士たちが混乱している中で彼が前線に赴くのは、最も手っ取り早い戦意高揚の手段だからだ。
「指揮系統を我に集中させるよう、各兵長たちに伝えろ。勝手に兵を動かすような真似は――」
クロードが部下にそう言いかけた――その時である。
監視塔の一つが、ドンッ!という轟音と共に巨大な爆炎に包まれた。
「ッ!? なっ……なんだ!?」
あまりに突然の出来事に、一瞬呆気に取られるクロード。
これは爆破魔術だとすぐに気付いたが、もう遅い。
さらに立て続けに要塞内のあちこちで火の手が上がり、夜空が赤色に染め上げられる。
「しまった――! 正面の騎兵たちは囮かッ!」
✞ ✟ ✞
「……まずは攪乱に成功、と言ったところでしょうか」
監視塔を爆破した張本人、レーネは独り言のように呟く。
彼女の両手には、魔術陣が手の平に描かれた礼装用の手袋がはめられている。
「レーネ様、他の兵士たちも首尾よくやっているようです。要塞内は大混乱ですね」
彼女に追従する連絡係の兵士が嬉しそうに言う。
そんな彼に対してレーネは相変わらず無表情で、
「私を様付けで呼ぶのはおやめください。なんだかこの世の頂点に立ったみたいで気分は超最高ですが、あくまで私はお茶目な使用人なので」
「い、いや、そう言われましてもあなた様は――」
「こっちだ! 敵がいたぞッ!」
レーネたちが話していると、アシャール帝国軍の兵士たち数名に発見される。
彼らはレーネたちを見つけるや、剣や槍を構えて襲い掛かってきた。
「ルーベンス王国の鼠が! お前ら一体どこから――!」
「……爆ぜろ【エクスプロージョン】」
レーネは手袋を付けた両手を顔の前に出し、左右の指を組んで詠唱。
両手の魔術陣を向けられたアシャール帝国軍の兵士たちは――ド派手な爆炎に包まれ、要塞の壁ごと吹っ飛んでいった。
「……レーネ様、やりすぎでは……」
「景気づけです。気分がいいので」
「はぁ……。ところで、本当によかったのですか? オスカー様を一人で行かせて」
「あの方の実力なら無問題でしょう。むしろ、私たちは足手まといになります」
レーネはそう言うと、魔術陣の描かれた手袋をキュッとはめ直す。
「ですので……ルーベンス王国諜報機関のエージェントであり、そして『ヴァイラント征服騎士団』の第六位を預かるこのレーネ・ウォルシンネム――最後まで陰のお役目を全うさせて頂きます」
✞ ✟ ✞
「謀られた……! これでは『ベッケラート要塞』の二の舞ではないか!」
クロードは勘付いていた。
これはブリアックたちが仕掛けた奇襲を、そっくりそのままやり返されたのだと。
少数精鋭による潜入工作。
だが事態は『ベッケラート要塞』の時より深刻。
要塞の外からは騎兵隊の突撃、要塞の内からは精鋭による奇襲。
このまま奴らの思惑通りに進んでしまえば、内と外から挟み撃ちとなる。
いや、仮に挟撃が成功せずとも、要塞内を攻められた時点でこちらの士気低下は必至――。
非常に、不味い。
「……やってくれるな、『ヴァイラント征服騎士団』よ」
不思議と、クロードの口元に笑みが浮かぶ。
同時に彼は、この後の展開を予測できた。
ブリアックたちは『ベッケラート要塞』を襲った際、真っ先に司令官の首を狙ったのだ。
つまり――
「む? おい、誰だ貴様! 名を――」
クロードを護衛していた兵士二人が、近づいてくる人影を止めようとする。
だが次の瞬間――その兵士たちは、目にも止まらぬ速さで斬り捨てられた。
「が――あ――ッ!」
「な――ッ!」
倒れる兵士たちを見て驚くクロード。
彼を直接護衛する兵士は、腕に覚えのある者ばかり。
それが一瞬で――
「大丈夫だ、殺してない。……たぶん」
兵士たちを斬り捨てた剣士は、そう言ってクロードへ歩み寄る。
パッと見では剣の似合わない、まだ若い優男。
とても人など殺せそうにない好青年。
しかしクロードは、一目見た瞬間に確信する。
この男がブリアックを倒し、『ベッケラート要塞』を救った【剣聖】なのだと。
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