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第30話 過去と因縁


 ――オスカーが『ベッケラート要塞』を訪れる、およそ一年前。


「きゃあ!」


 要塞付近の草原にカキィン!という甲高い金属音が響き、一人の少女が尻餅をつく。

 彼女の名はマリア・ルエーガー。

 手にしていた二本の短刀(サクス)が弾き飛ばされ、彼女は自身のお尻を擦った。


「うぅ~……意地悪ですわ、ギルベルト様ってば。少しは手加減してくださいな」


「アハハ、ごめんごめん」


 マリアの訓練相手をしていたのはギルベルト。

 彼は剣を鞘へ納めると、マリアへ向けて手を差し伸べる。


「でも、これくらいで弱音を吐いてたら第四位(ナンバーフォー)の名が泣くよ? マリアにはもっと強くなってもらわないと」


「むぅ、わかっております。でも――えい!」


「え? うわ!」


 マリアはギルベルトの腕をぐいっと引っ張る。

 バランスを崩した彼は地面に倒れ、マリアはその上に跨った。


「隙ありですわ、ギルベルト様♪ あなた様も油断し過ぎではなくて?」


「こいつ、やったな!」


 草原の中でじゃれ合う二人。

 勿論本気などではない。

 とても仲睦まじい様子で、その距離感は他人とは思えないほど近い。


 そう――ギルベルトとマリアは、恋人同士だった。

 『ヴァイラント征服騎士団』には報告こそしていないが、二人の関係は半ば公然の秘密でもあった。


 ギルベルトは草原の上で大の字になり、マリアは彼の胸に顔を埋める。


「愛しておりますわ、ギルベルト様」


「僕もだよ、マリア。キミを愛している」


「ウフフ、楽しいですわね。今この瞬間が、ずっと続けばいいのに」


「続くさ。続くとも。永遠にね」


「ここ最近ずっとアシャール帝国との小競り合いが続いて、いつ大戦争になるかわからない~なんて言われてますのに?」


「僕たちは無敵なんだ。『ヴァイラント征服騎士団』があれば――いや、僕とマリアがいれば、アシャール帝国なんて簡単に駆逐できる」


「ギルベルト様ったら……そんなことを言ってると、いつか足元をすくわれちゃいますわよ?」


「心配なんていらないよ。それを言うなら、キミはもっと自分を鍛えるべきだろ。せめてあのはねっ返りの第三位(ナンバースリー)には勝てるようにならないと」


「むぅ、他の女の話なんてしないでくださいな」


 マリアは頬を膨らませ、ギルベルトからプイっと顔を背ける。

 だがすぐに機嫌を取り戻し、


「でも嘘みたいですわ。貧乏な平民出身の私たちが、騎士という誇りを胸に研鑽を詰む日々を送れるなんて」


「そうだね。でもだからこそ、僕たちはより強くなって彼らを守れるようにならないといけないんだ」


「……ギルベルト様、私またあなた様の夢が聞きたいです」


「ええ? あれ何度も言うの恥ずかしいだけど……」


「でも私は好きですわ。夢を語るギルベルト様の姿が」


「ハァ……わかったよ。それじゃあ――」


 ギルベルトはオホン!と咳き込むと、


「このギルベルト・バルツァーは、いずれ『ヴァイラント征服騎士団』の第一位(ナンバーワン)となる。いや、いずれ騎士団長にまで上り詰めて、ルーベンス王国最強の剣士と呼び称される男となるんだ。だからマリア、そんな僕を隣から見守っていてくれ」


 そう語るギルベルトの瞳には希望と情熱、そしてなにより信念が宿っていた。

 彼の言葉には少しも冗談など混じっていない。

 心の底から語る夢だったのだ。


 そんな彼の胸に、マリアは再び顔を埋めた。


「ええ……勿論ですわ、ギルベルト様」



   ✞ ✟ ✞



「…………今、なんと仰いましたか」


「マリア・ルエーガーが三名の騎士を殺害、一名に重傷を負わせ行方を晦ました。さらにワシの執務室が荒らされ、『ヴァイラント征服騎士団』の情報が幾つか盗み出されておった。幸い国の機密情報までは手を付けられなんだが――」


「嘘だッッッ!!!」


 淡々と語るローガン騎士団長に対し、ギルベルトは裂けるような声で叫ぶ。

 あまりにも突然に起きた出来事を、彼は受け止められなかった。


「なにかの、なにかの間違いです! あのマリアが……マリアが、そんなことするはずがありません!」


「……重傷を負った騎士が彼女に襲われたと供述しておるのだ。状況からして、マリア・ルエーガーはアシャール帝国の密偵(スパイ)だったと見て間違いない」


「嘘だ……嘘ですよ……! だってマリアは、僕とあんなに……!」


「ワシとて認めたくはない。だが今回の事態は重く受け止めねばならん」


 狼狽するギルベルトに対し、ローガンは無情な言葉をかけねばならなかった。

 それが騎士団長としての役目でもあったから。


「……ギルベルトよ、お主の気持ちは理解できる。しかしお主は奴と親し過ぎた。故に、お主をマリア・ルエーガーの協力者だと疑わねばならん」


「!? そ、そんなバカな!」


「少なくともワシはお主を信用しておる。だがそれでは皆が納得せんのだ。……長く時間は取らぬよう配慮させる。しばし尋問に付き合ってもらうぞ」


「ぼ、僕は……僕は…………!」



 ――これより一週間、ギルベルトは密偵(スパイ)の協力者だった疑いで尋問を受けることとなった。


 結果として彼の疑いは晴れ、釈放されたのだが――その後のアシャール帝国との小競り合いにおいて、ギルベルトは鬼神の如き活躍と残忍性を見せ始める。


 その〝魔剣士〟の名声をさらに押し上げる戦いぶりから、すぐに騎士たちの信頼を回復。

 

 しかし――彼の前で〝元第四位(マリア・ルエーガー)〟の話題は禁句中の禁句となる。

 さらに裏切り者の順位として、第四位(ナンバー・フォー)は長らく欠番として扱われることになったのだった。



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