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第28話 魔剣士の恐ろしさ、とくと味わえ


「ハアアアアアアァァァァァァッ!!!」


 ギルベルトは愛馬の手綱を握り締め、『ジークリンデ要塞』目掛け正面から突撃する。

 その後ろに続く『ヴァイラント征服騎士団』大勢の騎兵たち。

 彼らが上げる鬨の声は空気を切り裂き、無数の蹄鉄が地面を踏み鳴らし大地が震わせる。

 それは戦の始まりを告げる音。

 そして〝これからお前らを蹂躙する〟という死の宣言だった。


「きっ……騎兵だ! ルーベンス王国の騎兵共だッ!」


「ぶ、武器を取れ! 急いで陣形を――――ぐああッ!」


『ジークリンデ要塞』を陥落させ、戦勝気分に酔っていたアシャール帝国の兵士たちはどうしようもなく油断していた。

 要塞の外には数万からなる兵団が駐留していたが、充分に周囲を警戒していた兵士はごく少数。

 そのため、騎兵による強襲に全く対応できない。

 特に最初に騎兵たちの襲撃を受けた部隊は、成す術もなく馬に轢き殺されていった。


「アハハハハ! 盗人共め、馬に轢かれる気分はどうだい!?」


 高笑いを上げながら最前線を突っ切るギルベルト。

 

 ――歩兵にとって騎兵とは、迫り来る雪崩に等しい。

 人間よりも巨大な軍馬が群を成し、逃げ場のない壁となって自分に向かってくる。

 矢を射る、槍を投げる、剣を突き込む――そんなことでは馬は止まらない。

 運よく即死させたり転ばせたりしても、瞬きする間に次の騎兵が襲ってくる。

 まさしくそれは、避けられない死の象徴なのだ。


 逆に、騎兵にとっては最高の状況。

 迎撃の準備ができていない散兵共を踏み潰すのは、彼らにとって爽快この上ない。

 ほんの数秒も馬を走らせれば、面白いように敵が薙ぎ倒されていく。

 最初の騎兵突撃が成功してから僅か一分も経たぬ内に、数百名を超えるアシャール帝国兵が餌食となったことだろう。

 まさに無双状態。

 完全に狩る側と狩られる側の形勢が、完全に出来上がっている。


 とは言え――


「陣形を取れ! 槍兵、構え!」


 ようやく応戦態勢を整えた兵団が、長槍(パイク)を構えて密集陣形を取る。

 所謂槍衾(やりぶすま)だ。

 アレに突撃すれば、如何に屈強な騎兵と言えど串刺しになってしまうが――


「――」


 それを見たギルベルトはニィッと笑い――剣を振り抜く。

 刹那――――槍衾(やりぶすま)の陣形を取っていた槍兵たちのほとんどが、〝見えないなにか〟によって撫で斬りにされた。

 何十もの首が一気に宙を舞い、瞬時に陣形が崩れる。

 それを見た槍兵部隊の兵団長は絶句し、顔色を真っ青に染める。


「な――なんだあああぁぁぁ!? 今なにがぁ――ッ!」


「残念、僕の前で密集陣形は悪手だよ」


 次にギルベルトが剣を振るった時には、兵団長の首が飛んでいた。

 ギルベルト率いる『ヴァイラント征服騎士団』――その陽動部隊(・・・・)は、さらに突撃を続ける。


「さぁて、オスカーの奴が役目を果たすまで……この〝魔剣士〟ギルベルトの恐ろしさ、とくと味わってもらおうか」



   ✞ ✟ ✞



「前線からの報告は!? 敵の数は如何ほどか!」


 敵襲の報せを受けたクロードは、すぐさま対応に動いていた。

 彼は慌てふためく兵士たちとは違い冷静で、要塞の廊下を歩きつつ伝令兵からの報告を聞く。

 

「そ、それが前線の兵たちは、既に敵騎兵によって蹂躙されている模様! 夜闇のせいで敵の数は正確に把握できず……おそらく二千程度(・・・・)かと……」


「なんだと? 要塞外には七万以上の兵団が待機していたはずだ。我が軍はそんな少数に手こずっているというのか?」


「ど、どうにも騎兵を率いる者が一騎当千の魔剣使いらしく……。さらに不確定な情報なのですが……襲撃してきた敵は、ルーベンス王国でも屈指の強さを誇る『ヴァイラント征服騎士団』だと……」


「! なに……!?」


 クロードの眉間に一気にシワが寄る。

 『ジークリンデ要塞』と双璧を成す国防の要『ベッケラート要塞』を守る、辺境の最強騎士団『ヴァイラント征服騎士団』。

 その強さはアシャール帝国でもよく知られている。


 先日送り込まれた『マムシ』の奇襲作戦が失敗に終わったのも、おそらく奴らがいたためだろう。

 あのブリアックという男は心底いけ好かなかったが、実力は確かだった。

 奇襲を受けて守りを固めているかと思ったが、まさかこれほど早く動いてくるとは……。


「よし、要塞内の兵士たちも迎撃に向かわせろ。外で待機している兵団には、騎兵共を挟み込む陣形を取るよう指示を出せ」


「りょ、了解!」


 命令を受けた伝令兵は走り去っていき、残されたクロードは思案を始める。

 

 ……これは、アベル殿の謀略か?

 いや、奴らとアベル殿が連携を取っているようには思えない。

 騎兵を使って真正面からの強襲など、こんな真似をすれば捕虜である彼の身が危険になるだけだ。


 状況からして、あの女(・・・)が疑わしくはあるが――


 そう思っていた彼の下に、アベルとマリアの二人がやってくる。

 まずアベルの方が口を開き、


「クロード様、なにやら外が騒がしいようですが……」


「ええ、敵の援軍が到着したのでしょう。ところで、何故アベル殿がそやつ(マリア)と一緒に……」


「妙な勘繰りは結構ですわ。それより、私もお手伝いした方がよろしくて?」


「……ああ、そうだな。この状況で貴様以上に適任はおるまい。なにせ襲ってきた相手は、あの『ヴァイラント征服騎士団』らしいからな」


「――!」


 ――その名を聞いた瞬間、マリアは驚きで目を見開いた。

 クロードは言葉を続け、


「加えて、騎兵たちを率いているのは一騎当千の魔剣使いだという。覚えがあるのではないか?」


「……」


「……以前も言ったが、我は貴様を信用していない。ハッキリと言えば、貴様が奴らを呼び寄せたのではないかと疑ってもいる」


「イヤですわ、本当に信用がないのね。ああ、なんて憐れな私。一体どうすれば信じてもらえるのでしょう?」


「潔白を証明できると言うなら……その魔剣使いの首、我の前に持ってこい」


 そう言われたマリアは、しばし沈黙する。

 しかし――すぐに口元に笑みを浮かべてみせた。


「あら……あらあら、ウフフ♪ それなら、懐かしい顔を拝みに行くと致しましょう」



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