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第27話 売国奴と指揮官の憂い②


 ――クロードの尋問を終えたアベルは、薄暗い廊下を歩いていた。

 いや、あれは尋問とは呼べなかったであろう。

 アベルの立場になって表現するなら、〝交渉〟と表現するのが最も的確だ。

 実際、交渉後の彼の立場は代わり、今のように一人で要塞内を歩くことすら可能となったのだから。


「クックック……。まさかこの私が、アシャール帝国に組することになろうとは」


 蛮族などに頭を垂れるのは屈辱だが、丁度いいと言えば丁度いい。


 あのバカ親父のせいで、今やベルグマイスター家の地位は完全に失墜。

 『ジークリンデ要塞』に左遷されただけでも最悪だったが、それでもヨハンが司令官として雄弁を振るい、今回の侵攻を援軍到着まで凌ぐことができたなら、ここまで無様な状態にはならなかった。

 それどころか、さらに権力を伸ばすこともできたのに。


 ああ、考えるだけでも忌々しい。

 今頃は兵士どもにさぞ手酷く拷問されているだろうし、本当にいい気味だ。


 ……もはや、ベルグマイスター家を継ぐ意味などない。

 没落貴族としてルーベンス王国に残る意味も。

 蛮族共に組みした方がよほど有益だ。


 ――そこまで考えて、アベルは歩く足を止めた。


「……そこにいるのはわかってるぞ。せっかくなら、もっと堂々と見張ってはどうだ?」


「あら、見かけによらず鋭いんですのね」


 柱の影から、スゥっとフードを被った女性が現れる。

 マリア・ルエーガーだ。


「初めまして、売国奴さん。祖国を見捨てて、私たちの仲間になった感想はどう?」


「なんだ、聞いていたのだな。無論、故郷を裏切る罪の意識は――」


「下手クソなお芝居なら結構よ。父親を生贄にしたあなたの本性なんて、よくわかってるつもりですもの」


「……おや」


「あなたみたいな人、これまで何人も見てきたわぁ。信念や忠誠なんてなに一つなくて、自分の利益と保身のためならあらゆるモノを犠牲にする外道。ウフフ、ほんっと畜生♪」


「……そういうお前は、暗殺者(アサシン)か? 血の悪臭にまみれた猟犬が、随分偉そうな口を利く」


「いやですわ。これでも私、一応〝騎士〟ですのよ?」


 マリアはクスクスとお淑やかに笑って見せる。


「ご安心くださいませ、ここでの会話は口外しないとお約束しますから」


「ならばなんの用だ。意味もなく付け回していたワケではあるまい」


 ギロリと睨むアベル。

 そんな彼に対し、マリアはフードの奥から目を覗かせて、


「……アベル様は、ルーベンス王国でも指折りの魔術師――と聞いております」


「ハッ、指折り? 〝随一〟と言い給え。あの国で私と対等の実力を持った魔術師など、いようものか」


「これは失礼。ならば随一の魔術師であるアベル様は――〝古代魔術〟に興味はなくて?」


「――!」


 ――アベルはその言葉を聞いた瞬間、驚いて目を見開く。

 だがマリアはそんな彼の様子を気にも留めず、


私たち(・・・)はその研究をしておりますのよ。故に、優れた魔術師を欲している。ええ、まさにアベル様のような。もし成果を出せれば、皇帝陛下もきっとお喜びになるわ」


 クスクスと笑いながら話すマリア。

 アベルはしばし呆気に取られるが――すぐに歪な笑みを口元に浮かべた。


「……ク、ククク……そうかそうか。この稀代の魔術師アベル・ベルグマイスター、どうやら運に見放されてはいなかったらしい」


 ――この時、アベルは確信した。

 アシャール帝国の皇帝は、やはり気が狂っていると。


 それはコイツらも同様だ。

 古代魔術? 古代魔術だって?

 バカバカしい。


 何万年も前に失われ、現代の魔術より遥かに恐ろしかったとされる古の秘術。

 現代魔術は個人の魔力を使って発動しているが、古代魔術は異界の力を借りて発動するという全く異なる技術だったらしい。

 言い伝えでは、その力を暴走させた大魔術師が世界を滅ぼしかけたのだとか。

 しかし一人の勇者が大魔術師を倒したことで、世界は救われたとかなんとか……。


 現在では古代魔術をどうやって発動していたのかを記す資料は全く残っておらず、ルーベンス王国の魔術学会では十年以上も前に再現不可能と結論付けられている。

 つまり、お伽噺に等しいのだ。

 そんなモノを本気で研究している時点で、アシャール帝国の魔術レベルは程度が知れる。


 ……だがこれは、皇帝に取り入る絶好のチャンスにもなるだろう。

 面白いじゃないか。

 コイツらは私を利用するつもりでいるのかもしれないが、利用されるのは貴様らの方だ。

 この私の偉大な魔術を目の当たりにすれば、愚かな皇帝は〝古代魔術〟だと信じてしまうだろうな。


「よかろう、協力を約束する。このアベルの魔術、存分に活用してくれ給え」


「それはそれは、期待しておりますわ。……では、コレを」


 マリアはおもむろに、懐からあるモノを取り出す。

 それは紋様が描かれたペンダントのようだった。


「これはアミュレット……いや、タリスマンか?」


「お守りのようなモノです。ただ……それがお役に立たないことを祈りましょう」


「……?」


 それは、どういう――アベルが聞き返そうとした、その矢先だった。


『て――敵襲――ッ! 敵襲だああああああ――――ッッッ!!!』




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