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第23話 ワシだけは殺さないで


「……これが、あの難攻不落と呼ばれた『ジークリンデ要塞』だと? 脆すぎる……」


 ――『ジークリンデ要塞』を陥落させ、要塞内に入城していたアシャール帝国軍の指揮官はため息を漏らす。

 彼の名はクロード・カステン。

 精悍な顎髭が特徴的な壮年の男であり、文武共に優れた名将としてアシャール帝国で知られた人物でもある。


「クロード様、敵の指揮官らしき者たちを捕らえました!」


「うむ、我の前まで連れてこい」


 クロードが指示すると――縄で縛られた二人の貴族が連行されてくる。

 そう、ヨハンとアベルの二人だ。


「な、なにをする! 放せ、ワシはベルグマイスター公爵家当主、ヨハン・ベルグマイスターであるぞ!? 無礼であろうがぁ!」


「……」


「ふむ……公爵家当主ということは、貴様の方が要塞の総司令官か?」


「な、なんだ貴様! ワシを誰だと思っておる!? ワシに傷でもつけたら、すぐ処刑台に――!」


 ヨハンが言い終えるよりも早く、クロードは腰から剣を抜いてヨハンの首筋にあてがう。

 これは「いつでも首を落とせるぞ、黙れ」という意思表示だ。


「ヒ、ヒィ……!」


「質問にだけ答えろ。お前が総司令官で間違いないか?」


「そうです。その男が司令官のヨハン・ベルグマイスター、私が息子のアベル・ベルグマイスターでございます」


 ヨハンの代わりに、アベルが答えた。

 酷く取り乱す父親と違って、彼は両目を閉じて冷静に構えていた。


「ア、アベル貴様……!」


「そうか、こんな奴を国防の要に据えるとは……ルーベンス王国将兵の質も地に落ちたと見える」


 クロードはヨハンから剣を離すと二人を見下ろし、


「さて、貴様らは我が軍の捕虜となった。であるからには我に献身的に協力し、ルーベンス王国軍の情報を知り得る限り吐いてもらう。さすれば敵将として最低限の待遇は保証しよう」


「な、なに!? 本当か!」


「だが……生憎と我は、権力を笠に着る貴族という奴が反吐が出るほど嫌いでな? 二人ももてなしてやる気はない。故に……貴様ら二人のどちらかだけにしようかと思うが、どちらがいいかな?」


「そ、そそそんなの決まっておるだろう! ワシだ! ワシを助けろ! 頼む、ワシだけは助けてくれッ!」


 すがりつくように叫ぶヨハン。

 その姿はあまりに見苦しく、周囲の将兵たちはせせら笑っている。

 まるで豚のよう――いや、そう言っては豚に失礼になってしまうほど、あまりに醜い姿だった。


「……息子の方、アベルと言ったか? 貴様はどうだ? 助かりたいか?」


「……どこまでいっても、私は人の子です。親の無事を願わぬ子がどこにおりますでしょう? どうぞ、父ヨハンをお助けください」


 務めて冷静に、アベルは言った。

 そんな彼の様子に「ほう……」とクロードは唸る。


「親子でここまで人徳に差があるとは、おもしろい。よかろう――アベル・ベルグマイスター、貴様の待遇を保証してやる。丁重に扱うと約束しよう」


「ま、待て! ワシは、ワシはどうなる……!?」


「…………我と同じく、我の部下にも貴族嫌いは多くてな。一応殺さないように言っておいてやるから――精々可愛がってもらえ」


「い……い……いやだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」


 アシャール帝国軍の兵士たちに引きずられていくヨハン。


 そんな父の姿を見て――アベルは、僅かに口元に笑みを浮かべる。

 その後、アベルはヨハンと異なり丁重に兵士たちに案内されるのだった。




「――『ジークリンデ要塞』攻略おめでとうございます、クロード様。まるでお手本のような攻城戦でございましたわ」


 残ったクロードの背後に、一人の女性が現れる。

 頭からすっぽりとフードを被り全身もマントで覆っているため、その姿はほとんど見ることができない。

 ただその背丈は低く、甲高い声は少女のよう。

 それだけでもかなり若い人物であることはわかる。


「……マリア・ルエーガー、なにをしに来た」


「いやですわ、そんな怖い声を出さないでくださいませ。お祝いを申し上げにきただけですのに」


「此度の戦、貴様がもたらした情報がなければ数日は攻略が遅れていたはず。どうせ手柄の半分は自分の物だと言いたいのだろう?」


「ウフフ♪ 私の情報がなくても数日遅れで攻略できたと断言できる辺り、やはりクロード様は名将ですわぁ」


「……」


 フードを被ったマリアという女を睨み付けるクロード。

 彼には、どうしてもこの女がいけ好かなかった。


「我は貴様を信用せん。中央の高官共と違ってな。剣の錆びになりたくなければ、大人しくしておくことだ。――元『ヴァイラント征服騎士団』第四位(ナンバーフォー)、マリア・ルエーガー」





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