第21話 『ジークリンデ要塞』救援戦
「――ローガン騎士団長、今……なんと?」
ギルベルトはぎょっとした表情で、一歩前に出る。
「今、この僕とオスカーで団員を率いろと、そう仰いましたか!?」
「うむ、確かにそう言った」
「冗談じゃない! こんな素人と一緒に指揮など執れません! 『ジークリンデ要塞』へ行くのは、僕一人で十分です!」
怒りを露わにするギルベルト。
まあ――無理もない。
俺は『ヴァイラント征服騎士団』に入って日が浅いし、ましてや兵団を率いた経験など皆無。
それなのに第二位と同格を与えて一緒に頑張ってねなどと言われたら――そりゃ怒るよなと思う。
「あの、ローガン騎士団長、流石にそれは俺自身も反対です。俺は兵を率いた経験などないし、ならばむしろリーゼロッテを行かせた方が……」
「いいや、此度の戦には必ずやオスカー殿の力が必要となります。これは決定ですぞ」
「ローガン騎士団長、僕の実力をお忘れですか!? この〝魔剣士〟ギルベルト、2千も兵をくだされば10万のアシャール帝国軍など簡単に蹴散らして御覧に入れます!」
「……ギルベルトよ、先程お主とオスカー殿は訓練場で決闘をしていたそうだな?」
「っ!」
「ワシはお主の実力を過小評価などしておらん。だがな……オスカー殿の力を、お主も垣間見たのではないか? どうなんだ?」
「ぼ、僕は……っ」
「騎兵を中心に5千名集めてお主らに預ける。今夜出立せよ。よいな」
「クソっ――失礼しますっ!」
感情を処理し切れなくなったギルベルトは、俺たちに背を向けて執務室から出て行ってしまう。
残された俺たちは実に気まずいムードとなるが、
「やれやれ、やはり彼奴はまだ若すぎる。申し訳ありませんな、オスカー殿。ギルベルトにはワシからよく言っておきます」
「い、いえ……しかし本当によろしいのですか? こう言ってはなんですが、自信はありませんよ……?」
「大丈夫です。オスカー殿には、補佐としてレーネを随伴させましょう」
ローガン騎士団長がその名前を出すと、使用人のレーネさんが彼の横までやって来る。
その顔は相変わらず無表情だ。
「レーネさんを……?」
「ええ、こう見えて使える子ですぞ。きっと役立つはずです」
「よろしくお願いします、オスカー様。精一杯ご奉仕しますね、愛込め♡」
「は、はぁ……」
全くの無表情でそう言われても、逆に怖いと感じるんだが……。
というか、使用人の子を戦場に連れて行って大丈夫なのだろうか……?
いや、『ヴァイラント征服騎士団』で使用人を務めるくらいなんだから、心配はいらないのかもしれない。
「さて、それでは一旦解散と致しますか。オスカー殿は出陣の準備をしておいてくだされ。……ああ、デニス、お主はちょっと残ってもらおう」
「えぇ? 俺だけっすか? へぇ~い」
なんとも気の抜けた返事をするデニスさん。
そうして俺たちは二人を執務室に残し、その場を去るのだった。
✞ ✟ ✞
「そんで、俺だけ残してどうするつもりです? つーか、さっきの話で俺だけ触れられなかったっすよね。デニスさんショックぅ~」
執務室に残ったデニスは、後頭部に手を組んで間延びした声を出す。
だが――そんな彼とは対照的に、ローガン騎士団長の表情は真面目そのものだった。
「……デニスよ、あの件に関して口外――特にギルベルトには伝えておるまいな?」
「……あの件って?」
「惚けるな。お主が尋問したブリアックという工作兵……奴が色々と口を割っていただろう」
「ま、洗いざらい吐かせましたからねぇ。ぶっちゃけ今回の『ジークリンデ要塞』への侵攻もとっくに決まってたみたいですし。ただウチが落ちなかったせいで、随分と予定を早めやがったみたいですけどぉ?」
「ワシらは出遅れてしまったな。だがなにより問題なのは……今回の『ジークリンデ要塞』侵攻に、我が『ヴァイラント征服騎士団』の裏切り者が関わっていることだ」
「……ええ、そうっすね。オスカーのお坊ちゃんにも一切伝えてないですよ。なんたって、ウチらの間じゃ禁句ですから。――『ヴァイラント征服騎士団』、第四位の話は」
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