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のじゃっ娘巫女のきつね様  作者: 大官めぐみ
1/3

飛狐《ひき》

三話完結です(もしかしたら続きかくかも)

楽しんでいただけたら幸いです。よろしくお願いします

「遅ーい! 馬鹿たれ!」


「こんな時間帯に食い物持ってきたってのに馬鹿はないだろバカ」


「お腹が減って死んじゃうかと思ったではないか! 我をなんだと思っているのじゃ!」


「万年金欠の高校生に食い物をたかる生意気な女子小学生」


「ちがーう!! 我はここの守り神なんじゃぞ! 偉いんじゃぞ!」


「だったら一人で食い物くらい調達できるだろうが」


「うっさいわ! こんな辺鄙へんぴな田舎の島にとばされたからじゃ。左遷じゃ左遷! 我だってこんなところ来たくなかったんじゃ!」


「ほーん。どーでもいいけど食わないなら俺が食うぞ。俺だって腹減ってんだ。ってあッ!」


「これは我のじゃ」



 草木も眠る丑三つ時。

 そんな真夜中の神社で二人の声が騒がし気に響いていた。


 金欠の男はパジャマ姿なのかタンクトップにハーフパンツといった風貌で名は近衛拓夢このえたくむ。春にここ、未来島みらいじまに引っ越してきた高校二年生だ。

 そんな彼が島に一つしかないコンビニからなけなしのお金で買ってきたおにぎりを小学生ほどの少女ががつがつと少女らしからぬ音を立てて食べている。


「なぁ」


「なんじゃ」


「その恰好暑くないのか? ほら、お前一応自称狐だろ? 毛皮に巫女服ってどう考えても暑苦しいじゃんか」


「我は守り神じゃって言っておるじゃろう! それに自称ではない! 正真正銘の狐巫女じゃ!」


「耳も尻尾もないのに?」


「うぎゃあぁぁぁぁ!! 人が気にしていることを言うな! それに我には名があるんじゃ! 飛狐ひきという甘美な名が。ほれ、言うてみい!」


「ひきこもりの飛狐か。それはそれはいい名前だな」


「むきゃああぁぁぁぁ! 拓夢! 呪うぞ馬鹿たれ!」



 足をばたつかせて抗議する飛狐。拓夢はそれをなだめながら頬についているご飯粒を優しくつまみ口に入れた。

 

 きつね色の優しい色の髪にカラメル色の大きな瞳。頬は柔らかそうな形を保っていて、なおかつ髪型が狐の耳をかたどっているのだから愛らしい。

 

(黙って飯食ってるときは可愛いんだけどな)

 

 拓夢がそう思ってしまうのも仕方がないだろう。

 そんな狐巫女はおにぎりを三つ食べ終えると小さく息をつきお腹をさすった。けぷっと小さくげっぷする姿は小学生そのもの。



「ほら。食べたら仕事だろ? 自称狐の神さま」


「自称ではないと何度言ったらわかるんじゃ!」



 むむむっ唸った飛狐は「これをできるのは神の証拠じゃぞまったく」と呟くと巫女服の裾をばさっとはためかせながら立ち上がる。

 そして両手をガシッと組むとぷっくりと膨らんだ桜色の唇で小さく呪文を唱え始めた。


「我、狐の巫女が命ずる。空間を覆いし結界よ、呪詛を振りまく者共の姿を顕現し微塵と破れさせ給え」


 一言呟いていくうちに飛狐の周りを蒼い炎が照らしていく。

 蒼い炎に照らされる飛狐の顔は真剣なもので拓夢は毎度のことながら見とれることしかできない。

 言い終わると彼女の周りを十二の炎が浮かんでいて円を描いていた。



「ふぅ」


「ほら俺にアレよこせ。お前は刀しか振れないんだから」


「やかましいわ! 集中しとるんじゃ。ちっとは静かにせんか馬鹿たれ」


「弓、あ、あった。よっと」


「ああぁぁぁぁぁ!! 勝手に本殿に入るでない!!」



 拓夢は平然と神社の戸を開け本殿に上がり込むと呪詛札が張り付けられてある木箱を開ける。そして刀を二振り、弓を一張いっちょう取り出すとずかずかと出てきた。



「土足で上がるなと何度言ったらわかるんじゃ!」


「いいだろ別に。お前を祀っているいる神社なんだし。ほれ飛狐、刀差せ」


「一人でできるから勝手に体を触るでない! えっち、スケベ! アホ!」


「そういうのはもう少しグラマーになってから言おうな」



 飛狐の帯にねじ込むように刀を差すと拓夢は矢筒を背負い頷く。

 飛狐は勝手に体を触られたことに――いつものことなのだが――ショックを受けたのか涙目になりながら頬を膨らませる。



「拓夢のばか。我は年上のおなごなのじゃぞ。ばーかばーか」


「悪かったって。ほら、時間はないんだろ? あとでパフェでも奢ってやるから」


「ふん。そこまで言うなら許してやらんこともない」



(チョロ)



 拓夢がそう思うと同時に飛狐は両手をバッと開き左足を上げる。

 そして、


 ———カンッ。


 下駄で涼やかな音を奏でた。足を落とした一枚の石畳から波紋が広がるように色が変化していく。

 午前二時を覆っていた黒色から灰色へ。

 ざわめいていた木々も、せせらいでいた川も、凪いでいた海もすべて灰色に染まっていく。

 灰色に染まっていないのは拓夢と飛狐の二人だけ。



「いつもながら思うんだがこの世界に入るとお前狐巫女になるのな」


「こ・れ・が、我の本来の姿なのじゃ!」


「本来の姿は昼境内で昼寝しているひきこもりニートだろ」


「むきゃああぁぁぁぁ! バカにしおって。お前はどうせ我がいなくなっても慌てたりせんとか思っておるんじゃろう。我がいなくなったら悲しくなるぞ~。うぇんうぇん家で泣くことになるぞ~」


「はいはい。分かったから。ほら今日も斬るんだろ? 境内にはいないんだから。さっさと行かないと」


「決めたぞ。今日おぬしのことは助けん。覚悟せい」


「はいはい」



 拓夢は飛狐の頭をなで鳥居の前に陣取った。そして灰色の世界に向かって矢を放つ。

 笛が取り付けられてあるそれはひゅるるると軽やかな音を立てて飛んでいき、やがて聞こえなくなった。

 拓夢が振り向くと飛狐はむっすーと頬を膨らませていた。明らかに不機嫌。

 


「わ、悪かったって。勝手にしたのは謝るから。な? 機嫌直して行こうぜ?」


「もう拓夢なんて知らん」


 飛狐は懐から半分に割れた面を取り出すと顔につける。そして半分だけ出した顔で拓夢を見やると「ばーか」と呟いてにっと笑ったのだった。

次話は明日0時に投稿します

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