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死神王弟と刻印天使

死神王弟と刻印天使 番外編「初めての魔法授業」

作者: eye人

家庭教師ユーノットによる、魔法授業です。


 水神王国には、死神王弟と呼ばれる王族がいる。彼が産声を上げた日に、実父である先代神王と、実母である第七側妃が亡くなったことから、付けられた異名だ。彼の名前は、ジャンクティード・ブロッサムロード。今年で生誕五年目を迎える、まだ小さな子どもである。


「まほう? 」


 ジャンクティードは舌ったらずに言葉を発する。彼の正面に立つ、家庭教師ユーノット・カーリットは厳粛な面持ちで頷いた。


「はい、魔法です。王族であらせられます殿下にとって、必要不可欠な訓練です。この、北の離宮が、春夏秋冬問わず、快適に過ごせるのも、魔法によるものです」

「そうなんだ」


ジャンクティードは、相槌を打ちながらも、言葉を呑み込めていない顔をする。それを静かに眺めていたユーノットは、机の上に、青色の葉っぱを置いた。


「魔法を使うには、自身の魔力と、詠唱、そして触媒と呼ばれる素材が必要となります。詠唱とは、神様に魔法の使用許可を頂く重要な儀式でございます。そして、こちらが、今回、魔法に使用する触媒です。では、実際にお見せいたしましょう」


言うが否や、ユーノットは青い葉っぱを手に取った。もう片方の手には、空の小瓶が握られていた。


「神秘奏上。

偉大なる水神よ。

我に水の神秘を授けたまえ」


ユーノットが唱えると同時に、青い葉っぱが塵と化し、青い魔法陣を成型する。魔法陣から青い液体が生成され、それが空の小瓶を満たす。幻想的な光景に、ジャンクティードは目を輝かせた。


「すごい、なにそれ! 」

「聖なる水です」


ジャンクティードの目の前に、ユーノットは青い液体が入った小瓶を丁寧に置いた。ジャンクティードは穴が開くほど青い液体を見つめる。


(あお……わたしと、いっしょだ)


青い液体を写す瞳も、また青かった。ジャンクティードは、自分以外に、北の離宮で青を身につけている者を見たことが無い。ユーノットだって、黒を基調とした素朴なドレスを着ている。


 青い液体に親近感を覚えたジャンクティードは、満面の笑みで見つめていたが、それは数分で終わりを告げる。ユーノットが、無情にも、ジャンクティードの前から小瓶を取り上げた。


「あ、」

「王弟殿下。これは、魔法の触媒に過ぎません」

「……まほう、じゃないの? 水が、いきなり、でてきたのに? 」

「聖なる水は、魔力を清浄な水に変換したものです。殿下の生活に使われている水は、全て聖なる水でございます」


ユーノットの淡々とした説明に、ジャンクティードは目を丸くした。


「おちゃも? 」

「はい」

「おふろも? 」

「はい」


ありふれた現実の一部と聞かされ、ジャンクティードは何とも言えない顔になった。ユーノットは特に反応することなく、真剣な眼差しで小瓶を見つめる。


「神秘奏上。

偉大なる水神よ、いと慈悲深き神よ。

神前に清らかなる青を捧げる。

水のしるべを我に許したまえ 青の使い魔」


再び彼女が唱えると同時に、青い液体が塵と化し、青い魔法陣を成型する。魔法陣から放たれる眩い光が収まると、青い蝶がユーノットの指に止まっていた。ジャンクティードは、爛々と目を輝かせる。


「なにそれ! 」

「使い魔でございます。聖なる水を触媒に生み出しました」


青い蝶は、ひらひらと舞うと、ジャンクティードの手に止まる。ジャンクティードは、予想外の出来事に固まった。だが、瞳は好奇心を抑えきれていなかった。


「さ、さわってもいいの? 」


蝶とユーノットの間で、ジャンクティードの視線が慌ただしく動く。ユーノットは笑顔こそ無かったが、柔らかな声音で頷いた。


「どうぞ」


許可を得たジャンクティードは、恐る恐る、青い蝶に触れる。


「あ、なんか、ひんやりしてる」

「使い魔は、生き物ではございませんから、体温はありません」

「へー」


ユーノットの説明通り、青い蝶から生命の力を感じない。誰も何も言わなければ、置物と見間違える程だ。しばらくジャンクティードが青い蝶に夢中になっていると、青い蝶はユーノットの元に舞い戻った。


「あ、」

「では、魔法の訓練をいたしましょう」

「わたしも、つかいま、だせるのか!? 」

「いいえ」


あっさりと否定され、ジャンクティードは肩を落とした。そんな彼を気に留めることなく、ユーノットが次に取り出したのは、水色の葉っぱである。それを、ジャンクティードの前に丁寧に置いた。


「まず、殿下が行うべきは、魔力の制御方法です。

こちらの触媒で聖なる水を生成し、その水で、ご自分の名前を書いて下さい」


水色の葉っぱの隣に、銀の平らな食器を置く。その隣に、先ほどユーノットが唱えた言葉が書かれた紙が並んだ。


「手順は、先ほど私が見せた通りです。まず、こちらの葉を触媒に、聖なる水を作り出します。そして、聖なる水を触媒に、水で描いた名前を完成させます。こちらに関しては、単純な魔力操作なので、使い魔などの名称はございません。

では、訓練を始めて下さい」

「うんっ」


ジャンクティードは、気を取り直して、聖なる水を作り出す。こちらは、無事、水色の液体が出来上がった。しかし、ユーノットが生成した色と違うので、ジャンクティードは首を傾げる。


「ユーノット、いろ、さっきとちがうよ」

「魔法には、その属性に適した色があります。水属性における、最上の色は、水神様を象徴する青色。その下位に位置する水色は、魔法の質が落ちます。今回は訓練なので、質を落としました」

「……あおより、だめだけど、これも、せいなるみず? 」

「勿論です」

「そっか、よかった」


失敗ではないと理解したジャンクティードは、意気揚々に、次の手順に進んだ。そして、見事に挫折した。ジャンクティードは、水面を睨む。


「うごいたのに、うごかない!! 」

「殿下。魔法は、すぐには身につきません。長い時間をかけても良いので、丁寧に行いましょう」

「うぅぅぅ……」


ジャンクティードは唸りながらも、一生懸命、水面を動かし続けた。結局、その日は、名前を書くことが出来ずに、授業が終わってしまった。


「では、本日の授業はここまでに。また、明日、お会いしましょう」

「……うん」


しょんぼりと落ち込むジャンクティードの肩に、青い蝶が止まる。ジャンクティードが視線を動かすと、ユーノットが淡々と告げた。


「明日まで、使い魔の存在に慣れてください。では、失礼いたします」


ユーノットは、慇懃丁寧に淑女の礼を取ると、ジャンクティードの部屋を後にした。ジャンクティードは、きょとんとする。だが、青い蝶の羽ばたきに顔を綻ばせた。


「……えへへ、いつか、わたしも、つかいま、だせるかな」



本編も引き続きお楽しみ下さい。

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