えっ!?その日ですぐに骨折が治るお仕事ってあるんですか!?
この国は、深刻な人手不足なんだと思う。
だからそのための労働改革もあるものだ。
そして、そーいう改革をする度に現場で働く人間という貴重になってくる。1人に対して求める仕事は多く、難しくなる。
ドゴオオォォッ
その仕事は時に危険を見ないこともある。
労働者が元気に働く午前中、1人の配達員が車に撥ね飛ばされた。
◇ ◇
「た、ただいま戻りました」
足をひきずり、額から流血している状態で帰って来た配達員。
休憩を3時間過ぎて、仕事仲間の元にやってきて彼は言った。
「助けてください。手伝ってください。終わりません」
「いや、そっちじゃない!どーしたお前!帰りがいつもより1時間遅いし!」
「車に撥ねられました……いや、身体が動くんで大丈夫です……」
「事故ったのか!?聞いてねぇぞ!」
事故が起きたらすぐに連絡しよう。救急、警察、保険会社、自分の会社と……。
事故内容を配達員は言った。
「生身で車に轢かれました」
「それしか見えねぇよ!どーしたよ、荷物は!?」
「午前中に持っていった分は一通り片付けましたけど……マジで足きついっす」
頭がボーっとするくらい熱い。血も汗も止まらない。
なんとか無事に、事故が終わった後に戻って来て、座り込んで一休み。
そんな状態を見て上司と仲間は訊く。
「どーする?大丈夫か?」
「ああ。……休ませて……病院行っていいっすか?」
「いや、お前の事じゃなくて、仕事が終わるかって訊いてるんだけど……」
「あんた等、鬼かよ」
いつもの事じゃないかと互いに感じ取って、座り込んでいる場合じゃない。出血がまず止まらないので、消毒と包帯とか色々つけてもらって
「で、午後の仕事いけるか?」
「待って。骨が逝ってる気がするんですけど……」
出血は自前や会社のを使ってなんとかなるが、骨だけはどーにもならない。
「車に轢かれたならナンバー覚えて、警察に連絡しながら、追いかけて来いよ!情けない!」
「ふざけんなーー!!んな元気あるなら、仕事やりきってねぇよ!!マンション前で轢かれて、5分は倒れてたんだぞ!」
「マンション前って事は……」
「車が出るところを轢かれたんだよ!人を撥ねておいて、猛スピードで行きやがった!!」
「スピード出てねぇから良かったじゃねぇか」
「よくねぇ!!」
人とは冷たいものだ。誰も助けてくんねぇの。まるでこの会社のようだぜ。
「でもな、警察に連絡しろ」
「午前配がまだあったんだよ!3分くらい道端で寝てから、アドレナリンだしまくってなんとか配達してたの!警察呼んでる暇ねんだよ!!だいたい、あんた等。午後、仕事できるかって、俺に訊くのか!?」
「うん」
「即答!?即答しましたね!!」
事故った時は頭と足が痛かった。頭の傷はその時どれくらいかは気付けなかった。足の痛みにしか気が回らず、こっちは血が止まらず、骨が軋んでいる実感も分かっていた。
かといって、まだ午前配があるため、少し休んでから続行した。
『荷物届けに来ました……』
『!ちょ、頭から血が出てますよ!』
お客様に言われてようやく頭の傷に気付いた……。頭というか顔か。こっちはそうでもなかったが、お客様を怖がらせたのは反省。
「とりあえず。午前できたんだから、少し手伝ってやるから午後も仕事しろ。飯は食ってこい」
それが指示かい。
「止血しとけば、大丈夫だろ」
応急処置と鉄分補給のための食事も終えた。まだ足も痛むし、頭もボーっとしているままであるが。こーいう事は言われると、”はい”とは言えない。午後からの仕事……というか、もう16:00を回っているけど。
「どーする、事故扱いするか?」
「……それ今、訊きます?」
「いちお交通事故だもんな。事故になったら、お前。今からしばらく自転車になるけど」
「それ言われるから電話したくねぇんだよ!!もーっ!自転車で今の業務ができるわけないじゃないですか!」
隠蔽は良くない事だと分かってはいるが、交通事故に遭おうが起こそうが。会社などに連絡いれてしまうと、保険やらなんやらの処理、配達員の運転技能のチェック、事故原因の検証、それらへの対応などなど。それらが終わるまで起こした側と遭った側は車などが乗れず、自転車になる。
「足やられてるのにそれ言うか!!ホントに鬼!」
大事なのは
「お前がまだ本社や警察、保険会社とかに黙ってるから、それ訊いてるんだよ!報告次第!お前次第!俺にはお前が骨折してても、治るお仕事を与えることができるんだ!」
私がそれを黙り、痛みを堪えて、何事もないように通常の業務をこなすか。(こっちを選んだ)
私がそれを今からでも伝え、病院行ってから診断書をもらい、その後は痛みを堪えて、自転車でしばらく、通常の業務をこなしつつ、事故原因などの検証でさらに時間をとって、さらに説教を食らうか。
「休む選択肢はないんですか?」
「あるわけねぇだろ。人手不足なんだから……」
「まー、コロナじゃねぇから!客に感染するとかじゃねぇから、なんとかしろ!お前、轢かれた時からそっち選んでただろ!」
「…………はぁ~……やだ、この会社」
「いつもの事だろ」
ずーっと足が痛いまま、仕事をする。
病院にようやく行ったのは事故から、2週間以上してからのこと。(平日休みがなかった)