第9話:星空の下で……
深夜・・・
響の家のリビングは酷い惨状だった。
ところどころに空き缶が、一升瓶が散らばり、そこには疲れてしまったのか5人が寝てしまっていた。
ところどころ服がはだけているのには目を逸らしておく。
「ふぅ、やっと静かになったか・・・」
なんとか自信を守り抜き疲れ切った響がポツリと言う。
あの後は大変だった。自身に掛けられたバインドを魔力を使って無理やり解き、尚も襲いかかってくる理沙と薫から逃げ続け10分、ついに壁際へと追いやられてしまった響は、雷撃を放ち2人を気絶させたのだった。
「明日何も覚えてるなよ・・・」
切にそう思う響。覚えていた時のことを考えるとそれだけで背筋に寒気が走る。
そしておもむろに立ち上がり、庭へと続く窓を開け、そこへ腰かける。
「星が綺麗だ・・・」
空を見上げ感想を言う。空には三日月が浮かんでおり、雲が一つもなく星がよく見える。
「・・・・・」
どれくらいそうしていたのだろうか?
不意に後ろから声をかけられる。
「響先輩?」
声の主は棗である。
「起しちゃったかな?棗ちゃん」
振り返って言う響。
「いいえ!少し前から起きてて、それで先輩が起きたから、どうしたのかなって・・・隣いいですか?」
「え?ああ、うん。いいよ」
棗の問いかけが少し意外だったのか、少し驚きつつも承諾する響。
「失礼します」っと響の右隣に腰を降ろす棗。
「星をね、見ていたんだ。」
「とても綺麗ですね?星空。まるでどこまでも吸い込まれそう。」
フフっと笑顔で言う棗。
「星空って素敵ですよね。私は昔から悩み事があると星空を見るんです。考え事していても全部吹き飛んじゃうんです。なんか、お前たちはこの空の中じゃ、ちっぽけな存在なんだぞって言われてるみたいで。変ですよね?こう言うの。」
「そんなことないよ。俺にも似た経験がある。」
棗の言葉にそう返す響。
「何か、悩み事があるんですか?」
「え!?」
棗の言葉に今度こそ驚きを隠せない響。
「さっきの先輩の背中を見てると、どっかに消えてしまいそうで。ホントは声をかけないつもりだったんです。でも、それを見て居ても立ってもいられなくて・・・それで。」
棗が懸命に自分の思いを言葉にする。
「そっか。ありがとう。棗ちゃん。」
そう言って棗の頭を撫でる響。棗はくすぐったそうにしている。
「確かに、悩み事って言えば悩みごとかな?でも、もう答えは出てる悩み事なんだ。でもね、それを実行するのはちょっと怖い。」
そう言って悲しみを宿した目をする響。
その眼を見て何も言えなくなってしまう棗。
「・・・・」
「・・・・」
お互いに無言の時間が過ぎる。
沈黙を破ったのは棗だった。
「響先輩はどうして魔導士になろうと思ったんですか?」
「魔導士になった理由か〜・・・」
棗の言葉に、どこか困ったように考える響
「私は昔ある人に助けてもらって。だからその人みたいに、助けられたらいいなと思って。私のような人を減らしたいなと思って魔導士になりました。」
自身の過去を少し話す棗。
「そっか、棗ちゃんは強いな・・・」
棗の理由を聞いて感心する響。棗が疑問に思い問おうとするが、その声は響によって阻まれる。
「・・・俺はその時、自分をそんな目にあわせた奴に対する復讐心しかなかった。・・・俺が魔導士になった一番の理由はね・・・復讐のため・・・なんだよ。」
そう言って今にも泣きそうな顔をする響。
棗はそんな響を見て抱きついた。
「おいおい!?棗ちゃん?大丈夫だよ。今はそんなこと考えてないから。理由は詳しく話せないけど、もう大丈夫だから。」
そう言って説得する響。
納得したのか棗は響から離れる。その棗の顔には涙が流れていた。
「やっぱり、棗ちゃんはやさしいな。」
心からそう思う響。
「・・・・」
「・・・・」
またも静寂が訪れる。
そして、今度は響がその静寂を打ち破った。
「棗ちゃん。俺のこともこれからは「響さん」って呼んでくれないかな?」
「え?」
質問がよく分からずに聞き返す棗。
「だってさ、理沙や努、薫には「さん」付けなのに、俺だけ「先輩」だったろ?この際だから俺も「さん」付けがいいなって」
その言葉に一瞬キョトンとした後、笑顔になり棗は言う。
「フフフ。はい、わかりました。響「さん」。」
「ありがとう」
改めて感謝を言う響。その言葉にはいろんな気持が乗っていた。
「さて、いくら夏だからってこれ以上外にいたら風引くかも。中に戻って寝ようか。空いてる部屋は自由に使っていいから。他の奴らは朝まで放っておこう。」
そう言いながら立ち上がる響。
「わかりました。響さん」
そう言って笑顔になり2人は家の中へと戻っていく。
後には空いっぱいに輝く星空が2人を見守っていた。
翌朝・・・
「お〜いお前ら、いい加減に起きろ〜!もう昼になるぞ。」
「う、うぁ〜〜」
響の声に理沙たちがもぞもぞと起きてくる。
「おはようございます、理沙ちゃん、薫さん、努さん」
「おはよ、棗。あぁぁぁ、頭が痛いよぅ」
「私もなのです」
「俺もだ」
棗のあいさつに頭を押さえながら返す3人。
「大丈夫ですか?回復魔法かけましょうか?」
「放っておけよ、棗ちゃん。そいつらは自業自得だ。」
棗の心配そうな言葉に、響は昨日のことを思い出しながら言う。
「兄さん、それはあんまりじゃないですか?理沙先輩、薫先輩、努先輩、お水をどうぞ。」
心がコップに水を入れて持ってくる。
「ありがとう、心」
「ありがとうなのですよ」
「ありがとな」
礼を言う3人。
「それより、何で心ちゃんは大丈夫なんですか、響さん?昨日はあんなに酔っぱらっていたのに。」
心の態度を疑問に思った棗が声をかける。
「心も昔にちょっとな・・・あまり追及しないでくれ。」
昔、「獄炎」に付き合い飲まされたことを思い出しながら言う響。
実は心も昔にかなり飲まされた経験があるのだ。
その経験によって、酒には弱いが、その後の回復力が半端なく良くなってしまったのである。
「ん?ちょっと待てよ。何で棗ちゃんが響のことを「響さん」なんて呼んでるんだ?」
「あれ?そう言えば昨日までは「響先輩」だったのですよ。」
棗の響に対する呼び方を疑問に思った努と薫が口にする。
「ん?ああ!昨日の夜、お前らが寝ちまった後にちょっとな。いつまでも俺だけ先輩って呼ばれるのも何か変だろ」
「なので響さんって呼ぶことにしたんです。」
響の説明に頷きながら棗が受け継ぐ。
「兄さん?私の棗ちゃんを取ったりしたら許しませんよ?」
「え!?」
響たちの説明を聞いていた心が言い、棗が驚く。
「別に取りはしないよ。ほほぅ。心と棗ちゃんはそう言う関係だったのか。気付かなかった。棗ちゃん、心を頼むな!」
「え?えぇぇ!?」
「よかったね、棗ちゃん。兄さんの公認も頂いたことだし、これからは堂々とラブラブできるよ」
「な、何の話をしているんですか、心ちゃん!!響さんも乗らないで下さい〜〜!!」
棗の叫びが響の家に響き渡る。
そしてみんなの笑い声が巻き起こった。
こうして響と心の幕を閉じて行った。