表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷の覇者  作者: 悠奏多
12/13

第9話:星空の下で……

深夜・・・


響の家のリビングは酷い惨状だった。

ところどころに空き缶が、一升瓶が散らばり、そこには疲れてしまったのか5人が寝てしまっていた。

ところどころ服がはだけているのには目を逸らしておく。


「ふぅ、やっと静かになったか・・・」

なんとか自信を守り抜き疲れ切った響がポツリと言う。

あの後は大変だった。自身に掛けられたバインドを魔力を使って無理やり解き、尚も襲いかかってくる理沙と薫から逃げ続け10分、ついに壁際へと追いやられてしまった響は、雷撃を放ち2人を気絶させたのだった。


「明日何も覚えてるなよ・・・」

切にそう思う響。覚えていた時のことを考えるとそれだけで背筋に寒気が走る。


そしておもむろに立ち上がり、庭へと続く窓を開け、そこへ腰かける。


「星が綺麗だ・・・」

空を見上げ感想を言う。空には三日月が浮かんでおり、雲が一つもなく星がよく見える。


「・・・・・」


どれくらいそうしていたのだろうか?

不意に後ろから声をかけられる。

「響先輩?」


声の主は棗である。


「起しちゃったかな?棗ちゃん」

振り返って言う響。


「いいえ!少し前から起きてて、それで先輩が起きたから、どうしたのかなって・・・隣いいですか?」


「え?ああ、うん。いいよ」

棗の問いかけが少し意外だったのか、少し驚きつつも承諾する響。

「失礼します」っと響の右隣に腰を降ろす棗。


「星をね、見ていたんだ。」

「とても綺麗ですね?星空。まるでどこまでも吸い込まれそう。」

フフっと笑顔で言う棗。


「星空って素敵ですよね。私は昔から悩み事があると星空を見るんです。考え事していても全部吹き飛んじゃうんです。なんか、お前たちはこの空の中じゃ、ちっぽけな存在なんだぞって言われてるみたいで。変ですよね?こう言うの。」


「そんなことないよ。俺にも似た経験がある。」

棗の言葉にそう返す響。


「何か、悩み事があるんですか?」


「え!?」

棗の言葉に今度こそ驚きを隠せない響。


「さっきの先輩の背中を見てると、どっかに消えてしまいそうで。ホントは声をかけないつもりだったんです。でも、それを見て居ても立ってもいられなくて・・・それで。」

棗が懸命に自分の思いを言葉にする。


「そっか。ありがとう。棗ちゃん。」

そう言って棗の頭を撫でる響。棗はくすぐったそうにしている。


「確かに、悩み事って言えば悩みごとかな?でも、もう答えは出てる悩み事なんだ。でもね、それを実行するのはちょっと怖い。」

そう言って悲しみを宿した目をする響。

その眼を見て何も言えなくなってしまう棗。


「・・・・」

「・・・・」


お互いに無言の時間が過ぎる。

沈黙を破ったのは棗だった。


「響先輩はどうして魔導士になろうと思ったんですか?」


「魔導士になった理由か〜・・・」

棗の言葉に、どこか困ったように考える響


「私は昔ある人に助けてもらって。だからその人みたいに、助けられたらいいなと思って。私のような人を減らしたいなと思って魔導士になりました。」

自身の過去を少し話す棗。


「そっか、棗ちゃんは強いな・・・」

棗の理由を聞いて感心する響。棗が疑問に思い問おうとするが、その声は響によって阻まれる。


「・・・俺はその時、自分をそんな目にあわせた奴に対する復讐心しかなかった。・・・俺が魔導士になった一番の理由はね・・・復讐のため・・・なんだよ。」

そう言って今にも泣きそうな顔をする響。

棗はそんな響を見て抱きついた。


「おいおい!?棗ちゃん?大丈夫だよ。今はそんなこと考えてないから。理由は詳しく話せないけど、もう大丈夫だから。」

そう言って説得する響。

納得したのか棗は響から離れる。その棗の顔には涙が流れていた。


「やっぱり、棗ちゃんはやさしいな。」

心からそう思う響。


「・・・・」

「・・・・」

またも静寂が訪れる。

そして、今度は響がその静寂を打ち破った。


「棗ちゃん。俺のこともこれからは「響さん」って呼んでくれないかな?」


「え?」

質問がよく分からずに聞き返す棗。


「だってさ、理沙や努、薫には「さん」付けなのに、俺だけ「先輩」だったろ?この際だから俺も「さん」付けがいいなって」


その言葉に一瞬キョトンとした後、笑顔になり棗は言う。

「フフフ。はい、わかりました。響「さん」。」


「ありがとう」

改めて感謝を言う響。その言葉にはいろんな気持が乗っていた。


「さて、いくら夏だからってこれ以上外にいたら風引くかも。中に戻って寝ようか。空いてる部屋は自由に使っていいから。他の奴らは朝まで放っておこう。」

そう言いながら立ち上がる響。


「わかりました。響さん」

そう言って笑顔になり2人は家の中へと戻っていく。


後には空いっぱいに輝く星空が2人を見守っていた。








翌朝・・・


「お〜いお前ら、いい加減に起きろ〜!もう昼になるぞ。」


「う、うぁ〜〜」

響の声に理沙たちがもぞもぞと起きてくる。


「おはようございます、理沙ちゃん、薫さん、努さん」


「おはよ、棗。あぁぁぁ、頭が痛いよぅ」

「私もなのです」

「俺もだ」

棗のあいさつに頭を押さえながら返す3人。


「大丈夫ですか?回復魔法かけましょうか?」


「放っておけよ、棗ちゃん。そいつらは自業自得だ。」

棗の心配そうな言葉に、響は昨日のことを思い出しながら言う。


「兄さん、それはあんまりじゃないですか?理沙先輩、薫先輩、努先輩、お水をどうぞ。」

心がコップに水を入れて持ってくる。


「ありがとう、心」

「ありがとうなのですよ」

「ありがとな」

礼を言う3人。


「それより、何で心ちゃんは大丈夫なんですか、響さん?昨日はあんなに酔っぱらっていたのに。」

心の態度を疑問に思った棗が声をかける。


「心も昔にちょっとな・・・あまり追及しないでくれ。」

昔、「獄炎」に付き合い飲まされたことを思い出しながら言う響。


実は心も昔にかなり飲まされた経験があるのだ。

その経験によって、酒には弱いが、その後の回復力が半端なく良くなってしまったのである。


「ん?ちょっと待てよ。何で棗ちゃんが響のことを「響さん」なんて呼んでるんだ?」

「あれ?そう言えば昨日までは「響先輩」だったのですよ。」

棗の響に対する呼び方を疑問に思った努と薫が口にする。


「ん?ああ!昨日の夜、お前らが寝ちまった後にちょっとな。いつまでも俺だけ先輩って呼ばれるのも何か変だろ」

「なので響さんって呼ぶことにしたんです。」

響の説明に頷きながら棗が受け継ぐ。


「兄さん?私の棗ちゃんを取ったりしたら許しませんよ?」

「え!?」

響たちの説明を聞いていた心が言い、棗が驚く。


「別に取りはしないよ。ほほぅ。心と棗ちゃんはそう言う関係だったのか。気付かなかった。棗ちゃん、心を頼むな!」

「え?えぇぇ!?」


「よかったね、棗ちゃん。兄さんの公認も頂いたことだし、これからは堂々とラブラブできるよ」

「な、何の話をしているんですか、心ちゃん!!響さんも乗らないで下さい〜〜!!」


棗の叫びが響の家に響き渡る。

そしてみんなの笑い声が巻き起こった。


こうして響と心の幕を閉じて行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ