墓の前で
墓の前で
私のどこかで 死んでしまって良かったという気持ちがある
私のどこかで それを恥じる気持ちがある
誰にとっても死んでしまっていいことはない
と理性が言う
ただもう遅すぎた
その人のことを何もしらないままだった
後悔がさざ波のようにひたひたと
乾いた心に打ち寄せる
抜け殻以上の何も見当たらない
石に刻まれた名前と生年月日
不治の病はすっかり身体を侵食していた
老いの翳りは迫る夕暮れのように音もなく忍びよった
時間が魔法の杖で振られたように
一瞬のうちに消えた
命は蛍の光よりも儚い
ひととき捉えても空をつかむようなもの
もっと近くにいたかった
物語りの終りはぷつりと途切れて終止符だけが目を焼いた
もっと聞きたかったあなたの物語り
もっと知っておきたかったあなたという人
あなたは今どこを旅しているのか
聞きたかった行先