西航行9-コギ
前回まで:新型竜血環は禍の種を植え付けます。
フジはキンに、魔犬の子供タォと出会ってからの一部始終を話し、浄流輪を渡した後、自室で数種類の薬を調合した。
「聖水が効くのなら、これも効くでしょうか……」
試作したばかりの竜宝薬液が入っている瓶を手に取った。
まだ効果を確かめてはいない為、少し躊躇いが有ったが、小瓶に分け、調合したばかりの薬と共に袋に入れた。
そして、明けに向かう空を、船へと豪速で飛んだ。
♯♯♯♯♯♯
夜明け前の船内では――
アオとハクは、扉を叩く微かな音で目を覚ました。
そっと扉を開けると、
「母からの使者が参っております」
紫苑が申し訳なさそうに頭を下げた。
紫苑の部屋には、珊瑚と白い大狐が居た。
「天竜の王子様方、お初にお目にかかります。
コギと申します」恭しく一礼。
「先程、問題の竜血環に触れた方々の内に巣食う、禍々しい気を確認させて頂きました。
タォの内のものよりは、弱い気でしたが、確かに何かが潜み、王子様方を狙っております」
「タォは、今?」
「三の姫様がお預かり致しております」
「そうですか……
では、あの竜血環から何かが移った、という事ですか?」
「はい。失礼致しました。
ご存知だと思っておりましたので――」
「今、天界に行っていた者が戻りました。
少々お待ちください」
ハクがフジを迎えに出た。
フジの話を聞く。
「その禍々しい気なのでございますが、ひと月程前から、仁佳の国で感じ取っており、私が追っておりました」
仁佳の国は大陸南部に在り、大陸の三分の一を占める大国で、紫苑と珊瑚の故郷・東の国と、長く戦をしている。
「効果を試していたのでしょうか?」
「おそらくは……
人で試し、そして今回、魔人で試したのではないかと存じます」
「しかし、竜血環だと、竜は、まず触らねぇし、嵌められれば死んじまうから、種を植え付けても――」
「竜が死んでも、種が育つとしたら……」
「フジ……それ、恐ろし過ぎるぞ……」
「目指しているのは、そこでしょうね」
紫苑が扇子を顎に添え、視線を上げる。
「竜の強大な力を、易々と手に出来ますからね」
「その種が乗っ取るてぇのか……」
「コギ殿、種は、どのくらいの時間で効力を発するのですか?」
「私が得た情報でも、まちまちなのでございますが……
数時間から、十日程まで幅がございます。
ただ、傾向と致しましては、長く触れた者ほど、長く時間がかかり、強い効力を発しているようでございます」
「やはり、乗っ取りなのですか?」
「乗っ取られているのか、獣化しているのか……
様子が おかしくなったり、暴れたりした後、行方が知れなくなりますので、まだ、よくは判っておりません」
「連れ去られているんだな?」
「はい。そうとしか思えません。ですので――」
コギは八枚の御札を取り出した。
「三の姫様より預かって参りました。
こちらは、竜の皆様に――」
もう二枚、別の文言が書かれている御札を取り出し、
「こちらは、若様と姫様に」紫苑と珊瑚に渡す。
そして、帯に『人』『魔』『天』と書いてある御札の束を取り出した。
「各々の方用になっております。
同行される方、皆様、お持ちください」
「竜の分が、八枚ですか?」
「ご兄弟と慎玄様に、ですね?」
珊瑚が配る。
「はい」
「やはり、あの方も竜の血族なのですね?」
「フジ、どういう事だ?」
「仙竜丸が効いたのです。
あの薬は竜にしか効きませんから」
「もうひとつ、三の姫様から、こちらを――」
取り出したのは、竜の鱗の様な板に取っ手が付いた物。
「この気は!?」ハクとフジ
「お探しの物かと存じます」
ハクが手に取ると、板が拡がり、盾になった。
「護竜盾は妖狐王国に有ったのですか?」
「その昔、天竜王様より賜った物にございます」
「お借りしてもよろしいのですか?」
「お役に立てるのでしたら、喜んでお返し致します、との事でございます」
「ありがとうございます!」
天竜王子達は深々と頭を下げた。
「そんな……お顔をお上げください。
元々は天竜王家の宝でございますので」
その後、情報交換を続けているうちに、朝陽が射し込んできた。
「それでは、私は任に戻ります。
皆様、十分お気をつけください」
コギは恭しく一礼し、姿を消した。
「遺品を届けるのは、後回しにしてもよかったが……
伊牟呂と仁佳は、国境を接している。
様子を見てくるから、アオ、フジ、ここは任せたぞ」
二人が頷く。
「ハク兄様、翁亀様が、次の策を考えて下さっているのですが」
「じゃ、少し間を空けて行けばいいな。
伊牟呂の帰り、午後の巡視ついでに行ってくるわ」
♯♯♯
ハクは睦月に、姫とリリスの監視を頼み、一人で伊牟呂に飛んだ。
伊牟呂の城下町外れに降り、人姿になり、
「あ……中の国って、普通は黒髪なんだっけか?」
髪を黒くした。
大使館の門が見えた時、
「も、もしやっ、竜ヶ峰様!?」門番、平伏!
ま、想定内だな。
一応、頷く。
そうか、姓は『竜ヶ峰』なのか。
「このような遠方に如何用でございますか?
あ、いや、大使に直ぐにっ!」
駆けて行った。
ん~
これじゃ、魔物が俺達に化けて来たら、
すぐ入れてしまうな……
「お荷物、お持ち致します!」
いや、たぶん無理だから。
片手を箱から離し、制す。
「軽いので大丈夫です」にっこり
大使の部屋に通される。
「これは、黒之介様。
ようこそ、お出でくださいました」
ん? ああそうか、黒髪だからか。
クロは、そんな名なんだな♪
中の国では、そういう名が普通なのか……
「静香姫様もご一緒でございますか?」
静香!?
あの姫様、そんな名だったのか!?
笑うな俺、笑っちゃダメだっ!
「いえ、姫様は、まだ船上です。
途上で遭難船を発見致しましたので、遺品をお願い致したく参上致しました。
船の埋葬許可も頂ければと存じます。
こちら、姫様よりでございます」書簡を渡す。
「遺品、確かにお預かり致します。
埋葬許可の方は、船名をお調べ致しますので、暫しお待ち下さい」
船旗を広げ、確かめる。
「少々、出掛けたい所がございますので、昼前に、また寄らせて頂きます」
「畏まりました。
それまでには、ご用意致します」
「宜しくお願い致します」
そして、ハクは仁佳の帝都に飛んだ。
♯♯♯♯♯♯
動けぬ……いや……動いておる?
ワラワを勝手に動かしておるのは誰じゃ!?
ワラワは静香じゃ♪
この身体はワラワのものじゃ♪
ウソじゃ!!
おヌシは誰じゃ!?
ワラワの身体を返すのじゃっ!!
眠れ。永遠にな……
竜達も直ぐに追い掛けようぞ……
クロ……助け……て……
「姫様、朝餉でございます」
「今は要らぬ。ワラワは眠いのじゃ」
「お加減が悪うございますか?」
「眠いだけじゃ……」
「然様でございますか……」
「うむ。後での……」
「畏まりました」
皐月の足音が去る。
さて、今暫し、成長させて頂こうぞ……
凜「シロ様は、クロが曲空して来たのを
ご存知でしたよね?」
白「モモさんから聞いてのぅ」
凜「じゃあ、手紙も、モモ様からですか?」
白「いや、それは天兎の右大臣じゃよ。
外から、大慌てで駆け込んで来たんじゃ」
凜「それで、クロが翁亀様の湖に
行ってた事はご存知なかったんですね」
白「ムラサキから聞いて、やっと繋がったわい」
桃「容易く想像できますけどね」うふふ♪
白「モモさぁん……」
凜「まだ耄碌する御歳ではありませんよね?」
桃「もちろんですよ♪」
凜「そうなると……」
白「煩いわいっ!」
桃「こういうところが可愛いの♪」ふふっ♪
凜「ごちそうさま~」
シロとハクはどっちも『白』だぁ~
後書きでは同席できないぞ……困った……




