西航行6-魔犬親子
魔人の名前の読みは、カナリいい加減……
いや、異世界ですのでっ!
お気になさらないでくださいませ~ m(__)m
姫がタォに人界の話をしていると、空が俄に暗く曇り、稲光が走った。
三つ首の黒い大犬が二頭。
怒りの気を紅蓮の炎にして纏い、天に現れた。
いきなり襲いかかって来る!
「父ちゃん! 母ちゃん! やめてっ!!」
劫火の塊が船に激突する寸前で止まった。
「タォ……」
「この人達が助けてくれたんだ!!」
大犬達、顔を見合わせる。
「まさか……」「私達……」
大慌てで、纏っていた炎を消し、小さくなり、船に降り立ち、人姿になり、深く頭を下げる。
「申し訳ございません!!!」
「いえ、ご心配、お察し致します」
「ありがとうございます……」
「あの、本当に大丈夫ですので」
アオが父親の肩に手を添え、起こさせる。
顔を上げた父の胸に、タォが飛び込んだ。
「父ちゃん♪」
その声で母親も顔を上げた。
「タォ、いったい何があったの?」
頭を撫でながら、母が尋ねる。
「裏山で、大きな黒い手に捕まって……
気がついたら、あの船に繋がれてたんだ。
それを、この人達が助けてくれたんだよ」
「そうだったのか……なのに私達は……
本当に、失礼致しました」
「助けて下さり、ありがとうございました」
また深く頭を下げる。
「いえ、そんな……
とにかく無事だったんですから、もう……」
なんとか顔を上げてもらう。
「あっ! 三の姫様!」
母親が珊瑚を見、膝立ちし、胸の前で指を組み、頭を下げる。
父親も跪き、頭を下げる。
「あ……いえ、それは――」
「紫苑と珊瑚は、三の姫の子じゃ」
「その、お姉ちゃんは、人界の姫さまなんだよ♪」
「こちらは、天竜の王子様方でございます」
爽蛇……何を張り合ってるんだい?
「こちらの船は――」言葉が続けられない両親。
「私達は……首が飛んでも当然の粗相を……」
ほらぁ、また、こうなる……
「俺達は、偶然 出会って、この戦を終わらせたい、その気持ちだけで、出自など関係なく、共に戦っているんです。
それだけですから、お気になさらないで下さい」
「三界の次代を担う御方々が戦っていらっしゃるということは……
これから、魔界の深層に向かわれるのでしょうか?」
「ええ、いずれは。
ですが、まだ力不足だと解っていますので、人界で成すべき事を達しながら力をつけ、挑みたいと思っています」
「でしたら、魔界に入りましたら、是非とも『序関の砦』にお越し下さい。
魔犬の国は小国ではありますが、全力を尽くしますので」
「ありがとうございます。
正直、魔界の事は全く知らない有様です。
本当に心強い限りです」深く礼をする。
その時、闇の穴――とは、少し違う穴が開いた。
「ワン将軍、直ぐお戻り下さい!」
「解った。
申し訳ございません……」
「いえ、お急ぎください」
「ありがとうございます。
お前達は、後から ゆっくり戻っておいで」
ワン将軍はタォの頭を撫で、アオ達に一礼し、穴に飛び込んだ。
「タォ、どうして助けを呼ばなかったの?」
「呼べなかったんだよぉ」
「それは、コレのせいじゃ」懐から輪を出す。
ハクとフジが身構える。
「ミズチ、コレを入れる瓶は有るか?
聖水を満たして持って来てくれぬか?」
「はい、姫様」
「この輪が、力を吸い取るよぅなのじゃ」
「それで、タォの気を見つける事が出来なかったのですね……
あっ、姫様は持っていて大丈夫なのですか?」
「大丈夫じゃ。
人には、そもそも吸い取られるモノが無いよぅじゃ」
カッカッカ♪
蛟が持って来た瓶に輪を入れる。
「これで大丈夫じゃ」ハクとフジを見る。
「姫様、その輪、貰ってもいいか?
確かめたい事が有るんだ」
「よいぞ」ハクに向かってポイッ。
「うわっ! 割れたら、どーすんだよっ!
殺す気かっ!!」必死で受け取った。
「人には何とも無いが、竜は死ぬらしぃのじゃ。
他の者にとっては、力を吸い取られる程度のよぅじゃ」
「そんな物が……」
「魔物が、よぅよぅ使ぅておるぞ」
「存知ませんでした……」
リリスが出て来た。
「わん太郎、耳と尻尾を隠せ」耳打ちする。
「えっ?」
「早ぅ!」
「う、うん」引っ込める。
「睦月さん、今、どの辺りですか?
明日の拡大図を描きますので――」
リリスは睦月と話し始めた。
「あの者は、普通の人なのじゃ。
人々は今、天界も魔界も、おとぎ話の世界としか思ぅとらんのじゃ。
悪意ある何者かに誑かされ、すっかり忘れてしもぅて、人と人とが争ぅておる始末じゃ。
力も、術を使う事も出来ぬ人々に、いきなり天界や魔界の力や姿を見せれば、人々は恐れおののき、殻に閉じ籠ってしまうじゃろぅ。
じゃから、ゆっくり……真、少しずつ、知らせてゆかねばならぬのじゃ。
あの者も、もぅ、竜が居る事は知っておる。
じゃが、ここに居る王子達が、竜じゃとは思ぅとらん。
今は、人の姿の王子達を『竜使い』じゃと思ぅとる。
まだ……そんな段階なのじゃ……」
「それが『成すべき事』……」タォの母が呟いた。
「成すべき事の、ひとつじゃ。
人は、知る事で、知恵を使う事で、この人界を護る事が出来ると、竜が教えてくれたのじゃ」
アオが近付いて来た。
いつの間にか、空龍の治療に行っていたらしく、三眼を背負っている。
「もうすぐお昼です。
まだ、お時間、大丈夫ですよね?」
「時間は……でも、そんな……」
「遠慮は要らぬ」
「ボク、食べた~い♪」
「タォ! この子は、もうっ」母、赤面。
明るく楽し気な笑い声が響く。
「あら……」アオに近付く。
「この剣……失礼致します」三眼に掌を翳す。
「この気……
我が家に、同じ気の玉が有るんです」
「えっ!?」姫とアオ。
姫がサッとアオを回して、背中を向けさせる。
剣の穴を指し、
「見ての通り、この剣は、まだまだ穴だらけじゃ。
我らは、この玉も集めておるのじゃ」
「でも、家にある玉は、もっと大きいのですよ?」
「剣の穴に、あてがうと小さくなるのじゃ。
その玉、見せて貰えぬか?」
「はい、すぐに、お持ち致します」
母親は穴を穿ち、入って行った。
暫くして、また穴が開き、出て来た。
「これです」
差し出した玉は五つ。
うち、ひとつは大きい。
「これは……」姫とアオ、顔を見合わす。
「頂く事は出来るのか?」
「もちろん。その為に、お持ち致しました」
玉を剣に込める。
大きな玉は、柄の鍔側の穴に収まった。
三眼が嬉しそうに輝く。
「あと、ひとつじゃな♪」柄を撫でる。
「ありがとうございます」深々と礼をした。
「あの……皆様は何を……?」
「あの船の……
乗組員の方々の遺品を修復しているんです」
「私にも、お手伝いさせて頂けますか?
いくら魔人でも、十日も飲まず食わずで生きていられたのは、その皆様に護って頂けたからだと思いますので」
「ありがとうございます」
母親とアオは、ハクの傍に座った。
「わん太郎、話の続きをしてしんぜよぅ」
「姫さまは、あれ、やらないのか?」
「わん太郎が、ひとりぼっちになるじゃろ」
「姫さま♪ ありがと♪」
二人は舳先に向かった。
凜「ヒスイ、サクラは?」
翡【まだ不十分だから、もう一度、眠らせたよ。
凜、無理に起こさないでね。
答えられる事なら、私が話すから】
凜「アオとサクラは、何を調べてたの?」
翡【いつの話?】
凜「サクラが大学を出て、人界の任までの
空白の時。八十年くらいあるでしょ?」
翡【竜宝の事、とても古い歴史、それと……】
凜「ヒスイの事?」
翡【そうだね。それも。
でも、内容は話さないよ】
凜「うん。話してもらえるとは思ってない。
で、サクラって、アオそっくりだった
んでしょ?」
翡【そうだね。アオの『まねっこ』してた】
凜「本当のサクラって?」
翡【どちらかと言うと……
今の方が近いと、私は思うよ】
凜「ヒスイとサクラって?」
翡【私達は……アオの弟だよ】
凜「それ以上は話さない、って顔だねぇ」
翡【うん。そのうちね】




