西航行5-幽霊船
船が西を向いたので、サブタイトルは最初のに戻ります。
船は無事に航路に戻った。
しかし、魔物が横行する海を行く船など無い。
「航路じゃと言うても何も変わらんのぅ……」
姫は舳先で、海と空ばかりの景色を眺めていた。
ん? あれは何じゃ……?
「乾に船影!」物見の神無月の声。
水平線に黒い異物がポツンと載っている。
蛟とアオが船室から出て来た。
「無事かどうか確認しておこう」
アオの言葉に睦月が頷き、海図を確認する。
「面舵! 進路を乾へ!」
船影が次第に、その様子を呈してきた。
「これは……どうやら、既に……」
幽霊船の見本のような船だね……
「確かめて参ります」蛟が聖獣になって飛ぶ。
「のぅ……何やら、動いておるぞ」
姫が額に手を当て、その船の前甲板を見詰めている。
「えっ!? ……確かに……」
「蛟も見えておろぅのぅ……」
「行きますか?」
振り返ると、藤紫の竜が後ろで待っていた。
姫とアオを乗せたフジは、蛟に追い付き、速度を落とす。
「爽蛇、一緒に行こう」
「はい。あれは人でございましょうか……?」
「まだ、魔物の気は感じませんが……」
フジが首を傾げる。
「人にしては低くはないかのぅ?」
「よく、お見えになられますねぇ」
蛟の言葉に頷く二人。
「見えぬのか?」呆れる姫。
「こちらに気付いたよぅじゃぞ」
「動きが止まりましたねぇ」
「こちらを見ておる……犬か?
いや……犬にしては大きいのぅ……」
「人ほどの大きな犬も居るそうでございますよ」
「そぅなのか!? ならば、犬かのぅ……」
「二足歩行でない事は確かでございますね」
「三匹一緒に居るのかのぅ……
頭が三つ見えるぞ」
「これは……妖気……でしょうか?」
「普通の犬ではなさそうだね」
「頭が三つある犬じゃ」
「魔界の番犬が何故ここに……?」
「大きいが、仔犬じゃ。尻尾を振っておる。
あ……縮んだのぅ。
のぅ、アオ、紫苑か珊瑚を呼んだ方が――」
「私共が何か?」紫苑と珊瑚。
蛟達が慎重に近付いていたので、二人も追い付いていた。
紫苑の背には慎玄が乗っている。
「あの者と話せそぅか?」振り返り、前を指す。
「姫様も、お話できそうですよ」二人、にっこり。
「へ?」前を向く。「およ♪」
耳をピンと立て、尻尾で飛べそうなくらいにブンブン振りまくっている半獣の子供が居た。
「可愛らしぃのぅ♪」
「助けよう」
急いで近付き、船に降り立つ。
半獣――たぶん犬の子供は首輪を着けられ、鎖で繋がれていた。
「助けてくれるのか?」尻尾ぶんぶん♪
皆、微笑みながら頷く。
「お姉ちゃん♪ 首輪外してっ♪」ぶんぶん♪
「ワラワか?」
「うんっ♪
コレ、人しか触っちゃダメなんだ。たぶん……
人って、妖力ないって、父ちゃん言ってた!
だから~ お願いっ!」
両掌を合わせて、首を傾げる。
首輪を外す為に、屈み、
「人でない者が触ると、どぅなるのじゃ?」
見た目が変わったが、また、この輪か……
「妖力、吸い取られちゃう~
ボク、今、この姿、めーいっぱい!」
「犬のままでもよいぞ」首輪が外れた。
「お姉ちゃんとお話できなくなるから……」
尻尾しゅ~ん……
「然様か?」紫苑と珊瑚を見る。
「まだ、成長途上だからでしょう」にこっ
「話は、戻って聞こう」姫の船を指す。
「そぅじゃな。
フジ、何故、離れて居るのじゃ?
紫苑と珊瑚も、今ここに居ったではないか。
この輪か? 投げたりはせぬわ」ニヤニヤ
輪を見て後退り、身構えていた三人が寄って来る。
「フジ、この船、引いて行ってくれるかい?」
「はい」にっこり
紫苑と珊瑚が念網を掛け、フジが引いた。
「食べ物は、人と同じでいいのかい?」
「うんっ♪」ぶんぶんぶんっ♪
船を連結し、アオ、姫、犬の子供は移動した。
蛟達は『幽霊船』の中を調べ始めた。
「見事な食べっぷりじゃのぅ」
犬の子供は、すこぶる気持ちよく食べまくっている。
あっという間に全ての皿が綺麗に空になった。
「食った~~っ! おいしかった~~っ!
ごちそうさまっ♪
ありがと♪ お姉ちゃん♪」
「おね……」まぁ、確かにそぅじゃが……
蛟達が戻って来た。
国旗と船旗を持っている。
「伊牟呂の国旗じゃな」
「姫様、この国との交流は如何でございましょう?」
「まずまず良好じゃ」
「良うございましたですぅ♪
船内の遺品をお渡ししに伺おうかと存じますので――」
「大使に一筆認めればよいのじゃな?」
「ありがとうございますぅ」
「使いは、くノ一に行かせればよいぞ」
「俺が乗せて行ってやろう」ハクが来た。
「あの船、どうするんだ?」
「あの子の様子を見に魔物が来るかもしれませんので、もう暫く、このままにしておきたいのでございますが……」
「そうだな。
じゃ、遺品持って行って、葬儀の許可も貰えばいいな。
姫、そういう内容で宜しくな」
「あい解った」船室に向かう。
手の空いている者、皆で遺品を綺麗にし、梱包していると、
犬の子供が、アオの袖をくいくいと引く。
「お姉ちゃん、偉い人なのか?」
「ああ、一国の姫様だよ」
「へえぇぇぇーーーーっ!!!!」
そんなに驚かなくても……
まぁ、普通の『お姫様』ではないよね。
「あ……ここどこ?」
「君は、どこから来たんだい?」
「ボク……家の裏山を散歩してたんだ。
そしたら、大きな黒い手に捕まって……
首輪されて……あと、覚えてない……」
「なら、魔界から来たんだね。
ここは人界だよ」
「人界って……水ばっかりなんだね」キョロキョロ
「これは『海』っていうんだ。陸地も在るよ。
それで、気が付いたら、あの船の上だったのかい?」
「うん。あれが、『船』……ふぅん……
ずっと揺れてて気持ち悪かったよ~」
「今は大丈夫なのかい?」
「うん♪
さっき、紫のお兄ちゃんが気持ち悪くならないお薬くれたから♪」
「そうか。いつから、あの船に?」
「気がついてから、三回、夜が来たよ。
あ♪ おねぇ――じゃない、姫さま来たっ♪」
姫に手と尻尾を振る。
姫も手を振り返し、ハクの方を向き、
「これでよいかの?」手紙を見せた。
「流石、姫様だな♪
荷物が出来たら直ぐ行くわ」
「ならば、睦月、皐月、行ってくれるか?」
「畏まりました」
「姫さま♪ 姫さまっ♪」ぶんぶんぶんっ♪
「なんじゃ?」
「人界のお話聞きたいっ♪」にこにこ♪
「あい解った」にこっ
「ところで、名は何と申すのじゃ?」
「ワンタォ♪」
「わん太郎?」
「違うよぉ~ タォだよ!」
「わん太郎の方が可愛いぞ♪」
「人界では、そうなのか?」アオを見る。
「そ、そうかもね」振らないで欲しかった……
ハクとフジが笑いを押し殺している。
まったく、姫様の名付けは……
アオ兄様は、どんな名に
されているのでしょう……
「ふぅん……なら、それでいい♪」ニコッ
凜「あ、サクラ、起きたのね」
桜「ん……」ふにゃ~ん
凜「竜宝学博士♪」
桜「ふえっ!?」
凜「目、覚めた?」
桜「うん……びっくりさせないでよぉ」
凜「アオのトコ、行かないの?」
桜「行くよ♪ トーゼンでしょ♪
あ♪ でも、アカ兄と、ちょっとお話~♪」
凜「ちょっと! サクラ!?」
桜「凜なんて、いつでもでしょ?
だから、あとでね~♪」
凜「おいおい……」
桜「あ♪ ヒスイ~♪」
凜「アカはいいの?」
桜「来てくれたから~♪ ヒスイが先~♪」




