旅立ち8-僧侶
アオの兄弟は、みんな同じ顔です。
「お~い、アオ、早く乗れよ」
考え込んでいたアオは、クロに呼ばれた。
アオが黒竜となったクロの背に乗ると、黒竜は西に夕の赤みが残る星空へと舞い上がった。
なるほど、これが山賊しか知らない近道か。
風景は、もちろん初めて見るものだったが、飛んでいる感覚や風の音、雲の湿り気、全て知っている――ような気がしてならないアオだった。
月が昇り、黒竜の鱗が煌めく。
「美しいのぅ♪
こんなに艶々と光る甲冑は無いぞ♪」
鱗を撫でながら、姫が感嘆の声をあげると、照れたのか、黒竜は速さを増した。
「おぉ♪ 格好良いのぉ!
クロ、ワラワの婿に来ぬか?」
カクンと黒竜。「お、降りるぞっ!」
誤魔化すように降下を始めた。
「あっという間じゃのぅ。残念じゃ~」
「近いからな」
「次は昼間に頼むぞ♪
さぞかし素晴らしい景色が見えるのであろぅな♪」
さぞかし大騒ぎになりましょうな。
「なら、ちょっと飛んでやる」上昇。
点々と浮いている雲の上まで達すると、クロは西に向かって飛び始めた。
没した陽を追うかのように、西へ西へ――
次第に明るくなり、雲の遥か下に茜色に煌めく海が見えた。
「おお~♪ キラキラと美しいのぅ♪
クロは優しいのじゃなぁ♪」
またカクン。「なんだよっ! 調子狂うだろっ!」
「ワラワに此を見せよぅと飛んでくれたのじゃろ?♪」
「ちげーよ! アオに風を感じてもらおうと――やたらと撫でるなっ!」
「クロは賑やかじゃのぅ」
「お前が変なトコ撫でるからだろっ!
くすぐったいんだよ! 落ちるだろうが!」
「アオ、真か?」「知らないよ」
「落ちたら、お前ら死んじまうだろ!」
「ふむ。ならば、撫でてよいのは何処じゃ?」
「無ぇよ。そろそろ戻るぞ」東を向く。
「此処は、よいのかのぅ♪」なでなで♪
「お前っ! オレの話を聞けって!」
「ワラワは『お前』ではないからの」なでっ♪
「じゃ何だよ?」「姫じゃ」「はぁ?」
「ワラワは、中の国の姫なのじゃっ」
「それは聞いたよ。名は何なんだ?」
「婿となるならば、教えてしんぜよぅ♪」
「教えて要らねぇよ!」
「聞いたならば、婿に決まりなのじゃ♪」
「言うなよっ!!」
「ワラワの名は~」アオと陰陽師が耳を塞いだ。
「言うなあああああーーーーーっ!!!」
クロの叫びは、咆哮に変わった。
「およっ……真、竜なのじゃな♪」
「何に乗ってんだよ、お前……」ぜ~は~――
「クロ、『お前』ではないと、何度言えば覚えるのじゃ?
ワラワは――」
「名乗らなくていいからなっ!!
……姫……で、いいのか?」ムッ。
「なんじゃ? クロ♪」
「そろそろ降りるぞ」
「さよぅか……やはり、あっという間じゃのぅ」
「大滝に急いでるんだろ?」降下。
「そぅであったな。アオ――」後ろを向く。
「二人共、何故、耳を塞いでおるのじゃ?」
「姫が名乗ろうとしたからだろ」
「さよぅか? そぅか!
殿など重荷と考えずともよいのじゃぞ♪」
「そこじゃねぇよ!」
「何処なのじゃ?」
「着いたぞ。あれが大滝だ」「返事は?」
「アオに聞け!」「さよぅか♪」「ああ」
ゆっくり着地し、四人が降りる。
「アオ、いつでも帰って来いよ」宙に浮く。
「うん。十左を見つけたら、また洞窟に行くよ」
「じゃあ……またなっ!」
クロは、名残惜しそうな視線をアオに向けていたが、意を決し、上昇した。
黒竜は星空に溶けるように見えなくなった。
♯♯♯♯♯♯
四人は滝音がする方に向かった。
「あの皆様が、竜ヶ峰に住む竜神様だったのですね」
「アオも竜なのじゃな?」
「さぁ……皆が竜なのか、まだ判らないからね。
だいたい、竜が力を封印されて、人になれないのなら解るけど、人のまま竜に戻れないって、どうなんだよ」
「ふむ……言われてみれば、そぅじゃな」
「だから、俺は人なのかもね」
「髪の色は、どぅなっておるのじゃ?
何故、青くないのじゃ?」
「知らないよ。俺が教えて欲しいよ」
「して、何故、二人は耳を塞いでおったのじゃ?
それに、其処ではのぅて、何処なのじゃ?」
「え……あ、滝だよ」
滝は見つけたが、人の気配が無い。
「滝に打たれておるのかと思ぅておったが、何処に行ったのじゃろぅな……」
「もう夜だからね。
この近くに庵とか構えているのかもね」
「ふむ。さもありなんじゃな」
四人が目を凝らし探していると――
木々の向こうから人の声が聞こえた。
「誰ぞ、話しながら来ておるぞ」
「慎玄様の他にも、この滝で修行中の方がいらっしゃるのですね」
「良い修行場なんだね」
二つの人影が現れた。
月が木々の上に顔を出し、見えたのは――
僧侶と……僧侶?
「また、竜の国の装束のよぅじゃが……」
「そんな感じだね」
「頭は僧じゃが……」
「違うんだろうね」
「二人共、連れて行くのか?」
「決めるのは、慎玄様に話してからだね」
「ふむ。そぅじゃな」
歩いて来る二人も、アオ達に気付いた。
「このような深き山奥で、如何なさいましたか?
お困り事でしょうか?」
「いえ、慎玄様を訪ねて参りました」
「それはそれは。
それで、如何用で御座いましょう?」
「お願いが有るんです」
アオは、ここに来た経緯を話し始めた。
桜「もぉ、しゃべっていいの?♪」
凜「出てきたから、いいけど……」
桜「けど、なぁに?」
凜「ネタバレは嫌だからね~」
桜「凜のケチ~」ぶぅ。
凜「あ、三界の断面図も、お願いねっ」
桜「俺って、雑用係なのぉ?」
凜「頼み易いから~♪」
桜「ひっどぉいぃ」
凜「本当は、かわいいからよ」
桜「そぉなの?♪」えへっ♪
凜「で、軍に呼ばれて何してたの?」
桜「竜宝兵器の取説、書いてたんだ」
凜「そんな難しそうな事を?」
桜「俺、専攻が竜宝学だったから~」
凜「じゃ、強制送還じゃないのね?」
桜「なにソレ?」
凜「いや、戦力外だからって……」
桜「へ!? なんで、そんな話になってるの!?」