航路へ8-海藻
船に戻ります。
♯♯ 天界 長老の山 ♯♯
シロとモモは大婆様の部屋に残り、ムラサキはクロの所に行った。
キン、ハク、ウェイミンは、本の山の前に居た。
「貴殿方が救おうとしている方の為に、私は全力を尽くします」
本の背をなぞりながら、ウェイミンが言った。
「古典研究をしていて良かった……」
「ウェイミン、もしかして学者なのか?」
ウェイミンが頷く。
「まだまだですけどね」微笑み、上を向き、
「また、本に囲まれて暮らせるなんて!」
両手を挙げ、広げた。
心からの喜びが溢れていた。
「さっき、モモお婆様が見せた本には、何が書かれてあったんだ?」
「ここに来る途中でハク様に話した、神を召喚して、封印から解放してもらう術についてです」
「なら、それが読み解ければ――」
「いえ……最適かどうかは分かりませんから……」
「あ……そうか……」
「一度、お会いする事は可能でしょうか?
その……封印されている方に……」
「人界は危険だぞ!
今は、アイツを天界に連れて来る事は出来ないんだ……」
「双方、護りながら、天界と人界の境界下でなら会わせられるかもしれない」
それまで黙っていたキンが口を開いた。
「一度、人界に戻って方法を考えたい。
ウェイミン殿、モモお婆様、それでは宜しくお願い致します」
モモが戻って来ていて、微笑んでいた。
「シロ爺さんは?」
「お城に、報告に行きましたよ」
「いろいろ、お手数おかけします」
キンが頭を下げる。
「これが、私達の生き甲斐なのよ。
もっと甘えて頂戴ね」にっこり
「今日は、お団子は作ってないけれど、加須底羅を焼いてますから、お持ちなさい」
「ありがとうございます」
「ありがとう! モモお婆様っ♪」
「気をつけてね」
「はいっ!」
キンはモモとウェイミンに丁寧に礼をし、ハクは軽く頭を下げてから手を振り、背を向けた。
なんだか、二人共、大きく成長しましたね。
仲良く歩いて行く孫達の後ろ姿を、微笑ましく見送るモモだった。
♯♯♯♯♯♯
フジは兄達を見送った後、船に降りようとしたが、リリスが甲板に居たので、眠ってしまったサクラを洞窟に連れて行き、アカに頼んで、再び船に向かっていた。
雲が出ていて、海面の様子は見えなかったが、
この辺でしょうか……
と、降下し始めた時、
妖狐が雲を突き抜けて現れた。
宙を蹴り、降下する妖狐をフジは追った。
「これはっ!?」
船が海藻に包まれ、動けなくなっていた。
海藻は蛇か何かのように、うねうねにゅるにゅると這い伝いながら、船を覆い、海に引きずり込もうとしていた。
「瞬く間に、このように……」
紫苑が宙で並んだ。
フジは頷き、降下して、甲板や物見にいた者を背に乗せ、舞い上がった。
そして、紫炎を氷に変え、海藻に放った。
海藻が凍りつく。
その一瞬後、紫氷は炎に変わり、海藻が灰になって散る。
次々と這い上がってくる海藻に、フジは紫氷を放ち続け、灰と化していった。
紫苑と珊瑚は、それを見て頷き合い、アオと姫を各々乗せ、海に飛び込んだ。
海底から湧いてくる海藻の束に、氷結の術を放ち、氷の柱に変え、アオと姫が剣で鮮やかに断つ。
海藻は尽きる事なく湧いてくるが、次第に、海底に有る物が、ちらりちらりと見えるようになってきた。
まさか……また神殿?
二度も同じ手なんて、嘘だろ。
思いつつ、次第に深く潜って行くと――
確かに神殿が有り、中央の巨大な瓶から、海藻が湧いていた。
これは、もしかして……また……
四人が、そう思った時、
ほ~っほっほっ♪ 高笑いが響き渡る。
…………はぁ…………
「瓶 割ったら戻ろう……」
「……そうじゃな」
アオと姫が妖狐から降りる。
妖狐が、ため息を残して跳ねて行く。
瓶を挟んで向かい合い、同時に剣を振る。
スパッ! ぱっか~ん。
「行こう」
「何か光っておるぞ」
瓶の底には鏡が有った。
アオは鏡を懐に入れた。
「アオ、ここの柱にも玉が有るぞ♪」
「これ、ひとつだけ残して回収しよう」
二人で七つ集めた。
「紫苑殿、ここに、ひとつ残しておくよ」
アオと姫は浮上した。
馬頭鬼で遊んでいる妖狐達を残して。
♯♯♯
船の上空では、フジが闇黒色の魔物達に囲まれていた。
倒していいのでしょうか……
躊躇ったフジは、防戦一方となる。
「フジ様! 船はもう大丈夫でございます!」
蛟が船室に居た慎玄を乗せ、昇って来た。
慎玄をフジの背に移し、くノ一達を乗せ、蛟は船に向かった。
「この方々を浄化してくださいますか?」
「やってみましょう」
眩しい浄化の光が辺りを包む。
魔物達は一人を残し、かき消えてしまった。
フジは、残った一人を背で掬った。
慎玄が回復の術を唱えたが、魔人は瀕死だった。
続けて術を唱えようとした時、魔人は、それを制し、
「ありがとう……もう……十分です……
救って、くれ、て……ありが、と……ぅ……」息絶えた。
慎玄の経を供に、魔人は、さらさらと小さな光の粒となって風に消えた。
♯♯♯♯♯♯
「なぁ、姫――」
アオは浮上しながら話しかけた。
――が、返事が無い。
振り返ると、後ろにいた筈の姫が居なかった。
紫苑と珊瑚が浮上して来た。
その後ろで、神殿が崩れていく。
「姫を見なかったかい?」
「いえ……」二人、顔を見合わす。
「探します!」二つの光が、弧を描き、散った。
アオは気を高め、姫の気を探った。
蒼牙と三眼の光がアオを包む。
次第に、光は強く、広く辺りを照らし――
あれかっ!?
アオは水を蹴った。
凜「ウェイミンさんは学者さんなんですね?」
明「はい。大学で古典文学を研究していました」
凜「魔界の大学ですよね?」
明「はい。どこの大学なのかは、まだ
お話し出来ないのですが……」
凜「この先の話で絡むんですね?
種族は、聞いてもいいのかなぁ……」
明「山羊魔族です」
凜「山羊に翼って……?
それに、今はたたんでるの?」
明「ああ、あれですか?
あれは、術で成していたんですよ。
元々は翼なんて有りません」
凜「そっか。魔人って魔術が得意なんですよね」
明「はい。天人よりは魔人の方が、
基本的に適しているそうです」
凜「天人が『術』って呼んでるのが
魔術なんですか?」
明「そうですね。厳密には、天人の『術』は
天人も魔人も使えますが、
『魔術』という枠は、天人には使えない
ものも含むんです」
凜「より広いのが『魔術』なんですね」




