航路へ6-三界神話
前回まで:魔物に光を当てたら魔人に戻りました。
本来の姿に戻った元魔物――魔人とハクが、和やかに向かい合っていると、フジがサクラを抱えて上昇して来た。
(サクラ、おい、起きろ……サクラ!)
「こりゃ、また長く寝そうだな」
「そうですね」クスクス
「フジ、悪ぃが、兄貴 連れて来てくれ」
「はい」
フジは、ハクにサクラを渡し、東へ飛んだ。
「俺はハク。
コイツは弟のサクラ。
さっき飛んでったのも弟でフジだ」
「私はウェイミン。
貴殿方は、その名……もしや、天竜の王子様……」
「あ……」うっかり名乗っちまった……
「そうだよな。指名手配されてるよな。俺達」
あははははっ
「まぁ……今の魔界では……」とっても困り顔。
「気にしねぇでくれ」あはは♪
「ま、そんなワケだから、俺達の傍にいるのも安全とは言えねぇ。
だから、もっと安全な場所に案内する」
「私が行けば、そこも危険にはならないのですか?」
「あそこなら大丈夫だ。
そこが襲われるなら、天界はオシマイだ」笑う。
「そんな所に……
本当にいいのですか? 私は魔物なのに……」
「大昔、天人と魔人は友達だった。
そろそろ、ソレ復活させてもいいんじゃねぇか?」
ニカッ
「ハク王子……」
「『王子』は要らねぇって~
ったく! 友達になろうつってんのに~」
「いや、しかし……」
「四の五の言うなって!」ずいっ
「あ……ちょいそのままなっ」
ウェイミンの顔に、光る掌を翳す。
「さっきは、すまなかったな」
「それは仕方ないと……
私も手出し出来たなら、そうしていました」
「あ……」ハクが東の空を見ている。
ウェイミンもハクの視線を追う。
空の彼方が、一点 光っている。
その光は、見る間に大きくなる。
物凄い速さで近付いて来ているらしい。
すぐに紫を帯びていることが分かり――
ウソだろ……
あ……忘れ物か何かか?
フジが目の前に停止した。
「キン兄様、大丈夫ですか?」
「ああ……」
フジの背に、しがみついていたキンが体を起こす。
「フジ、お前……」どんな速さだよっ!!
「どうかしましたか?」首を傾げる。
キンが竜になり、ウェイミンをじっと見る。
長い沈黙――
「ふむ……」ハクを見る。
「長老の山で匿って貰えるだろうか?」
「最善だな。行こう」
「フジ、アオとサクラを頼む」
「はい」サクラを受け取る。
キンはウェイミンに頷き、天界に向かって飛び始めた。
「ウェイミン、行こう」
二人は一緒に付いて行った。
金銀の竜と魔人が昇って行く。
フジは、魔人の膜翼の、自分の鱗とは異なる紫の光を見詰めながら、翁亀の話を思い出していた。
神話では、太古の三界には、境界が無く、
皆、平和に暮らしていたのですよね。
その点は、竜の伝説も、天亀族の伝承も
共通していましたね。
天人と魔人は、もともと同じだった
のかもしれないと仰っておりましたね……
竜の伝説と、天亀族の伝承を纏めると――
――――――
太古の昔、三界は、ただひとつの世界だった。
その世界には、物理的な力に秀で、天を住み処とする天人の国と、魔術に秀で、地上を住み処とする魔人の国が在った。
ただ、それだけだった。
住み処が異なり、国を分けてはいたが、魔人は魔術に依って空を飛べるし、天人も多少は魔術を使うことが出来たので、どちらがどうということなく、互いの出来ない事を補いながら、平和に交流し、暮らしていた。
やがて、力にも魔術にも秀でた竜のような種族も生まれ、逆に、その何れも持たないのに、何故か生きていく術には秀でている、人という種族も生まれた。
人族は、地上の半分と、天の一部、そして、まだ未開であった地下を占め、その広い領域を人界とした。
天人も、魔人も、自分達の生き方を乱すでも無いので、それを静観していた。
そして、竜族の中から、更に全ての力に於いて秀でた神竜族が生まれ、その強大な力を持ったが故か、神竜達は争いを始めてしまった。
その争いが大神戦となる。
神竜達は、天界を上下に二分し、長く争い続けた。
人界に、人神・仏陀族が、魔界に、魔神・閻魔族が生まれ、この二神族の力に依り、神竜達は和解し、戦は終結した。
しかし、神竜達は、再び戦を起こした。
神竜達は、天界の上空と、人界の地下に分かれ争い続けた。
その戦が、三界全てを巻き込み、今も続いている闇神戦である。
――――――
終わらせたい……
終わらせなければなりませんよね!
フジは船に向かって降下した。
♯♯♯♯♯♯
俺達……
これまで、魔物に容赦なく攻撃してたよな……
ウェイミンみたく生きるために仕方なく、
訳も聞かされず動いてたとしたら……
天界に向かって飛びながら、ハクは考えていた。
「ハク様、私が……もしも、先程――」
ウェイミンが、天を見詰めたまま、ハクに語りかけた。
「――貴殿方に倒されていたとしても、恨むなんてありませんでしたよ。
むしろ……感謝したと思います」
「えっ……?」
「今、考えていたんですけど……
もし、傀儡にされて、意に沿わない事に自分の体を使われていたとしたら……
早く私の体を殺してくれ! って、懇願しただろうな、と……」
ハクを見た。
「そんな事を考えていて、ハク様を見たら、悲しそうな目をしていたから……
思い詰めないでください。
きっと仲間達も、私と同じ気持ちですから」
「ありがとう……」
ハクは目を伏せ、頷くように頭を下げ、そして前を向いた。
「でも、これからは、できるだけ助ける!」
「そうだな」キンが振り返り、微笑む。
「なぁ、ウェイミン――」
「はい?」
「『様』も 要らねぇって!」
「い、いえっ、それは……無理っ! うわっ!
おやめくださいっ! すみませ――落ちっ!
わわわっ!」
ハクがウェイミンに じゃれついている。
「まぁ、許してやれ、ハク」キンが笑う。
三人は天界の門をくぐった。
♯♯♯♯♯♯
姫とリリスは、垣立にもたれ、海を眺めていた。
「リリスは、竜を初めて見た時、怖いと思ぅたか?」
「いいえ、全然。
とても綺麗で、優しい目をしていて……
感激しましたよ」
「誰の竜に、初めて乗ったのじゃ?」
「淡い紫でしたから、フジさんのよね?
そういえば……
竜さんと竜使いさんは、雰囲気が そっくりですよね♪」
そりゃまぁ、同一じゃからのぅ。
「どの竜が一番 気に入っておるのじゃ?」
「どのコも可愛いけれど~
やっぱり、フジさんの竜かな♪
たぶん、あの優しい目を、父と重ねているだけなのでしょうけど……」
頬が染まる。
リリス……やはり、フジの事……
「姫様、あれ何かしら?」海面を指す。
海面に無数の泡が湧いている。
そして、大きな影が下から迫って来ていた!
「リリス! 部屋に入るのじゃ!」
姫はリリスの手を引き、船室に走った。
「紫苑! 珊瑚! 何か来ておるぞ!!」
凜「翁亀様、こんにちは♪」
翁「ほぉ、また話し相手が来たのか?」
凜「はい♪ 翁亀様は、何歳なんですか?」
翁「う~む……だいたい、五万四、五千年程
生きておるかのぉ。
生まれたのは、天竜王国ができる少し前
じゃったからのぉ」
凜「じゃあ、あの王朝をずっと見てきたの!?」
翁「そうじゃ。始祖とも話したわい」
凜「ほぇ~」
翁「お前さん、妖狐王とも繋がっておるのじゃろ?
あの爺さまは、もっと長いぞ」
凜「どのくらい?」
翁「竜の神が、竜から派生した時には、
この世に居ったと言われておるぞ」
凜「って……どのくらい……?」
翁「そうじゃのぉ……
二百万年と少し前じゃと言われておるな。
最初の神竜が誕生した時、真夜中じゃった
そうじゃが、昼間よりも光輝き、
その光は天界を包んだ、と言われておる」
凜「あれ? 意外と浅いんですね。
もっと……何億年とかの単位で昔かと
思ってました」
翁「そうかそうか♪
この三界は最も新しい域じゃと
聖霊が言うておったからのぉ。
まだまだなんじゃよ」
凜「あ……妖狐王様って……二百万歳なんだ……」
翁「越えておるんじゃよ」
凜「妖狐って長生きなんですね~」
翁「妖狐王だけじゃよ」
凜「だったら、妖狐王様に伺えば――」
翁「ま、聞き出せればのぉ。
話しはせんよ。決してのぉ」




