航路へ3-渦
飛べばいいのに……
どうしても、そう思ってしまいます。
ハクが運んだ食材で、無事に夕食にありつけた、その後――
航海士父娘は皆を集め、明日、通る海域が、航路に戻る道程の中で、最大の難所であると説明した。
船は、魔魚や魔鯨を避けるうち、航路から、かなり南に外れており、今は、航路に戻るべく北上しているそうだ。
その経路が難所ばかりの為、リリスが悩んでいたのだが、迂回を極力減して航行している。
それならば、真っ直ぐ大陸へ――の海図は、残念ながら途中までしか無かった。
明日、通過する海域には、海面に出てはいないが、多くの山が在り、その山々の連なりに因り、海上からは見えない海峡が形成されているそうだ。
そのため、潮回りに依っては、航行に支障が出る程の大渦が発生する可能性が、高くなるとの事だった。
通過予定となる明日の午前中は、中程度の渦が発生しそうだと予測していた。
「だが、まぁ、くノ一達だったら操船技術も確かだ。
中程度なら大丈夫だろ」
「うむ。難なく通過できるであろうよ。
のぅ、睦月」
「はい、姫様。
細心の注意を払い、万全で望みまする故」
「まぁ、最悪、俺達の竜が危険海域のみ運びゃいいだろ?」
「そうでございますね。
では、そのようにお願い致します」
♯♯♯
翌朝――
「あれが渦潮か? 面白いのぅ♪」
くるくると小さな渦が現れては消える海を、航海士が拡大して描いた海図を手にした睦月の指示で、緩やかに右へ左へと揺れながら、船は慎重に進んでいた。
「艮に大渦!!」
物見の氷月の声が、のどかな空気を割いた。
前方、少し右に現れた大きな渦は、たちまち甲板からも、その擂鉢状の窪みが、はっきりと見える大きさとなり、船が引き込まれ始めた。
「空龍さん! リリスさん! 船室へ!!」
蛟が航海士父娘を誘導する。
「この部屋だけは、特別、頑丈にしております」
壁から帯を引き出す。
「これで体を固定してください」
扉を閉め、
「万が一の為、気密致します。
少しの間、我慢してくださいませ!」
プシュッ! と音がし、蛟の足音が去った。
蛟が前甲板に出ると、竜と妖狐が船を念網で包み、引いているが、渦の拡大は止まず、勢いを増すばかりで、船はジリジリと渦に向かっていた。
(これ、普通の渦じゃないよね?)
(ああ、間違いなく魔物絡みだな)
蛟も聖獣に戻り、加わった。
それでも渦に負けている。
「埒 明かねぇっ! 元から断つ!!」
ハクが飛び込んだ。
続いて、紫を帯びた光が空から飛び込む。
「あ♪ フジ兄だっ!♪」
ハクが抜けたことで、船は引き込まれることが確定した。
紫苑と珊瑚は、念網の目を潰し、風船の様にして船を包んだ。
そして、二人はサクラを見た。
「わかった! がんばる! 行って!」
サクラは、眩しく輝く程に気を高めた。
紫苑は、念の風船を一ヶ所 開き、入った。
珊瑚と蛟も続く。
そして、慎玄、姫、アオを各々乗せ、海中へと飛び込んだ。
念の風船の穴が閉じる。
アオは飛び込む瞬間、サクラを見た。
(アオ兄、心配しないでっ!)
(解った。任せたぞ!)
サクラが咆哮を上げる!
♯♯♯♯♯♯
大渦から離れ、海底へと突き進んだハクとフジは、大渦の真下に神殿を見た。
「怪しさ満点だな」
「ええ」
神殿の中央部分には天井が無く、その下の空間から渦が発生していた。
「天井の穴からは入れそうにねぇな……」
「入口は正面のみのようですね」
「なら、簡単だ♪」顔を見合わす。
「正面突破だ♪」「正面突破ですね」
二人は笑った後、表情を引き締め、
「行くぞ!」「はい!」
魔魚を蹴散らしながら、一気に神殿の中央へと進んだ。
中央の広間、その真ん中には、巨大な瓶が ひとつ。
渦は、その瓶から発生し、上っていた。
「不気味ですね……魔物が居ないなんて……」
「罠だろうな。でも、まぁ、アレ壊すか」
「そうですね。サクラが心配ですから」
二人が踏み込むと――
神殿が揺れ、広間の入口が閉まった。
続いて天井の穴も塞がる。
「あっ!」とたんに室内が激しい渦と化す!
フジは一瞬、激しい流れに翻弄されたが、渦に逆行して泳ぎ、相殺して静止した。
「ハク兄様! 掴まって!」
ハクがフジの尾を掴む。
「助かった~ フジ、ありがとな」
「私は逆行するだけで精一杯です!
瓶をお願いします!」
「任せろっ!」
キンから借りた剣をブン投げた!
瓶、真っ二つ。
渦が収まった。
ハクは剣を拾い、瓶の底に鏡を見つけ、回収した。
「さて、どっか壊して戻るか~」
『そうは参りませんよ』ほ~っほっほっ♪
♯♯♯
この声……
中央の広間の前で、扉を破壊しようとしていた紫苑と珊瑚が顔を見合せた。
『せっかく捕らえた竜、易々逃がすなど、有り得ません!
今度こそ、主様に献上させて頂きますよっ』
声が高くなっているし、口調も変ですが、
この総毛立つ感じ……
間違いありません!
ですが……奴は、母様が抹殺した筈……
「確かめましょう」「そうね」
紫苑と珊瑚は頷き合った。
♯♯♯
中央の広間の壇上に、魔物が姿を現した。
「『今度こそ』って……
誰だ? アイツ」ハクが首を傾げる。
「さぁ……」フジが肩を竦める。
ズズズズズ……ン……
入口扉が崩れ落ちた。
濁りが流れ去っていく。
「馬頭鬼! 何故、お前が居る!?」
紫苑の声が凜と響く。
「これはこれは、御狐殿♪
ますます美しい毛並みに磨きが掛りましたな♪」
ほっほっほっ♪
「主様に再生して頂いた私に、もはや敵など居な――」
馬頭鬼が消えた。
――のではなく、背後の壁を突き破って、吹っ飛ばされていた。
紫苑がフンッと息を吐く。
気色悪さが増しただけではありませんか!
紫苑と珊瑚が床を蹴り、光の矢となって、馬頭鬼を追って行った。
遠くで閃光が走り――
二人が戻って来た。
ハクとフジが、この広間に来る途中、蹴散らしていた魔魚達を回収し、浄化していた四人も合流した。
「およ♪ 砂漠のと似た玉が有るぞ♪」
姫が指した柱に、三眼の玉が光っていた。
沢山ある柱のうち、八本に玉が埋め込まれていた。
八つ目の玉を回収した時、これで終わり、とでも言うかのように、神殿が崩れ始めた。
浮上すると、サクラが宙で念の風船をぶら下げて、嬉しそうに尾を振っていた。
(頑張りましたね)
(よくやったぞ!)
(偉いぞ。サクラ)
(もっと褒めて~♪)きゃっきゃっ♪
竜達が、念の風船に包まれた船をそっと降ろし、紫苑と珊瑚が、念の風船を解除した。
皆が人姿になった事を確認し、蛟は航海士の部屋に向かった。
渦の海域を抜けた船は、
再び、穏やかな海を進んでいます。
兄弟は、アオの部屋に集まりました。
桜(ヒスイ! また、アオ兄が!)
翡【うん。また抉じ開けようとしているね】
桜(大丈夫なのっ!?)
翡【大丈夫……たぶん……
アオは無意識なんだ。
ただ一緒に戦いたがってるだけ。
少しの辛抱だよ】
桜(でも、俺の方も弛んでるよ!
大丈夫じゃないでしょっ!)
翡【大丈夫だよ……私が全力で抑えるから……】
桜(無理しないで!
ヒスイが消えちゃうのは嫌だよ!)
翡【消えるなど……ないから……ね……】
桜(アオ兄より、俺のを閉めて!
開きそうなんだ!
俺に戻ってよ!
アオ兄の気を逸らすからっ!)
翡【そう……うん。それが良さそうだね】
桜(お帰り、ヒスイ。悪いけど、早く!)
翡【ごめんね……サクラ……】
力を使ったんだから、眠ってね……
私が、ちゃんと抑えるからね……




