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三界奇譚  作者: みや凜
第二章 航海編
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航路へ1-クロの決意

 前回まで:やっと航海に戻りました。


 島を出た夜、日付けが変わろうとしている頃、クロが甲板に出ると、ハクが夜風に当たっていた。


「ハク兄、こんな時間に、どうしたんだ?」


「いや……なんとなく、なんだが……」

夜空を仰ぐ。


「ハク兄もか……

また、闇黒色の魔物がウロついてるのかな……」


「そう思って探ってたんだ。

無闇に飛んでも仕方ねぇからな。

あ、そうだ。

その魔物の話、兄貴からは聞いたが、クロからも聞きたい」


「あ、うん」


 クロは、闇黒色の魔物が、神竜の魂を捕らえ、どこかに運ぼうとしていた事、

同じような小さな檻を持った魔物が、闇の穴に入るのを、キンが見た事を話した。


「神竜の魂を集めて、何する気なんだろな?」


「オレにはサッパリ分からないけど、気になるから、巡視だけは しとこうと思って……」


「それで、もう一回、と出て来たのか」


クロは頷き、少し逡巡していたが、

「オレ……

この事が気になってて行動できてないんだけど……

今、考えてる事が有るんだ」


「ん?」


「こないだ、その魔物と遇った後、キン兄と話してて、オレだけ何にも無いな、って思ったんだ。

だから、長老の山(やま)に行って、皆の役に立てる術か技を会得したいと思ってるんだ」


「ん?

クロに何も無いなんて思っちゃいねぇが、今後の為に、新たに何かを会得するのは、悪くねぇな。

いつ行く?」


「今すぐにでも行きたい!

……けど……」


「俺は、暫く船に居るつもりだ。

闇黒色の魔物の件は、俺が引き継ごう」


「ハク兄……」


「行ってこい」ニヤリ


「うん! ありがとっ!」


二人は夜空に舞い上がった。


「んじゃ、ここで。頑張れよ!」


「おう!」

黒輝の竜(クロ)は、一気に天界へと飛んだ。




♯♯ 天界 ♯♯


 夜明け前、クロは長老の山に着くと、真っ直ぐ書庫に向かった。


 こんな早くに誰か居る?


静かに進んで行くと、書庫の奥で前王二人が、本の山に埋もれるようになって読み耽っていた。


「何を調べてるんですか?」


「おぉ、クロ、どうしたんじゃ?」


「オレ、何か術か技を会得したくて……」


「そうか……うむ。

クロならば、俊敏さを活かせる術技が良さそうじゃな」


「なら、曲空(キョックウ)なんぞ、どうじゃ?」


「それは良いな。ムラサキ、出来るのか?」


「出来なくはないが……この山、どうする?」


「それでしたら、私にもお手伝いさせてくださいな」

モモの穏やかな声が聞こえた。


「でも、お手伝いの前に……

ちゃんと、お食事も、なさってくださいな。

隣の部屋に運んでありますから」


「あ、ああ……すまんなぁ」

よっこらしょ、とシロが動いた時、本の山が少し崩れてしまった。



 モモが近くに落ちた本を拾い上げる。

かなり古そうな、その本の開いた項を見て――


「封印解放の術ですね……」

何か運命的なものを感じ、モモは栞紐をその項に挟んで、本を閉じた。

そして、蛟を呼び、何事か告げ、

「さぁ、食事にしましょう」にっこり



♯♯♯



 食事の後、ムラサキとクロは、修練の山に向かった。




 書庫の奥で、モモはシロに、

「アオの封印を解こうとしているのですよね?」


「どうして……それを……」


「先日のミドリ殿の騒ぎの件も、あながち、思い違いなどではないのでしょう?


アオだけが……

あの真面目で優しい子が、人界に行ったっきり、一度も長老の山(ここ)に顔を出していませんからね。

きっと、何か有ったのでしょうし……

人界に行って直ぐに、ハクが突然、医者になる、と言い出した事から考えても、本当に行方が知れなかったのでしょう?


でも……

あの時、フジは、アオと一緒に居た、と言いました。

あの子は嘘がつけません。

ですから、アオは、見つかったばかりだったのでしょうね。


フジとサクラの様子から、アオが元気そうな事は伝わってきました。

でも、アオは来ない……

それなら、飛べなくなっている。

境界を越えられない、と言った方がよろしいのかしら。


その辺りと考えるのが普通でしょ?」


「普通……のぅ……

いや、神の如き洞察力じゃ……」感服……


「先程、あなたが落とした本には、強力な封印解放の術が書かれているようです。

今は、後世に付加された解説しか読めませんが、解読してみせますよ」

にっこり


「ワシにも見せてくれるかの」


「ええ」開いて見せる。


「…………古過ぎて全く読めん」


「比較的、新しい箇所から読み進めていきますので、時間が掛かるとは思いますが……

私にお任せ願えますか?」


「モモ様、宜しくお願い致します」苦笑い。



♯♯♯♯♯♯



 一方、修練の山では――


「『曲空(キョックウ)』とは、空間を捻じ曲げ、二つの地点を瞬時に移動する技じゃ。

お前さんの俊敏さ、風を操る能力と巧く絡めて使えば、敵を翻弄し、強力な技を繰り出す事が可能となる。

風属性の攻撃技は、距離が長くなればなる程、どうしても威力が落ちる。

じゃから、あの岩を敵とすると、ここから放つよりは――」


ムラサキの姿が消え、一瞬、岩の前が紫に煌めいたと思ったら、岩が弾け、元の位置にムラサキが現れた。


「今のは、見易いよう、ゆっくりやったがの。

敵眼前に曲空し、技を放ち、別の場所に曲空。

それだけでも風技なら威力が増す。

どうじゃ? これをやってみるか?」


「はい!♪」

クロの瞳がキラキラする。


こうして、クロの特訓が始まった。




♯♯ 人界 船上 ♯♯


「クロ~ 、何処に()るのじゃ~?」


アオの部屋の扉から、サクラが ぴょこっと顔を出す。

「いないよ~」


「もぅ、買い出しに行ったのか?」


「ううん、上に行ってる」


「上?」サッとサクラに寄り、

「天界か?」声を潜める。


「うん♪」


「買い出しには戻って来るのか?」


「『暫く戻らねぇからな』だって~」


「くノ一達が、食材が尽きると申しておるのじゃが――」


「んじゃ、俺が乗せて行こう。

洞窟に用が出来たんでな。

空龍さんの治療の後でいいか?」


「そぅして頂けると有難いが――」更に声を落とす。

「よいのか?

兄上に、そのよぅな事をさせても……?」


「おっ♪

今日は、カワイイ事 言ってくれてんじゃねぇか♪」

聞こえたらしい。


「クロの代わりに、遠慮なく使えばいい。

アオ、行くぞ」


「料理はムリだがなっ♪」

と、笑いながら、航海士の部屋に向かって行った。


「……そっくりじゃのぅ」

 もちろん、何枚も上手そうじゃが……


「クロ兄、ハク兄が大好きなんだ♪

だから『まねっこ』なんだって~♪」


「そぅなのか……」

 クロが『まねっこ』とは……

 兄弟といぅのは、面白いものじゃのぅ。


 して、『暫く』とは?





凜「クロ、『暫く』は、どのくらいなの?」


黒「会得するまでだ」


凜「なんで、今?」


黒「オレだけ、ダメダメなんてイヤだからな」


凜「カッコつけたいんだ~」


黒「んなんじゃねぇよっ! どっか行けよ!」


凜「姫にイイトコ見せたいんでしょ?」


黒「うっせーーーっ! んなコトあっかよっ!」


凜「顔、赤いよ♪」


黒「怒ったからだっ!」


凜「またまたぁ~♪」


黒「オレよか、フジを観察しろよなっ!」


凜「ん♪ 確かに、そっちも大事だわ♪」


黒「オレの事は暫く放っといてくれ。

  真面目に修行するんだからな」


凜「ふぅん。じゃ、頑張ってね~」


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