旅立ち7-竜
アオは記憶を封じられているようです。
心の底から心配してくれている この人は、
兄さんなんだろうな……
でも……
ここに居る皆が兄弟だとして、
山賊というのは如何なものだろう――
「ワラワは中の国の姫なのじゃ!
ワラワが命じておるのじゃから、何を話しておったのか申すのじゃっ!」
陰陽姫の背に隠れて、姫が騒いでいる。
「山賊風情に断る余地など無いのじゃ!
さっさと申すのじゃ!」
銀髪が肩を竦める。
「私達は山賊などでは無い。
兄弟で静かに山奥で暮らしていたら、そう呼ばれるようになっただけだ」
金髪が姫に答えた。
「勝手に集まって来た、はぐれ者には、畑仕事や狩りや料理などを教え、人らしく暮らせるようにしている。
悪評など無かったであろう?」
「確かにのぅ……じゃからワラワは、海賊は改心させたが、山賊討伐はしなかったのじゃ」
「納得したのならば、静かにして欲しい。
私はアオと話したいのだ」
「ふむ……静かにさえしておれば、ワラワも聞いてもよいのか?」
金髪は姫をじっと見、フッと笑うと、
「構わない。
そちらの二人も座りなさい」椅子を指した。
金髪はアオの正面に座った。
「アオ、目を閉じ、気を鎮めるのだ」
「……はい」言われた通りにした。
姫と陰陽師達が見詰める中、金髪はアオの額に掌を翳した。
金髪が小さく何かを唱えると、その掌から、やわらかな光がアオの額へと流れた。
アオは温かさを感じ、続いて、気持ちが落ち着くのを感じた。
「難しい封印だな……」呟いた。
「何をしたのじゃ?」声を潜めて尋ねた。
「確かめただけだ。
アオ、目を開けていい」
アオが目を開けると、金髪が悲しげに微笑んでいた。
「今は全てを話す事は出来ない。
しかし、少しだけ伝えておく。
理解出来ぬ言葉も有るだろうが、今は、ただ、聞いて欲しい」
「はい。兄さん……なんですよね?」
フッ……。「そうだ。
ここに居るのは皆、アオの兄弟だ。
私達は魔物から三界を護り、いずれ平和を齎したいと願い、人界に来たのだ」
『三界』?
人界の他に二つ『界』が存在するんだな。
その、どちらかの『界』から来たのか――
「アオは何故、この洞窟に来たのだ?」
「俺が住んでいた村が魔物に焼かれ、十左が行方不明になってしまったから……魔物退治をしながら、十左を探そうと旅に出たんです。
洞窟に来たのは、竜ヶ峰の大滝に行きたくて、近道を聞く為に。
教えてくださいますか?」
「ふむ。ならば、後で送らせよう。
魔物退治か……ならば、目的は同じだな。
しかし、無理はするな。
本来のアオならば、心配はしない。
しかし、今は記憶だけでなく、力も封じられているのだからな」
「封じられておって、あのバカ力なのか!?」
「ん? そうか……。
ならば、剣も普通にならば使えるであろうが、魔物と戦う為には、その封じられている力が必要なのだ。
本来の力は出せぬ、という事だけは念頭に置いておくように」
本来の力、か……。
金髪は陰陽師達の方を向いた。
「魔界にも、いずれ行く。
二人も、その力、開かねばならぬ」
陰陽師達が顔を見合わせる。
「お教えくださり、ありがとうございます」
「更なる力が開くよう、精進致します」
二人、揃って礼。
「アオが、ここに居てくれるのならば、話したい事は沢山有るのだが……今は成したい事が有り、仲間も出来たのだな」
頷き返す。
金髪はフッと笑うと、黒髪に向かって、
「クロ、大滝まで送ってくれるか?」
「あ、おう」立ち上がる。
金髪は、アオに背を向け、
「やり遂げるか、行き詰まったならば、また来ればいい」
奥に向かって行った。
扉? まだ奥が有るのか。
銀髪が続いて扉の向こうに入った。
♯♯♯
「アオ、来いよ」クロが出口に向かった。
姫が真っ先に弾んで付いて行く。
アオと陰陽師達も歩き始めた。
「クロと申すのか?♪」「ああ」
「黒髪じゃからか?♪」「まぁな」
「赤髪はアカなのか?」「そうだ」
「淡い紫の髪の者は?」「フジだ」
「ガラの悪い銀髪は?」「ハク兄」くっ♪
「偉そぅな金の髪は?」「キン兄」ぷっ♪
「クロは笑ぅておる方が良いぞ♪」
「あ……うっせぇっ!」ぷいっ。
姫に外方向いたら、アオと目が合った。
頬が染まっているクロを見て、アオが くすくす笑う。
「笑い方……変わってねぇな」「え?」
先頭になっていた姫が振り返った。
「何故、見つめ合ぅておるのじゃ?」
「な、何でもねぇよ! サッサと行けよ!」
「兄弟でアヤしいヤツらじゃ♪」ふふん♪
「うっせーーっ!!」姫、逃げる。クロ、追う。
駆けて行った姫とクロに続いて洞窟を出ると――
夕暮れの空から、桜色に輝く美しい竜が降りてきた。
「あれに乗るのか?♪」
姫が嬉々としてクロに尋ねる。
「あ……いや……」
クロがモゴモゴ言っているうちに、竜は どんどん近付き――
一際輝いた後、小さくなり、やがて人の姿になった。
高い位置で束ねた桜色の長い髪を靡かせて、アオと同じ顔の、妙な身なりの男が走って来る。
見た目は同じだけど……少年?
この気……十左の家で感じていた気に似ている。
「アオ兄ぃぃぃ~♪」
ぱふっと抱きつく寸前、クロが制止した。
「話は、また今度だ」
「……今度、絶対だからねっ!」ぷぅ。
「ああ、今度な」ぽすぽす。
「アオ兄、またね~♪」
大きく手を振りながら、桜髪は洞窟に入って行った。
俺の髪……青くない……筈だよね……?
これも力を封じられているからだろうか?
七人兄弟なのか……流石に、もう増えないよな?
七人……何かが――
引っ掛かるものは有るが、思い出すことはできなかった。
黒「ハク兄。アオは、どうしたんだ?」
白「兄貴ですら、アオの力が感じられねぇらしい」
藤「どういう事なのですか?」
白「封じられてるんじゃねぇか、だと」
黒「オレ達の事が分からねぇ、ってのも――」
白「ああ。記憶も封じられてそうだな」
藤「では、すぐに解呪の術を調べましょう!」
白「だな」
黒「そういや、サクラは?」
藤「そうですね。どうして、サクラが
軍に呼ばれたのでしょう?」
黒「まさか、戦力外だってバレて……」
藤「強制送還なんて、ありませんよねっ」
白「術の件、長老の山に行かなきゃ
なんねぇから、軍に寄って、
サクラは必要だと証言してくるさ」
黒「ハク兄が証言すれば大丈夫だなっ」
前回、背を向けていた四人(アカは無言ですが)
は、こんな事を話していました。




