絆の島18-再び海へ
航海編が終われば、投稿は緩やかにしようと思っていますので、ゆるゆるお読みください。m(__)m
翌日、昼前に船の修理は終わった。
船大工達には、入江の船に乗ってもらい、皆で見送り、船室に入ってもらった。
「往きと同じく、港に着くまで、ここに居てください」
キンも乗り込み、そう告げた。
「船主さん、解っておりやす。
詮索、他言無用でござぃやすね」
「すまないが、宜しく頼む」
「申し訳ございませんが、国の行く末がかかっております。
どうか、そのように宜しくお願い致します」
蛟が木箱を持って入って来て言った。
「ただ、『異国で修理していた』とだけ。
ご家族にも、そのようにお願い致します」
「解りやした、御家老様」
「漂着したのが無人島でしたので、このような物しか用意できませんでしたが、宜しければ、ご家族へのお土産にして下さいませ」
蛟は木箱を棟梁に渡した。
中には、蛟とアカが作った装飾品や玩具が入っていた。
「至れり尽くせりで、恐れ入りやす」
くノ一達が弁当を運び込み、クロが酒樽を担いで入って来た。
「昨日は受け取って貰えなくて、姫様に叱られましたから、これは受け取ってくださいねっ」
ドゥン! 大きな樽を置いた。
「料理頭様、そんな大きな樽なんぞ、動かしようがござぃやせんよ。
有難く頂戴いたしやす」深々と頭を下げ、
「毎日、最高に旨いモンを腹一杯、ありがとうござぃやした」
船大工、皆で「ありがとうございました!」と続いた。
「毎日、気持ち良く完食してくれて、ありがとなっ!」
クロは、手を振って船室を出た。
キンと蛟も船室から出た。
キンは扉の前に立ち、
『これ動くぞ♪』『すげぇな』『不思議だな』
『キレイだなぁ』『何で出来てるんだろな~』
『やっぱ旨ぇなぁ』『饅頭の土産も有るぞ♪』
わやわやわや――
聞こえてくる声に、あたたかい気持ちになりつつ、何日も家族から離してしまって申し訳なく思っていた。
こんな風に思えるようになったのは、
クロのおかげ、かな……
♯♯♯
昼食後、沖に停めた船に、白銀の竜が空龍とリリスとアオを運んだ。
「先に治療の準備をしてますので、ハク兄さんを連れて来てください」
アオが竜の鼻先を撫で、竜が小さく鳴く。
「その小さく鳴く返事、可愛い~♪」
リリスも鼻先を撫でに来たので、もう一度 鳴く。
「リリス、行くよ」空龍が笑う。
三人が船室に入ると、ハクは人姿になった。
なんか こういうの 面白ぇ♪
甲板で、少し海風に吹かれてから、ハクは航海士の部屋に向かった。
♯♯♯
アオとハクが空龍の治療をしている間に、草地を片付け、荷物や人を運び――
クロとフジとサクラは、めまぐるしく人になったり、竜になったり、生き生きと楽しそうに動いていた。
これが『普通』に なればのぅ……
いや、これを『普通』に せねばの!
姫は竜達に向かって駆けて行き、人姿になった瞬間のクロの背に飛びついた。
「なっ! 何すんだよっ!」
「俺も~っ♪」サクラが正面から飛びつく。
「ぅわっ!!」
よろけたクロをフジが受け止める。
姫とサクラが笑う。
フジも つられて笑う。
クロも笑った。
「何なんだよ~」笑いながら言った。
「ワラワは――」
生きているうちに、必ずや
先程の光景を『普通』にする!
「――竜が大好きじゃっ!♪」
♯♯♯
船が動き出した。
小さくなっていく島を眺めながら、
「オレ達には 見えてたよな……」
「見えてたね~」
「蛟も見えてたのか?」
「はい、見えておりました」
「人にだけ、見えない島だったのかな……」
『闇』が一体 何だったのかは、
分かんねぇままだけど、
魔物だとしても、そんなに強い力は無くて、
聖霊を囚え込んで、やっと生きていた奴
なんだよな。きっと……
空を飛んでいると、強力な魔物しか
察知できねぇけど、
こうやって、ゆっくり進むと、
いろいろなモノが見えるんだな……
治療を終えたアオ達が出て来た。
航海士父娘が感慨深げに島を見詰める。
藤紫の竜が飛んで来た。
船の上空を旋回し、東へと飛び去った。
島が遠くに霞んで見えなくなった。
ほんの少しだけ名残惜しいクロだった。
♯♯♯♯♯♯
フジは、姫から預かった書簡を届ける為、中の国の城に寄った。
門番に声を掛けようと、口を開きかけた時、
「これはっ!
竜ヶ峰 藤之丞様っ!」ズザッ!! 門番 平伏!!
フジ、絶句……
「本日は、如何なる御用向きで御座いまするかっ!」
「あ……御家老様か、志乃様に――」
「はっ! 直ちにっ!」
書簡をお渡し頂ければ、
それだけで よかったのですが……
クロの時と同様、だだっ広い豪華絢爛な部屋に通され、家老と志乃が慌てて やって来た。
手紙を読み――
「御無事で出航されたのですね……
安堵いたしました」胸を撫で下ろし、
「それで――」ずいっと詰め寄る。
「でじゃ――」家老も、ずずいっ!
「えっ?」フジ、仰け反る。
「姫様と黒之介様は、その後……?」
それは……クロ兄様の事ですよね?
「その後とは?
私は、他所に行っていましたので……」
「藤之丞様が立ち寄られました時、仲良くされておりましたか?」
先程から、その名前……姫様の仕業ですね?
「ええ、仲良くされていましたよ」にっこり
「そうですか♪」「これで安泰ですな♪」
嘘は申していませんが……
なんだか……
よかったのでしょうか……?
♯♯♯♯♯♯
「クロ♪ 今日の甘味は何じゃ?♪」
「今日は甘魅了に作ってもらえよ」
「何故じゃ?」
「もう夕食を仕込む時間だからな」厨に向かう。
「天界一の料理人とは、その程度なのか?」
「何ぃ!?」
「ササッと美味なるものを作れてこそ、頂を名乗れるのではないのか?」
「言ったなっ!!
よぉし! 目にもの見せてやる!
いや、味わわせてやっからなっ!!」バタン!
厨の扉が閉まり……姫はニヤリとした。
あ~あ……すっかり掌の上だなっ。
そんな二人を見て、ハクはニヤニヤしていが、静かに蛟の部屋に入った。
♯♯♯
そして、夜――
アオとサクラが部屋で話していると、ハクが入って来た。
「アオ、巡視に付き合え」
「え?」ぱちくり
「俺の背に『竜使い』として乗ってくれ」
後ろ手に隠していた物を見せた。
「また、カツラ!?」今度は銀の……
「だから、真面目な医者してるんだっ♪
アオが真似し易いだろ? んじゃ、行くぞ♪」
「俺も~♪」
「なら、人でだぞ。
あ、そうだ! 『竜呼び』しろよ♪」
「それなぁに?」
「『竜使い』なんだから、それっぽい事しねぇとなっ♪
指笛でも鳴らすか? で、手を振るとか。
どうだ?」
「そのくらいなら……」
「じゃ、決まりだ。行くぞ♪」
サクラと銀髪カツラのアオは前甲板に、ハクは後甲板に向かった。
前甲板には航海士父娘が、左舷にはクロと姫が居た。
後甲板から白銀の竜が飛んだ。
「こんばんは」
前方を見ていた航海士父娘が振り返る。
「ああ、ハク先生、こんばんは」「こんばんは♪」
挨拶を交わした後、ハクは指笛を鳴らし、手を大きく振った。
白銀の竜が飛来する。
「ハク兄、どこ行くんだ?」
「巡視に行くから、ゆっくりしてろ」
「サクラもか?」
「ついてく~♪」
「では、行って参ります」と、航海士父娘に。
竜の背をポンッと叩くと、白銀の竜が小さく鳴き、上昇した。
「兄弟皆のカツラを作っておるのか?」
「さぁ……知らねぇ」
アオ達が甲板に出る少し前、
姫はクロを左舷に呼び出した――
黒「今度は何だよ~」
姫「フジは船に乗らぬのか?」
黒「あの話を仕上げるまでは来ねぇだろうな」
姫「さよぅか……」
黒「どうしたんだ? 会いたいのか?♪」
姫「いや、そうではなく……耳を貸せ」
黒「ん? しゃあねぇなぁ。
ちゃんと返せよ。んぁっ! 痛っ!
引っ張るなって!」
姫「さっさと貸さぬからじゃ。
それに、何故、嫌そぅな顔を――まぁ、よい」
姫はリリスを見ながら、こしょこしょこしょ――
黒「まさか……」
姫「じゃと、ワラワは思ぅとるのじゃ」
黒「これから、よく見ておくよ」
姫「うむ♪ そちらは頼むぞ♪」
姫は話の内容よりも、クロと話せるキッカケが
できた事の方が嬉しかった。




