絆の島17-姫の家臣
前回まで:竜の兄弟は初めて一緒に眠りました。
空龍の治療をした後、キンに呼ばれ、ハクとアオは食卓に戻った。
「ハク、空龍殿の治療は暫く掛かるのだろう?
こちらに居ても構わない」
「兄貴は?」
「私は船が出たら洞窟に戻る。
長老様方が千里眼で話し掛けられた際に、長く不在となれば、要らぬ心配を掛けてしまうからな」
「そうだな」
「あとは……クロは、こちらの方が良さそうだな」
遠くで姫とサクラの遊び相手をしているクロを見る。
「アカとフジは、その作業を何処で続ける?」
「工房」
「私も洞窟の部屋で続けたいです」
(サクラ、アオと共にだな?)
(うん♪ ずっと一緒~♪)
(うむ)
「アカ、また船大工の船を押して欲しい」
「ああ」
「フジは、船を見送ったなら、
アカを乗せている事にして飛んで欲しい」
「はい」
キン兄さんは、やっぱり、きっちり決めるんだ。
うん。随分、思い出せている気がする。
そうか……
今回は、誰の振りも しなくていいんだな。
まぁ、サクラでなければ、
やってもいいとは思うけど……
「船主さん、お邪魔しても構いやせんかぃ?」
棟梁が現れた。
「ええ、何でしょう?」キンが応える。
棟梁とアオの目が合った。
「へっ!? ふ……二人!?」
「ああ、双子なんです。お気になさらず」
「そ、そうでやしたか……」
「それで?」
「ああ、そうでやしたな。
船が、もうすぐ仕上がりやす。
昨日から、追い込みかけておりやしてね。
明日の朝から、最終確認いたしやすんで、何事も無ければ、午後には出られやす」
「急がせてしまって、すみませんでした」
アオが頭を下げる。
「いえ、お待たせしやして、すぃやせん」
「そぅか、ならば、報酬の話じゃな」
いつの間にか、姫とクロが来ていた。
「姫様!」
はは~っ! と平伏しかけたのをクロが止め、話を促す。
「いえ、それなんですがね。
前金を頂いておりやすし、材料は揃えて貰いやしたし。
毎日、旨いモン食わせて貰って、上等の酒まで頂きやしたから、もう、その上になんぞバチが当たりやす」
「そぅは言ぅてものぅ……
用意したもの、引っ込めるなど出来ぬぞ。
よぅ頑張った褒美じゃ。受け取るがよい」
サクラが千両箱を持って来た。
「はいっ♪」二箱 重ねたまま渡そうとする。
「ど~ぞっ♪」ポイッと投げかねない。
(投げるなよ!)(は~い♪)
姫を見る。 姫が頷く。
船主を見る。 船主も頷く。
軽そうに持ってるし……
中身は詰まってないのやもしれんな……
「では……一箱だけ……」
おずおず手を伸ばし、持っ――
ズシッッッ!!
棟梁、腰二つ折りになって、千両箱が地に めり込む!
どんだけ入ってんだ!?
てぇか、千両箱ってヤツぁ
こんな大きかったか!?
棟梁が目を白黒させながら、ギリギリ離した両手を振る。
足も無事だ。確かめて安堵した。
姫を見、サクラを見、振り返って船主を――
やっと、棟梁の視界に、ハク、アカ、フジも入った。
前後キョロキョロと見、
「な、な、ななな――」
「如何した?」
「な、七人!?」
「――が、如何した? 皆、兄弟なだけじゃ。
ワラワの家臣に何か?」ギロッ
あ~あ……
とうとうキン兄まで家臣扱いだよ……
(キン兄は怒ってねぇか?)
(楽しそぉだよ♪)
(なら、よかった……)
同じ顔が七人居るだけで、これじゃからのぅ。
このよぅな衆庶の者が竜を見たら、
腰を抜かすであろぅのぅ……
いや、泡を吹いてしまうかの……
最悪、心の臓が止まってしまうやも……
姫は小さく、ため息をつき、
「サクラ、運んでやるがよい」
「は~い♪」
地面の千両箱も拾い上げ、重ねて、浜に向かって弾んで行った。
「ぁぅ……ぁぅ……」腰を抜かした。
「仕方ないのぅ。クロ、運んでやるがよい」
え~~っ! オッサンをかよぉ……
兄弟達が、笑いを押し殺しているのを横目に、クロは渋々、棟梁を運んだ。
♯♯♯
クロとサクラが戻って来た。
サクラの手には、千両箱がひとつ。
「如何したのじゃ? 渡さず戻ったのか?」
「いや……棟梁が『勘弁してくだせぇ』って泣くから、仕方なく……なぁ」
「『天罰で死にたくないぃ』って……ねぇ」
クロとサクラは顔を見合わせ、頷き合う。
「仕方ないのぅ」姫、少し考える。
「ならば、その出版費用に致そぅぞ♪」
卓上を指す。
皆、一斉に姫を見る。
「空龍殿とリリスの名で、本にするつもりなのじゃろ?」
竜達、頷く。
「まさか、只で出せると思ぅとったのか?」
「無論、費用も渡すつもりではあったが……」
「じゃが、安く出そぅとすれば、出版する側の意向が入ったりするものじゃ。
そのままを本にしたくば、それなりに積まねばならぬぞ」
竜達、顔を見合わせる。
「まぁ、何じゃ。
全て竜任せなのも癪に障るからの。
人にも、一枚噛ませよ♪」
「あ……ありがとう……」
「うむ♪ 決まりじゃな♪」
イキナリ全員 敷かれた……
この姫が、クロの嫁に?
……末恐ろしい限りだ……
姫は鼻歌まじりで、弾みながら去って行った。
その後ろ姿を見送った後、クロに視線が集中したのは言うまでもない。
♯♯♯♯♯♯
夜、兄弟の小屋では――
「あれ? アカとサクラは?」
クロが厨から戻ると、アカとサクラの姿は無く、フジは、まだ書いており、アオは、それを読んでいた。
「アカは、爽蛇に呼ばれて、作業小屋に行ったよ」
「サクラも付いてったのか?」
「そう」
「キン兄とハク兄、もう寝たのか?」
「うん。昨日は寝ていなかったからね」
「そうなのか?」
「明け方まで外に居たよ。
いつ出たのかは知らないけどね」
「オレが起きた時には、寝てたよな?」
「うん、その少し前に戻ったんだ」
「そっか。
なら、サクラを連れ戻さねぇ方がいいよな」
「そうだね。
で、何処に行くんだい?
ああ、姫の所?」
「ちげーよっ!」
アオが口の前に指を立てる。
「あ……
巡視だよ。
洞窟に戻った時にな――」
クロは、神竜の魂に会った話をした。
フジも手を止めて聞いていた。
「――だから、毎日、巡視しようと思ってるんだ」
「それなら私も」
「そっか。ありがとな」
二人が飛んで行くのを見送り、アオは一層、竜に戻りたいと強く思った。
サクラは、アカと蛟の手伝いをしていたが――
桜(ヒスイ、アオ兄は何してるの?)
翡【夜空を見上げてる】
桜(そうじゃなくてっ!)
翡【竜に戻りたがってるんだ】
桜(それって、まさか……)
翡【うん。無意識に抉じ開けようとしてる】
桜(って、平然としてる場合じゃ……
ヒスイ、俺に構わず!)
翡【大丈夫だよ。まだ、私でも……】
桜(無理しないで!
アオ兄の力は大きいんだからっ!)
翡【まだ、なんとか……心配しないで】
桜(嘘! 俺の方が……やっぱり、同調してる。
さっきから、おかしいと思ってたんだ。
あっ……ダメだっ! 開きそうだよ!)
翡【もう少し……
これで大丈夫。アオを眠らせたからね】
桜(ヒスイ……俺の……)
翡【ごめんね。サクラも一緒に眠って……】
蛟「あ……お休みになられてしまいましたね」
赤「昼間、疲れさせてしまった」布団に運ぶ。
蛟「何かございましたのですね?」
赤「うむ。まぁ、な」作業続行。




