絆の島15-一緒がいい
やっと兄弟らしくなりました。
島に集まった天竜王子達は、午後も浜で、白い竜と矢太の話を聞いた。
キンは、絵を描きながら。
フジは、言葉を書き留めながら。
そして、アカも何か書いていた。
六分儀の浮き彫りには無い話も、父娘が新たに思い出した話も有り、リリス女王の想いをたくさん受け止めた兄弟達だった。
♯♯♯
夜になり――
その日は、ずっと船で航海士の部屋を作っていた蛟が、作業小屋に入ると――
竜王子達が全員揃って、狭い小屋に犇めき合っており、卒倒しそうになった。
いやいや!
卒倒などしている場合ではございません!
「いっ、今すぐにっ、寝所を御用意致しますっ!」
深く礼をし、踵を返そうとした時、
「私達は、このまま一緒がいいのだ」
「キン様の御言葉ではございますが――」
「いいって。やっと揃ったんだ。
今日は――ぃてっ! サクラ! やめろって!」
ハクにサクラが じゃれつく。
小屋は明るい笑い声で満ち溢れる。
蛟は、本当に? と、キンに目で伺う。
キンが笑いながら頷く。
然様でございますか……
「……畏まりました」
もう一度、深く礼をして外に出た。
さて、どう致しましょうか……
まだ、船大工達は作業を続けていた。
蛟は、なんとなく灯りの方に歩いた。
しかし、あまり船に近付くと、棟梁が何事かと驚くかもしれないと思い、海沿いに、入江に向かって木々の間を歩いていると、岩場に洞穴を見つけた。
ここで休みましょう。
蛇的には好きな場所なんですよね♪
程よく開けた場所に陣取り、王子達の笑顔を思い出し、温かい幸せに浸っていると――
更に奥から風が吹いていることに気付いた。
確かめてみると、狭い穴が、まだ奥へと続いていた。
蛟は聖獣に戻り、体を小さくし、その穴に入って行った。
狭くて長い穴を進むと、また開けた場所に出た。
「ここは……」
生活の痕跡がある、その場所は、空龍が十数年、暮らしていた洞穴だった。
ですから、時々声が聞こえたのですね……
この島の浜や入江に引き込まれた船の船員達が、蛟が入った海辺の洞穴を塒とした時だけ、彼らの声が届いたのであろう。
その時、
「蛟殿、どちらに行かれましたか?」
紫苑の声が、その穴から聞こえた。
「奥の穴を通ったら、空龍さんの洞穴に抜けてしまいました」
蛟は穴に向かって話した。
「ああ、分かりました。
では、作業小屋の前で、お待ちしております」
「あ……はい。では、向かいます」
蛟が作業小屋に着くと、小屋の灯りは消えていて、宵闇の中で、紫苑と慎玄が待っていた。
「入りましょう」紫苑が扉に手をかける。
「えっ!? ですが……」
「皆様は、あちらです」
慎玄が指したのは、紫苑と慎玄の小屋だった。
「もしかして……」
「二人で使うには広すぎます」にっこり
慎玄が頷き、錫杖を持っていない手で拝む。
「ありがとうございます!」うるうる
♯♯♯♯♯♯
翌朝――
「兄貴達~♪ 朝だよ~っ!♪」
サクラの元気な声が小屋に響く。
「飯だぞ~!」
続いて、クロが小屋に頭だけ突っ込み、大きな声を上げた。
遅くまで じゃれ合い、絡み合うように眠っていた兄弟達が、次々と起き上がる。
「早く起きろよ! 冷めるぞっ」
クロは笑いながら扉を閉めた。
そして、弾みながら厨に戻った。
船大工達が朝食を終え、船に向かった。
それと入れ替りに、竜王子達が食卓に着き、賑やかな食事が始まった。
その様子を、姫は少し離れた所から見ていた。
暫く眺め――
「人も竜も、何も違いは無いのぅ……」呟いた。
「眩しい程に お幸せそうですね」
振り返ると、紫苑と珊瑚が微笑んでいた。
「兄弟とは良いものじゃな♪」
紫苑と珊瑚は、揃って大きく頷いた。
そして、姫の背を押す。
「さぁ、姫様♪
きちんと ご挨拶なさいましたか?」にっこり
「あ、いや……まだ早――! っっっ!!」
二人に おもいっきり突き飛ばされた。
よろけながら卓に突っ込む。
幸い、食事は終わり片付いていた。
その代わり、卓上には数枚の絵があった。
「これは……」一枚 手に取る。
「なんと美しい絵じゃ!♪」
「まだ、色を乗せていないが、完成したら、あの二人に渡そうと思っている」
キンの視線の先には、航海士父娘が居た。
フジの前には、文字がビッシリ書かれた紙が重ねられていた。
「これは、フジの字なのか?」
「はい。昨日、伺ったお話を清書しています」
書いていたフジが手を止め、答える。
読んで確認していたハクとアオも顔を上げる。
「綺麗な字じゃのぅ……」
「姫、邪魔すんなよ」
片付けを終えたクロが、後ろに立っていた。
「邪魔などしておらぬ!」むっ!
「話しかけたら、集中 途切れるだろ」
手首を掴まれ、連れて行かれた。
クロに手を引かれ、浜に向かって歩いていると、逃げるサクラを追いかけているアカに、ぶつかりそうになった。
「サクラも邪魔すんなって!」
クロは姫を置いて、サクラを捕まえに行った。
「あ……
アカ殿、先日は素晴らしい剣を頂き、忝のぅございまする」
ペコリ
「あ……ああ……また、折れたら言え」
「折れるなど……
あの しなやかさ、扱い易さ、粘り強さ、鋭さ、いずれをとっても折れるなど考えられませぬ。
アカ殿、誠に――」ぽこっ
クロが後ろから叩いた。
「っ! 何をするのじゃっ!」
「なんでアカだけ『殿』付いてんだ?」
「クロの兄上じゃろ?」とーぜん!
「兄……」「ねっ♪」
アカとサクラがクロを指す。
「へ!?」
「とにかくっ! お前ら! 邪魔すんなって~
サクラ、アカにソレ返すんだっ」
「は~い♪ アカ兄、ごめんねっ」
「うむ」組紐の束を受け取り、背を向ける。
「折れる事もある。いつでも言え」
卓に向かった。
姫はキョロキョロと、アカとクロを見比べ、笑い出した。
何故かサクラも一緒に笑う。
「何、笑ってんだよっ」
「か、貫禄がっ……風格がっ……」あははははは♪
「そぉだね~♪」ケラケラケラ♪
「お前ら~~~」ふるふるふる……
「逃げるのじゃ♪」
「うんっ♪」
「待てよっ!!」
新たな鬼ごっこが始まった。
♯♯♯
「随分と楽しそうだな……」
「兄貴も混ざってみれば?」
「なっ……」キンが ひきつる。
笑いが溢れ零れた。
凜「キン様、楽しそうですね」
金「そうだな。もっと早く、こうしていれば
良かったのだが……」
凜「まだまだ、これからが長いんですから、
これまでの二百年分なんて、
すぐに取り返せますよ~」
金「そうか……確かに、そうだな」フッ……
凜「そうそう♪
ちゃんと、ハクさんも覚悟決めたんだし、
これから、しっかり兄弟ですよ!」
金「ふむ。
しかし、凜に慰められるとは、
私もまだまだなのだな」
凜「ど~ゆ~意味でしょう?」
金「いや、深く考えないで欲しい。
それより、クロが王太子にならないよう
考えたのだが、聞いてくれるか?」
凜「はいはい♪ 何なりと~♪」




