絆の島13-前王達
翁亀様の長い話が終わりました。
その内容は、これから少しずつ出てきます。
♯♯ 天界 ♯♯
「それでは、翁亀様、ありがとうございました」
ハクとフジは、丁寧に頭を下げた。
翁亀は、うんうんと頷き、
「また、話し相手に来い。待っとるぞ」
「はい♪ もちろん、団子を持って参ります」
翁亀は、「当然じゃわい」と笑い、
「ではな。気をつけて帰れ」
「はい!」
白銀と藤紫の竜は、湖を後にした。
翁亀は、目を細めて二人を見送り、湖のお気に入りの場所に沈んだ。
満開の桜の大木が風に揺れ、小鳥の囀ずりが静かな湖を満たしていた。
♯♯♯♯♯♯
ハクとフジは、長老の山に向かっていた。
「俺は調べものがあるから、フジは先に人界に戻ってくれ」
「私も一緒に探しますよ。
書庫の事は、ハク兄様より詳しい筈です」
「確かにな……
書庫のヌシに来てもらえると有難い」
「ヌシって……」ははは……
「俺は、アオの封印解除の方を調べる。
フジは『華雅の四眼』の方を頼む」
「わかりました」
♯♯♯♯♯♯
あの、玉を収めた宝剣は、その名を『華雅の三眼』という。
対となる四眼と共に生み出され、二剣の見た目の違いは、柄の大玉の数のみ。
華雅の宝剣は、三眼・四眼 揃って、はじめて、その力の全てを発揮できるのだそうだ。
ただ、四眼に関しては、太古の昔に魔物に奪われ、行方不明となったままであり、今も存在しているのか、それすら判らない。
戦記を調べていけば、剣そのものの目撃情報は無くとも、四眼が持つ力が発揮された記録を、拾い集める事が出来るかもしれない。
これまで、三眼の玉に、四眼の玉が混ざって発見されていない事を考えると、
四眼は、既に存在しない、または、完全な形で何処か――おそらくは、魔界か神界に有る。
そのいずれかであろうと、翁亀は語った。
♯♯♯♯♯♯
「何かの間違いで、天界や人界に隠れてれば、いいんだけどなぁ」
「そうですね……」
長老の山に着いた。
書庫の重厚な扉を開くと、膨大な書物のムッとする匂いに迎えられた。
上も奥も霞むほど広い空間に、巨大な棚が並び、それこそ数えきれない書物が、ビッシリと詰まっている。
「古い方から虱潰しだな……」最奥に向かう。
――と、
蛟が数人、捜し物をしているようだった。
「あれは……シロ爺の蛟っぽいな」
「モモお婆様の蛟も、おりますね」
蛟達は、目的の書物を見つけると、一ヶ所に集めているようだった。
その場所に向かうと、本の山に埋もれるようになっているシロが、一心不乱に読み漁っていた。
「シロお爺様……?」
フジが声を掛けると、シロは顔を上げた。
「亀ジジィの話は、済んだのか?」
「はい。
それで、調べものをしに参ったのですが……」
シロは二人を手招きし、声を潜め、
「アオの封印解除の術じゃろ?」
二人は頷く。
「ワシにも手伝わせろ」
「えっ!? でも、爺さん――」
「訳も解らず調べられるのか?
と、言いたいんじゃろ?」ニヤリと笑う。
「何も言わんでええ。
お前さんらとは、年季が違うからのぅ」
「いや……でも……」
「つべこべ言わず、オレに任せろ。
お前らには、人界で成すべき事が有るだろ」
いつものシロの声とは違う、低く張りの有る、威厳に満ちた声が響いた。
シロ王様、再来!?
フジにとっては、先日のモモに続き、二度目の衝撃だったが――
普段は優しい祖父母も、つい最近まで、王と王妃として、様々な苦難を乗り越えてきたのだと、感慨を以て実感したのだった。
ハクはシロに、アオの封印に関して、話せる限り話した。
「うむ、解った。
では、婆さんから団子を貰って、気をつけて帰れよ」
いつものシロの声。
「ありがとうございます、シロお爺様。
でも、私達は、もうひとつ調べないといけ――」
「何をこそこそやっているのだ?」
唐突に声がした。
シロとは、また違う風格と威厳のある声――
ハクとフジは、聞き覚えのない声に、思わず振り返る。
「儂にも出来ることは有るか?」にこにこ
「ムラサキ……お前……」
「いや、たまたま、本を返しに来たら、声が聞こえてな。
で、その本の山じゃ。
シロだけでは、何日かかるか知れたもんじゃないじゃろ」
普段の声で近付いて来る。
一度、微笑み、表情を引き締めると、
「事情など話す必要は無い。
最前線で戦っている、お前らの手助けをするのが、俺達の役目だ」
ムラサキ王様も御降臨……
「ありがとうございます!!」ハクとフジ。
「書庫で、うるさいぞ」ニヤッと笑う。
「で、何を調べればいいんじゃ?」
ハクとフジは、華雅の宝剣について説明し、その、四眼の痕跡を調べて欲しいと依頼した。
「任せておけ。
勉強嫌いのシロとは違うからな♪」ニカッ
二人の前王は、楽しそうに本の山との戦いを始めた。
ハクとフジは、深々と頭を下げ、書庫を後にした。
♯♯♯
モモに見送られ、山を後にしたハクは、宙に留まり、振り返った。
ここに居る長老達は、皆、
天竜王だったんだよな……
兄貴はともかく、俺は……
「ハク兄様?」
フジが不思議そうに見ている。
「いや……何でもない。行こう」
芽生えた覚悟と決意を胸に、ハクは進み始めた。
「はいっ」
フジにも、なんとなく、それは伝わっており、ひとつ頷くと、兄に付いて飛んだ。
♯♯♯♯♯♯
「ムラサキ、ここは何と書いておるのじゃ?」
「シロ……老眼か?」
「馬鹿を抜かせっ!
まだ、そんな歳ではないわっ!」
「って事は、こっちが悪いのか?」でこツン。
「ぐ……悪かったなっ!」
「えらく古いのを読んでるんだな……
貸してみろ」取り上げ、読み始める。
「……読めるのか?」
「解呪を探しておるのか?」
「封印解除、解放――その辺りじゃな」
「封印か……これは、完全に解呪だな。
呪の封印には……応用は難しそうだな」
「そうか。ならば、他を読むべきじゃな」
「で、誰の封印解除なんだ?」
「詮索無用ではなかったのか?」
「王子達には聞かんが、シロには聞いてもいいだろ」
「ところで……口調が戻ったままじゃぞ」
「長老語は、あんま好きじゃないんだよなぁ」
「なら、オレも戻していいか?」
「こんな奥まで、誰も来やしないさ。
で、誰の封印なんだ?」
「全面協力、他言無用。守れるか?」
「勿論だ。前王として、守ると誓う」
従兄弟というより親友な二人は、これより、戦友となるのであった。
凜「長老様方の、あの話し方は、わざわざ
だったんですか?」
紫「まぁな。本当に年寄りになる頃には、
慣れて自然になるだろうがな」
凜「で、ムラサキ様は、モモ様の事――」
紫「言うなっ!!」
凜「いや、お断りになられた、と
伺いましたが?」
紫「それか……恋愛結婚したかったんだよ。
だから、許嫁など要らぬと――
若さ故の愚かさだよ……」
凜「それで、恋愛は?」
紫「モモさんを見た後に、恋できる女性に
出会えると思うか?」
凜「ですね……それで独身のまま……」
紫「そういう事だよ……」ため息……
凜「でも、シロ様とは親友なんですね?」
紫「幼い頃からな。だから、他の誰でもなく、
モモさんがシロに嫁いだのは、幸いだよ」
凜「ムラサキ様……
まだ二千歳には遠いんですから、
きっと良い事が有りますよ!」
紫「そう信じよう。作者の言葉だからな」
凜「あ……」




